数日たってもうんざりした気持ちが抜けない。厚生労働省が発表した年金の将来試算である。現役世代との収入比で半分以上の給付水準を、百年後にも保てるとした。
「少ないけど、まあそれぐらいなら」とは納得できず、逆に不安が募る結果だった。年金積立金の運用利回り4・1%、賃金上昇率2・5%など、試算の前提が甘すぎるからだ。
政府は今回出た給付水準の維持を約束している。不可能となれば制度を見直すことになる。実行可能の結論ありきで、都合のいい試算をしたと批判を浴びた。厚労省の自己保身が透けて見える。
太平洋戦争の転換点となったミッドウェー海戦を前に、日本海軍が今でいうシミュレーションを行った。兵力過少で味方の負けとの判定が出たが、担当官が無理やり有利な状況を設定し、勝利に変えたそうだ。史実はシミュレーション通りだった。
防衛庁(現防衛省)で戦史研究に携わった徳田八郎衛氏は、八木アンテナで有名な八木秀次博士が終戦時に語った「日本は思想と精神で負けていた」という言葉を引き、当時の日本には合理的な思考を妨げる精神的風土があったと指摘している(著書「間に合わなかった兵器」)。
徳田氏の指摘は今も通用するようだ。年金が行き詰まれば、戦争と同様に国民が犠牲を強いられる。