失点続きの政府・与党にとって久々の敵失である。小沢一郎民主党代表の「第七艦隊」発言である。民主党の外交・安全保障政策の未熟さをみせつけ、封印してきた党内対立も表に出す。「小沢政権」下での対外関係への悪影響も心配になる。
問題の発言は(1)軍事戦略的に米国の極東におけるプレゼンス(存在)は第七艦隊で十分だ(2)あとは日本が自らの安全保障と極東での役割をしっかり担っていくことで話がつく――の二つの部分からなる。
在日米軍のうち海軍以外の陸軍、空軍、海兵隊の撤退を求める。空白を埋めるために自衛隊を増強する提案と聞こえる。
与党側や米政府は前段を批判し、「日米の防衛問題の実情に無知な極めて不見識な発言」(尾辻秀久自民党参院議員会長)、「極東における安全保障の環境は甘くない。空軍や海兵隊などの必要性を分かっていない」(メア駐沖縄米総領事)などと反応した。
野党側は後段を問題視する。「軍拡の道を進むことで対等のパートナーになるというのは間違った道だ」(志位和夫共産党委員長)、「あとは日本でやるということなら意味が違ってくる」(福島瑞穂社民党党首)と批判する。
民主党は寄り合い所帯だから、党内でも左右双方から批判を浴び、結束にヒビが入る。鳩山由紀夫幹事長は「日本の軍事力を増強するのではない」とする一方で、米国に頼らずに、ミサイルに対する「レーザー防衛網をつくる」などと釈明するが、意味不明に近い。
深刻なのは対外的な影響である。オバマ政権は来日したクリントン国務長官が小沢氏と会談したように、小沢政権を視野に入れる。仮に小沢発言が将来、日本政府の政策になれば、メア総領事が指摘するように、日米間に脅威認識の溝ができる。
中国や北朝鮮にとって日米離間は心地よい事態である。北朝鮮の核・拉致・ミサイル問題の解決に障害となる。日米関係全体の文脈で考えれば、経済危機を克服するための共同の努力にも水を差す。
小沢氏は思いこみを捨て、日米関係、特に日米同盟の機能を虚心に勉強し直す必要がある。