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社説:雇用・失業対策 「非正規」守る新たな安全網を

 雇用・失業情勢に改善の兆しが見えない。国、地方自治体は政策を総動員して、雇用不安を広げないための手だてを講じてもらいたい。同時に仕事を失った失業者への救済・支援策も充実させるべきだ。

 いかに雇用状況が深刻かを最新のデータでみてみたい。厚生労働省の調査で、3月末までの半年間に職を失ったか、失うことが決まっている非正規雇用労働者が15・8万人(2月18日現在)に上ることが分かった。1カ月前に比べ3・3万人増えた。

 1月の有効求人倍率は0・67倍、5年4カ月ぶりの低水準だ。また同月の完全失業率は4・1%で、前月よりやや改善した。この背景には職探しを一時見合わせた人が増えたことや、操業を短縮して従業員を休業させる場合、休業手当などの一部を助成する雇用調整助成金を多くの企業が利用したために解雇が増えなかったことがある。

 不況の長期化による大量失業に備え、雇用のセーフティーネット(安全網)の拡充を図ることが急務だ。いくつか提案をしたい。

 緊急の対応策としては派遣など非正規労働者への対応を急ぐべきだ。日本では職を失った場合には失業手当があり、その後は生活保護の仕組みで暮らしを支えている。しかし、労働時間が週20時間未満の人や1年以上の雇用見込みがない非正規労働者約1000万人は雇用保険に加入できず、セーフティーネットからはずれている。

 政府は適用対象を雇用期間6カ月に短縮する雇用保険法の改正案を国会に提出した。それによって150万人が新たに適用対象となるが、これで十分なのかどうか、引き続き議論が必要だ。ただ、適用要件の雇用期間を短くすれば、仕事と失業保険の受給を繰りかえす「失業の罠(わな)」の問題が出てくる。欧州では手厚い失業対策によって失業率が下がらない状況もある。雇用保険の適用対象の拡大については、現状を見ながら的確に判断すべきだ。

 失業した非正規労働者に対する職業訓練も重要な施策だ。新しい制度として経済的な不安を持たないで職業訓練を受けることができる生活保障給付の仕組みができた。もっとPRして利用者を増やしてほしい。

 この制度は職業訓練期間中の生活費を貸し付けるもので、就職すれば返還が免除される。ドイツやフランスでは失業扶助の制度があり生活費が給付されている。日本でも生活費の貸し付けではなく給付にすべきだという提案もある。国会で早急に検討に着手してもらいたい。

 雇用・失業のセーフティーネットは相変わらず正社員中心のままになっており、最近の急激な非正規労働者の解雇に対応できずに問題を深刻化させている。3人に1人が非正規労働者という時代に対応した新たな仕組みを用意すべきだ。

毎日新聞 2009年3月1日 東京朝刊

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