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軽率な発言で物議をかもすのは、麻生首相の専売特許ではないようだ。ただし、こちらは言葉が足りない。
民主党の小沢代表が在日米軍の再編をめぐって、記者団にこう語った。
「(米海軍)第7艦隊で米国の極東におけるプレゼンスは十分だ」
民主党政権になれば、在日米空軍や海兵隊などにはすべて撤収を求めるということなのか。そのぶんを自衛隊を増強して埋めようということなのか。クリントン米国務長官との会談で強調した「対等」な日米同盟と同じ脈絡でのことなのか。
真意はよく分からないが、事は日米安保体制のあり方の基本にかかわる。
きのう、改めて真意をただした記者団に小沢氏はこう説明した。
「日本の防衛はできる限り日本が果たしていけば、米軍の負担は少なくなる。ごくごく当たり前の話だ」
ならばなぜ「第7艦隊で十分」とまで言えるのか。問題は説明がまったく足りないことにある。民主党内にも戸惑いが広がっているのは当然だ。
このままでは、小沢氏個人の見識や国民への説得力はもちろん、民主党の政権担当能力まで疑われかねない。
政局的な面からも、理解に苦しむ。超低空飛行の麻生政権を、さあ追い詰めようという時期に、政府与党に格好の反撃材料を与えてしまった。
なぜこんな生煮えの発言をしたのだろう。背景には、安全保障政策をめぐる党内の論議や合意づくりを避けようとしている事情もあるのではないか。
民主党には、自民党から旧社会党まで多様な出自の議員がいる。とりわけ安全保障をめぐる主張の幅は広い。だからこそ十分に時間をかけた政策論議が欠かせないのに「政策より選挙区を回れ」という小沢氏の指令もあって、マニフェストづくりは滞ったままだ。
安全保障だけではない。大勝した一昨年の参院選のマニフェストを基本にするにしても、昨秋、世界を襲った金融危機をきっかけに、日本を取り巻く環境は激変している。
この未曽有の世界同時不況にどう立ち向かうのか。雇用や福祉をどう守っていくべきなのか。民主党の政策的な打ち出しが弱いと感じている有権者は少なくなかろう。
民主党は、政権交代によって、自民党政治を根本から変えると主張している。だが、米軍再編は日米両国がいま直面している課題だ。民主党が政権を取れば逃げることはできない。大胆な改革をめざすならなおのこと、具体的な青写真をきちんと示し、有権者を説得する作業が欠かせないはずだ。
小沢氏に求めたい。国民にもっと丁寧に説明すべきだ。首相に直接、論戦を挑む姿勢ももっとほしい。そのうえで、自らが先頭に立ってマニフェストづくりを急ぐべきだ。
「実験通信衛星をロケットで打ち上げる準備が本格的に進んでいる」。北朝鮮が今週、そんな談話を出した。
談話が発射場と名指しした地域ではこの1カ月ほど、長距離ミサイルの発射準備とおぼしき動きが続いている。米国の衛星の監視によると、打ち上げ間近の段階ではなさそうだが、人や車両、機材の出入りが活発だという。
さんざん発射の準備活動を誇示したうえで、軍事目的のミサイルではなく、人工衛星の打ち上げなのだと言っているわけだ。
確かに宇宙空間を平和目的に利用する権利はどの国にもある。だが問題は、誘導装置を備えたロケットがミサイルに他ならないということだ。
単純にいえば、頭部に載せる衛星を核弾頭に代えると、それは核ミサイルだ。衛星打ち上げはミサイル技術の開発にもなる。
国連の安全保障理事会は06年、北朝鮮の核実験を受けて、制裁決議を全会一致で採択した。決議は「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動」の停止も要求している。
北朝鮮が実際に発射させ、それを衛星の打ち上げだと言い張っても、この決議に反することは明らかだ。
それでなくても、国際ルールを無視して核開発をし「核兵器保有国だ」と宣言する国である。ロケットだという弁明は認められるものではない。
いま北朝鮮がなすべきことは、6者協議の合意を着実に実行し核を放棄することだ。宇宙の平和利用をうんぬんするのは、その後の話であろう。
北朝鮮が「ロケット」を持ち出すのは初めてではない。98年の弾道ミサイル・テポドンの発射では、衛星を軌道に乗せることに成功したと喧伝(けんでん)した。
06年に弾道ミサイル7発を飛ばした時は、より大型にしたテポドン2は発射直後に空中分解したとされる。
ここで長距離ミサイル開発に成功すれば、米国との交渉のうえで強力なカードとなる。国内では国威発揚に利用できる。北朝鮮がそう考えているのは間違いなかろう。
先日の韓国国防白書によると、北朝鮮は米領グアムが射程に入る新型中距離ミサイルも実戦配備したという。
ミサイルに関して、北朝鮮はいわばやりたい放題だ。それを話し合う国際的な枠組みはまだない。
そんななか各国の外交が活発になってきた。クリントン米国務長官のアジア歴訪や日米首脳会談では、北朝鮮に強く自制を促した。いま日中韓でも協議が相次いでいる。オバマ米政権で北朝鮮問題を統括するボズワース特別代表は来週、6者協議関係国を回る。
北朝鮮に発射を思いとどまらせる。ミサイル問題を扱う場も考える。国際社会はその外交努力を重ね、知恵を絞っていかねばならない。