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未来育て:第4部・格差と少子化/4止 第2子懐妊を伝えた半月後、派遣打ち切りを…

 ◆第2子懐妊を伝えた半月後、派遣打ち切りを通告された

 ◇団体交渉の末、育休 先進企業は支援策次々

 「残念ですが、契約期限の12月末で打ち切りです」

 つわりがひどくなった昨年9月、埼玉県内の自動車メーカーで働く派遣社員、明子さん(38)=仮名=は、人材派遣会社の男性社員から突然、通告された。明子さんは同県内で会社員の夫(38)、長女(2)と3人で暮らす。仕事は英文翻訳などで07年11月に働き始め、これまで4回も契約を更新してきた。打ち切りの主な理由は「派遣先の業務評価が著しく低い」から。「別の仕事をしている派遣の同僚は、契約更新する」と聞かされ、当惑した。

 思い当たったのは半月前に、派遣先の上司に第2子の懐妊を伝えたことだった。「契約を更新して、来年2月まで働きたい」と言うと、上司は「会社の方針もあるから……」と言葉を濁した。

 派遣先は計16社に申し込んで、やっと面接にこぎ着けた2社のうちの1社。「使いにくい」と思われないよう仕事を最優先した。長女は朝8時に託児所に預けた。急な残業もこなした。夫の帰宅は夜10時過ぎで、あてにできず、長女の迎えが夜9時を回ることも。「家族を犠牲にしながらがんばってきたのに」。納得できなかった。

 明子さんは、労組「女性ユニオン東京」(東京都渋谷区)に駆け込んだ。派遣会社との交渉では、労組のアドバイスで産休や育児休業を要求した。団体交渉の結果、会社は産休も育休も認め、現在は産前休暇中だ。明子さんは「産休中に人材派遣会社の健康保険組合から出産手当金ももらえることになった」とうれしそうに話す。

 同労組の藤井豊味書記長は「一般的に派遣元は、妊婦健診などで仕事に影響が出ることを嫌がり、派遣労働者は妊娠出産で不利益を被りがちだ」と指摘する。明子さんのケースで「会社が業務評価を持ち出したのは、打ち切りの口実だろう」とみている。

 派遣労働者を含む「有期雇用労働者」は、育児・介護休業法の05年改正で、一定の条件で育休を取れるようになった。しかし、厚生労働省には有期雇用労働者の育休取得に関する統計はなく、その実態は明らかになっていない。大手派遣会社が加盟する「日本人材派遣協会」(東京都千代田区)も「育休のデータはない。派遣労働者には育休取得にこだわらない人もおり、取得者は極めて少ないだろう」と話す。

   *

 「お疲れ様です」

 毎日、午後7時前。東京都中野区にある大和証券中野支店の吉田愛子さん(42)は、パソコンに現在時刻を打ち込んで会社を後にする。40分後には、実母(72)や、小学3年(9)、保育園児(6)の2人の息子が待つ自宅。8時半から、子どもと入浴し、その日の出来事をおしゃべりする。10時には子どもを寝付かせる。

 大和証券グループは、07年6月に「午後7時前退社」を導入した。残業が珍しくない証券業界。社内からは反対もあったが「優秀な人材を辞めさせない」と経営陣が押し切った。午後7時は「生産性を落とさず、家族とだんらんできる」時刻と位置付けられた。当初は7時過ぎまで残る社員がいて、人事部が帰宅を促した。今は大和証券などグループの従業員約1万5000人のうち、約8割が取り組んでいる。

 吉田さんは、同制度導入前には、1カ月に1~3日、夜9時や10時まで残業があった。夫(43)の帰宅も遅いため、息子の世話をしてぐったりとした母を見て、すまないと思い、このまま続けられるか不安に思うこともあった。「決まった時間に入浴、就寝でき、子どもとも触れ合える」と7時前退社に満足げだ。

 同社グループが女性社員の支援を積極化したのは05年10月から。当時から育児休業は、法定の1年半を上回る「2歳まで」だったが、これを「3歳まで」に延長。保育施設に預ける補助金月額2万円も支給した。07年12月からは、第3子以降に200万円の出生祝い金も出している。

 7時前退社について、グループ本社の太田一成人事部部長は「持続的な業績の向上につながると考えている」と語る。将来の効果を見据えた制度だとの認識だ。

 厚労省によると、仕事と育児・介護の両立に取り組む「ファミリー・フレンドリー企業」は現在、320社超、次世代育成支援対策推進法に基づく認定企業も630社超に増えた。

 子育て支援を拡充する先進企業と、法定制度の利用さえままならない派遣労働者。働き方の違いによる格差が広がっている。【遠藤和行】=おわり

 ◇非正規雇用、働く女性の半数超

 総務省の労働力調査(07年)によると、働く女性の内訳は、正規雇用者1039万人、パートや派遣社員など非正規雇用者が1194万人だ。非正規の割合は85年に31・9%だったが07年には53・5%に急伸した。非正規で増加が目立つのが派遣労働者だ。02年の33万人が、07年には2・4倍の80万人となった。

 非正規の多くは雇用期間を定めた契約で雇用されている。一部は、育児・介護休業法の改正により、05年4月から育休が取得可能となった。しかし、実際に取得できるかどうかは働き方によって異なるようだ。

 労働政策研究・研修機構の池田心豪研究員によると、パートの多くは契約更新を繰り返して継続的に雇用されており、育休取得者は増えつつあるという。

 派遣労働者の育休取得も大手派遣会社では少ないながらも増加している。ただ、産休や育休中に派遣会社と派遣先の契約が終わり、新たな派遣先がなければ再就職は難しくなるという。

毎日新聞 2009年2月28日 東京朝刊

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