4、これって損害賠償請求できる?

 これで、加害者が確定した。では、次にどうするかということになる。

 「依頼者の方の中には、問題の書き込みが削除され、だれがやったかわかった時点で、もういい、という人もいます。ですが、法的制裁を加えてほしいと思われる方のほうが多いですね」

 名誉棄損で訴えて賠償金を請求したり、二度としないで欲しいと思うわけだが、その場合、裁判で認められるものかどうか、内容を吟味することになる。どの程度の内容だと損害賠償請求できるのだろうか。

 「もちろん、最終的にはケースによるんですけど、裁判での判断が大きくわかれるところは、法人と個人では被害の程度に対する考え方が異なることです。法人の場合は、週刊誌や新聞で辛辣なことを書かれても、批評や論評の範囲で、許容範囲と判断されることも多い。それに耐えて乗り越えてこそ……みたいな考え方もありますよね。

 これに比較して個人の場合は、個人攻撃という言葉があるように、プライバシーや個人が特定できるような属性をさらして否定的なことを書くと、けっこう幅広く名誉毀損を認めてくれます。アイドルやタレントなどの有名人をのぞいて、一民間人を名指しで、辛辣な非難をした場合、名誉毀損ととってもらえるケースは多いです。否定的な言葉、いわゆる差別用語などの刺激の強い言葉、放送禁止用語を使っているケースも、名誉毀損や侮辱として認められやすいですね。微妙なのは、それなりに真実と思しきことや、事実に近い内容、ある程度の裏付けがあると、名誉棄損ではないと判断されてしまうこともあります。掲示板では、売り言葉に買い言葉じゃないですが、お互いにエスカレートしていった場合は、難しい。このあたりの判断が、ポイントになります」

 ここで被害者が躊躇してしまうケースとして、裁判で、ネットの隠語や2ちゃん用語を否定的な言葉だと判断してもらえるか、という心配がある。

 「いわゆる『DQN』とかですね。でもそういったネット用語も、平成13〜14年ぐらいから、認められる傾向が強まっています。一般的でなくても、社会的に否定的な表現として認識されている言葉だということを証明すれば、大丈夫なんですよ。最近は、ネットや2ちゃんねる用語集みたいなものがあるので、それを引用して、定義づけされている単語なら、なお、通ります。

 実際、私も掲示板問題の係争中に、『DQN久保健一郎』というタイトルのスレッドをたてられましたけど、誹謗中傷にあたるということを立証して、削除してもらいました。

 削除要求の場合、仮処分という手続きがあります。仮処分は、通常の裁判と違って非公開手続きの簡易的な処理になりますが、一日でも一刻でも早く消してほしいという場合、迅速な手続きをしてもらえます。削除するだけなら、これが早いですね。

 ただし、賠償請求裁判で認められる金額となると、実際はそう高くないんです。俗に上限100万円なんて言われていますが、ほとんどは数十万円程度。お金を取るということよりは、名誉回復とか、二度と書かれないようにすることを考えたほうが、より現実的です」

 被害者の精神的苦痛を考えると、高額な罰金を支払わせたい気もする。それに、二度と書かないということを守らせることがはたして可能なのだろうか。

 「実は、加害者・発信者というのは、そんなに大人数ではない場合が多いんです。1人でいくつもハンドルネームを使って書き込んでいたり、4〜5人のグループであったりします。その場合、首謀者のような地位にある人が検挙されると、たいていは止まります。賠償金はそんなに高くとれないと言いましたが、それはしようがない。そのかわり、二度と悪いことをしないよう、示談の契約書に工夫をします。例えば、今回の件に関しては、賠償額はこれくらいにしますが、もしも、次にやった場合は、これだけの違約金をいただきます、という内容の。そこには、抑止効果を期待できるような高額の違約金を設定することが肝要です。それによって、抑止力とするわけです。

 たいていの加害者は、匿名で追跡困難だろうと過信しているから卑劣なことを続けている小心者。個人が特定され、法的に契約を交わすと、かなり懲ります。私が担当した中では、一度法的に裁かれた人がもう一度と……いうのはまだないですね」