米国の大手銀行シティグループが実質的に米政府の管理下に置かれることになった。政府が保有する優先株を議決権を持つ普通株に転換し最大36%の株を握る。金融危機克服に向けた一歩として評価したい。
昨年9月のリーマン・ブラザーズ破綻以来、金融市場は機能不全に陥っている。銀行間市場でも相手の信用リスクを警戒して金利が高くなり、政策金利引き下げなど金融緩和の効果を薄めていた。米政府が世界最大級の金融機関であるシティの信用の後ろ盾になることで、市場が落ち着きを取り戻すよう期待したい。
シティの経営には今後、米政府が一層関与する。取締役を大幅に入れ替える見通しだが、選任には大株主である政府の承認が必要になる。
外部からの監視は合理化を後押しするだろう。シティは経営危機が深刻化してから資産の圧縮などのリストラ策を打ち出してきた。だが、その後も下落を続けた同社の株価が示すとおり、経営環境の悪化が進む一方で対策は遅れ気味だった。
米国では企業経営に政府が介入することに対し、市場経済の効率性を損なうという強い反発がある。普通株の大幅増加を伴う今回の措置は株価の下げ要因になり、既存の株主の不満もある。発表を受けた27日、シティの株価は39%下げた。
しかし、信用収縮で民間がリスクを取れないような非常時には、政府がリスクの担い手として代役を果たすしかない。大恐慌でも日本のバブル崩壊でも、危機を脱する転機となったのは政府の介入だった。
景気低迷で米銀の経営悪化には拍車がかかっている。米連邦預金保険公社(FDIC)によれば、資本や収益状況の面で経営に問題がある金融機関は昨年末時点で252行と、わずか3カ月で1.5倍に増えた。米政府は大手銀を対象とする資産の査定に乗りだしている。資本不足が明らかになった場合、公的資金注入をためらうべきではない。
一方で政府介入に伴う副作用にも注意したい。「公的支援を受けた米銀は国内向け融資を優先せざるをえなくなる」との懸念が世界の市場関係者の間に広がっている。これまでグローバルな資金の出し手だった米大手銀が政治的な理由で内向きになれば、中南米やアジア、東欧などの金融危機がさらに加速しかねない。米政府や米議会には、そうした事態を防ぐ国際的な責任がある。
政府の介入は、凍り付いた民間マネーが動き出すための呼び水にすぎない。できるだけ短期間にとどめるという原則を忘れてはなるまい。