二〇〇九年度予算案が、与党などの賛成多数で衆院を通過し参院に送られた。これにより年度内成立が確定した。憲法の規定で予算案は参院で議決されなくても、送付後三十日で自然成立するからだ。
〇九年度予算案は、未曾有の景気悪化に対応するため編成された。経済、雇用対策に重点を置いている。年度内成立が決まり、当面の最重要課題にめどが立ったといえる。今後は衆院の解散時期をにらんだ政局に拍車が掛かろう。
民主党は早期解散を誘導する狙いで、〇九年度予算案の二月中の衆院通過を容認したとされる。定額給付金などの財源を確保する〇八年度第二次補正予算関連法案の方は、三月上旬の参院採決を確認している。
関連法案は参院で野党の反対多数で否決された後、衆院で与党の三分の二以上の賛成で再可決される見通しだ。ただ小泉純一郎元首相の再議決欠席発言で波乱も予想され、麻生太郎首相にとって頭痛の種だろう。
支持率低迷にあえぐ麻生首相は、定額給付金の支給を弾みに解散時期を探るとみられる。できるだけ有利な環境で解散に踏み切ろうという思惑のようだ。しかし、定額給付金に対する国民の評価は芳しくない。決断をちゅうちょすればするほど状況は悪化するのではないか。
支持率低迷は、直接的には麻生首相の発言のぶれなどが影響しているが、根底には政権の正統性の問題があろう。安倍、福田、麻生と三代続けて選挙の洗礼を受けていない首相が政権を担当することに、国民の不信感は高まっている。
麻生首相は最重要視してきた〇九年度予算案の年度内成立が確定した今こそ、速やかに解散を決断すべきである。国民の信任を得た政権が、直近の民意をバックに強力な経済再生策などを講じていくのが筋だろう。
ところが、またしても選挙の先送り材料になりそうなテーマが浮上している。〇九年度予算案では景気対策が不十分として、大規模な追加経済対策を策定するというものだ。
麻生首相自身も策定の意向を示唆したが、真に必要と思う対策なら直ちに〇九年度予算案の見直しで対処すべきだ。「景気を人質にした政権延命策」と受け止められても仕方あるまい。
民主党など野党にも説得力のある行動が求められる。早期解散を訴えるだけでは、国民の理解は得られないだろう。経済危機に対する具体的な政策を明確に打ち出す必要がある。
沖縄県の米空軍嘉手納基地の周辺住民が国に損害賠償や米軍機の夜間早朝の飛行差し止めなどを求めた「新嘉手納基地爆音訴訟」の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部は救済範囲を一審の那覇地裁沖縄支部判決より広げ、計約五十六億二千万円の支払いを国に命じた。
嘉手納基地の航空機騒音をめぐっては、一九八二年に周辺住民約九百人が起こした旧訴訟は、国に計約十三億七千万円の支払いを命じた控訴審判決が確定した。しかし、飛行差し止めと将来分の賠償請求が退けられたため、二〇〇〇年に約五千五百人が新たな訴訟を起こした。
控訴審の焦点は賠償基準となる騒音の受忍限度だった。〇五年の一審判決は、国に計約二十八億円の支払いを命じたが、対象はWECPNL(うるささ指数、W値)八五以上の区域の生活被害だけ。従来の航空機騒音訴訟判決がほぼ賠償を認めてきた七五と八〇の区域は「騒音が減少した」として外した。
これに対し、控訴審判決はW値七五と八〇の区域について「想定されている騒音より低いが、準ずるレベルにある」などとして「W値七五以上」との判断を示した。一審が切り捨てた救済範囲について細かく分析を進め、住民の救済を図った妥当な判決といえよう。
しかし、控訴審結審後の被害に対する賠償請求や、騒音と聴力損失など健康被害との因果関係、飛行差し止め請求は一審同様退けられた。住民の心境は複雑なことだろう。
航空機が離発着する基地周辺住民の負担は大きい。日本国内の米軍基地の大半を抱える沖縄はなおさらだ。判決も「旧訴訟でも認定されながら根本的改善が図られていない」と指摘した。住民の負担軽減へ国の一層の取り組みが求められる。
(2009年2月28日掲載)