5、被害者が準備しておくこと

 相談者は、こういった訴えを起こすために、どんなものを証拠として示せばいいだろうか。裁判で認めさせるには、どの程度のデータを揃えなければいけないのか。

 久保弁護士は、「画面のプリントアウトで十分」だという。

 「証拠としては、パソコンの画面をプリントスクリーン(※2)などで保存して、それを画像としてプリントアウトしたもので大丈夫です。URLと、そこになにが書かれているかわかるものを残しておくこと。テキストのコピーや、データで保存したものも有効です。デジタルデータは改竄できるという指摘もされないとは言えませんが、そういったことが問題になるケースは稀ですね。

※2 キーボードの「Print Screen(Prt Sc)」キーを押すと画面全体がコピーされる。これをペイント(スタート→すべてのプログラム→アクセサリ→ペイント)などにペーストして、保存。

 それは、争いになった場合、提出された証拠が捏造されたものだということを、そう主張する側が証明しないといけないからなんです。それは、けっこう難しいことでしょう?

 それよりも重要なのは、早く訴えること。さきほどのIPアドレスもそうですが、サイトそのものが無くなってしまうことがある。残してあったコピーがあっても、実物のHPを見ることができないと、難しくなります。IPアドレスのログも、サイトが無くなると、一緒に破棄されてしまう傾向があるので、時間がたてばたつほど、過去のものを追跡・実証するのは、難しくなっていきます。1〜2年前というのが限度じゃないでしょうか。データの収集に時間をかけるより、さっさと、追跡にはいることが大切なんです」

 それでは最後に、相談する時のポイントや心構えを教えてもらおう。

 「弁護士や相談所に相談するのに必要なのは、最低限、URLを突き止めておくこと。人によっては、URLさえ特定しないで、悪口が書かれているらしい……と相談に来る方もいるのですが、それだけでは被害妄想と区別がつきません。そういった不安がある場合は、ご自分の名前や個人的な単語を検索して探してみると、見つかる場合があります。

 逆に、これってどうなんだろうと、誹謗中傷かどうかの判断に迷うこともあると思います。掲示板などのやりとりがエスカレートして、相談者本人も反論している場合などですね。なにしろ、言論の自由がありますから。ただし、自由言論といえども限界がある。それを超えている場合、違法となるわけです。そういうケースの場合も、見ないとなんとも言えないですね。

 予算の心配もあると思います。無料の法律相談などもあるようですから、まずそういうところを探してみるといいかもしれません。

 ネットの追跡は手間がかかるし、弁護士費用は安くはないです。私の場合は、初回の相談料は頂いておりませんが、正式な依頼になったら時間制で受任しています。一案として、予算の範囲を決めて、その金額でどこまでできるかを相談すると、現実的だと思います。そうすることで、開示請求を求める先を絞り込むなどの工夫もできると思います。

 誹謗中傷は、追跡もそうなんですが、実は、スレッドを読むことも手間がかかるんですよ。該当部分にマーカーで線引きして、それを表に落としこんでいくんです。それをいちいち、中傷だとする資料と紐づけしていく……。裁判所は、まるごとスレッドをテキストで提出しても読んではくれないですからね。

 でもツライのは、弁護士費用だけではありません。たとえばプロバイダーですら、それなりに言いたいことを反論してきますから、相談者の方はこういった過程でも傷つくことがあると思います。とはいっても、事件にまでする方は、精神的にもしっかり戦ってくださる方が多いですね。

 最後に。たいていの誹謗中傷は、匿名で書かれた卑劣なものです。しかも、もっと陰湿なことに、匿名サイトで書いている発信者は、ネット上のまったく接点のない、どこのだれだかわからない他人ではなくて、なにかしらつながりのある関係者が多いんです。加害者は近くにいることが多い。

 なにかのトラブルやこじれがあって、そういう形ででてくるんでしょうね。なので余計に、自分の手におえないと思ったら、すぐに専門家に相談してください。真剣に解決したいと思ったら、専門家に相談するのが、時間的には一番早いんです」

プロフィール 久保 健一郎(くぼ けんいちろう)氏

昭和44年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業、平成15年に、久保法律事務所開設。インターネット上の紛争解決に詳しい。

【執筆】
「名誉毀損、著作権等利益侵害者の特定から情報削除まで」(東京弁護士会会報「libra 2002年7月号」)、「加害者の特定が困難なネットワーク上の権利侵害」(東京弁護士会「法律実務研究第17号」)、「違法情報の削除と侵害者の特定」(東京弁護士会「法律実務研究第18号」)、「プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求」(東京弁護士会「法律実務研究第19号」)、「匿名加害者によるインターネット電子掲示板上での権利侵害問題と対応策」(東京弁護士会「平成15年度秋季弁護士研修講座」)、「プロバイダ責任制限法」(第二東京弁護士会「二弁フロンティア 2004年7月号」)、「インターネットの法的論点と実務対応」(東京弁護士会インターネット法律研究部)、「プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報の開示」(ぎょうせい)

【事件処理】
プロバイダ責任制限法に基づく身元開示請求訴訟において、開示を命じる請求認容判決を得て勝訴(平成15年9月17日東京地裁判決 判例タイムズ1152号276頁)、同請求訴訟控訴審においても、第1審判決を支持させ勝訴(平成16年1月29日東京高裁判決)、仮処分手続を通じた発信者情報の開示に成功(仮処分決定、これに対する保全異議が認容される(平成16年9月22日東京地裁決定、平成17年1月21日東京地裁決定 判例時報1894号35頁)

(構成=ネット問題取材班)

<参考サイト>
●警視庁サイバー犯罪対策
 http://www.npa.go.jp/cyber/policy/index.html
●インターネット・ホットラインセンター(インターネット上の違法・有害情報の通報受付窓口)
 http://www.internethotline.jp/
●インターネットホットライン連絡協議会(各種問い合わせ先案内)
 http://www.iajapan.org/hotline/index.html
●日本弁護士連合会
 http://www.npa.go.jp/higaisya/text/index.htm
●ネット被害対策室:「法律関連の部屋」
 http://www002.upp.so-net.ne.jp/dalk/higai31.html
●プロバイダ責任制限法関連情報
 http://www.isplaw.jp/
●法テラス
 http://www.houterasu.or.jp/
●弁護士ドットコム
 http://www.bengo4.com/