NHKに対する悪質で不気味な事件が相次いでいる。犯人の意図は定かでないが、関係者や市民生活の不安は募ろう。徹底した捜査による犯人の早期摘発と全容の解明が求められる。
ことの始まりは、二十二日にNHK福岡放送センタービル玄関で発生した放火未遂事件だった。二重になったドアとドアの間に置かれた手提げバッグが爆発した。幸い火災には至らず、けが人もなかったが、一時は玄関ホールに煙が立ち込め天井の一部が破損したという。
現場からは、カセットこんろ用のガスボンベと注ぎ口に布をねじ込んだ液体入りのポリタンクが見つかっている。防犯カメラには、爆発が起きる直前にサングラスに白いマスク姿の男が手提げバッグを置いて立ち去る様子が写っていた。
二十三、二十四日には、東京の放送センターや札幌、長野、福岡の各放送局にあてた郵便物から相次いでライフルの銃弾のような金属片が見つかった。いずれも東京の「神田」の二十三日付消印で、封筒の中には明朝体で「赤報隊」と印字されたB5判の用紙に長さ約七センチの銃弾らしきものが張り付けてあり、この四件は同一人物の犯行との見方が強まっている。
それにしても、なぜNHKを標的にしたのか。思想的なものがあるのか、個人的な恨みか、いたずらなのか。犯行声明などは出されておらず、放火未遂事件の背景、さらには不審郵便物の送り付けとの関連性などは明らかになっていない。
不審物の送り付けで示された「赤報隊」という名は、一九八七年に朝日新聞阪神支局を襲撃し、散弾銃で記者二人を死傷させた事件の犯行声明で使われた。先日、朝日新聞社が阪神支局襲撃事件の週刊誌報道に対する批判記事を掲載しており、そこから思いついたか、福岡の事件を受けて騒ぎが大きくなることを狙った愉快犯的な行動との見方もある。
言論の自由は、国民の知る権利を保障する民主主義の根幹である。報道機関を標的にした暴力などによる言論封じは、断じて許すことはできない。たとえ、いたずらだったとしても、卑劣な行為であり罪の深さにおいて変わりはない。
報道機関に限らず近年、気に入らないことや自らのうっぷんを晴らすため、短絡的に凶行に走るとか、他人の生命を軽視する風潮が広がっている。徹底した捜査と、民主主義を守る社会意識を高める取り組みを強めて歯止めをかけたい。
元一級建築士の姉歯秀次受刑者による耐震強度偽装事件で、建て直しを余儀なくされた愛知県のビジネスホテルが建築確認を行った愛知県と開業指導したコンサルタント会社に損害賠償を求めた訴訟の判決で、名古屋地裁は県とコンサルタント会社の過失を認め、計約五千七百万円の支払いを命じた。
一連の耐震偽装に絡む建築確認をめぐって、耐震構造上の欠陥を見逃した行政の責任を認めた初めての判決である。行政側にあらためて不正を防止する役割を求めたといえよう。
裁判長は判決理由で、建築確認をする自治体の建築主事について、基準適合の検討に専念でき、建築士より適切な判断をなし得る立場と指摘。建築主事は「危険な建築物を出現させない最後のとりで」であり「高い信頼に応える一定の注意義務がある」と強調した。
その上で、問題のビジネスホテルの十―二階の耐震壁が法令基準の四割程度しか耐震強度がないこと、ホテルの一階部分は主に柱だけで構成され、同型の建物が阪神大震災で被害が多かったことなどを挙げ「姉歯受刑者に問い合わせるなどして調査をする注意義務を怠った」と結論づけた。コンサルタント会社についても「指導監督義務があった」と過失を認定した。
事件をきっかけに建築基準法が改正され、構造計算書の再チェックなどが義務付けられるようになった。建築技術の高度化や専門化に行政側が追いつかず、構造計算の検証がおろそかになるなど建築確認が形式化し、民間の検査機関のチェックの甘さも指摘されたからだ。
国民の安全を脅かす耐震偽装は二度と起こしてはならない。自治体などは判決を真摯(しんし)に受け止め、建築確認の際の審査能力を高める必要がある。
(2009年2月27日掲載)