薬物乱用 「大麻の害に関して」

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宝塚支部 薬学博士  平野 仁壽
1998年 12月 04日
麻薬・覚醒剤等の薬物乱用は世界各国の深刻な問題ですが、その中で今日は 「大麻」 についてお伺いしたいと思います。まず、「大麻」 とは、どういうものですか?
 我が国では、麻薬や覚醒剤と同様に 「大麻」 も大麻取締法という法律によってその使用等が厳しく制限されています。その法律により 「大麻」 は次のように規定されています。


大麻とは 大麻草 (カナビス・サティバ・エル) 及びその製品をいう。但し、大麻草の成熟した茎及びその製品 (樹脂を除く) 並びに大麻草の種子及びその製品を除く。

と定義されています。


 しかし これでは皆さんに分かりにくいと思いますのでもう少し具体的に申しますと 「大麻」 はアサというクワ科植物の一年生草本から得られた製品をいいます。その製品は大きく3つに分類できます。


 (1) アサは雄と雌が別々の草本なのですが雌の花穂部や葉をそのまま乾して加工し
    たものをマリファナ (marihuana) といいます。
 (2) アサの分泌する樹脂を集めて成型したものを大麻樹脂 (hashish) といいます。
 (3) 溶媒を用いて抽出したうえオイル状にしたものを液体大麻 (hashish oil) といいます。


植物のアサという名前はよく耳にしますが、どのような植物ですか?
 アサは中央アジア原産とされる古代より繊維を穫るために栽培されている作物で高さは1〜3メートルになり茎から繊維を穫ります。その他アサの実は鳥の飼料としたり、またその実は麻子仁と称して漢方薬で緩下剤としてよく使われます。

そのように有益なアサがなぜ法律で厳しく取り締まられているのですか?
 それはアサの葉や雌株の花穂等にはテトラヒドロカンナビノールという無色透明の油状成分が主成分として含まれますが、その成分が幻覚作用を現すためなのです。

それでは大麻の有害作用にはどのようなものがあるのですか?
 ヒトに及ほす急性作用として2つあります。1つは身体に及ぼす作用と2つ目は精神機能に及ぼす作用です。


(1) 身体に及ぼす作用
 麻薬や覚醒剤と比較しますと弱く、心拍数の増加とそれに伴う血流量の増加、悪心、嘔吐や平衡感覚障害を生じます。


(2) 精神機能に及ぼす作用
 摂取時の急性効果は感覚、知覚、気分、情動、思考を変化させ、また多量では意識変容から急性中毒に至ります。他の依存性薬物の効果が用量によって一方向性であるのに対し、大麻は条件によって相反する効果を生じたり、現れた効果も心理的刺激によって変化する性質は大麻による酩酊の特徴です。


慢性的に大麻を使用した場合にヒトに及ぼす影響にはどのようなものがありますか?
 急性の場合と同様に身体に及ばす影響と精神に及ぼす影響とがあります。


(1) 身体に及ぼす影響
 肺と生殖機能に対する影響があります。肺に対しては喉頭炎、気管支炎が認められまた肺癌が発生します。


 一方、生殖機能に対しては男性では血中テストステロンの値が低下し、精子の数、形態、構造、運動性に異常が認められます。女性ではプロラクチンの値が低下、月経周期の異常が言われていますが、これらの影響が必ず生じるというわけではなく、受胎への影響も不明です。




(2) 精紳に及ぼす影響
 大麻精神病があります。大麻使用で一番問題なのはこの精神病です。
この病状は奇異な行動、粗暴性、落ち着きのなさ、妄想、幻覚などの精神分裂様状態を示します。精神病像の発症は一般に急性で、多くは1週間から3ヶ月程度の経過ですが、なかには2〜5年以上、分裂病様状態や躁鬱病様の状態を持続する症例もあります。


 また、大麻を使用しなくても使用したときと同じ作用が生じるいわゆるフラッシュ・バック現象がしばしばみられます。


 また、無動機症候群すなわち感情の平板化、物事に対する関心・自発性の減退、言語・思考能力の低下、行動の遅延化などの消極的な人格状態を示し、これらは大麻に特異的な症状です。


これからの対策としてどのような取り組みがなされているのでしょうか?
 私共は元九大の西岡教授のもとで長年大麻の研究をして参りましたが、その中で大きな発見がありました。日本古来から存在するアサには幻覚成分のテトラヒドロカンナビノールが含まれていないことが分かったのです。そこでそのアサを無毒大麻と称して品種の固定を行い、まず日本国内の繊維作物として栽培されているアサをすべてその無毒大麻に変更しました。


 ところで 全世界では年間2万トンもの大麻が密造され人類を蝕んでいます。私共の発見した無毒大麻が全世界のアサに取って代わられ、人類の健康と平和のために役立つことを切望して止みません。


 最後に、大麻は今まで述べましたように身体面だけでなく特に精神面で重大な悪影響を及ぼしますので絶対に使用しないでいただきたいと思います。


2006.3.21修正済み

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