前回に関西には駐車違反が多いことを書いたことをきっかけに、大阪のことを少し考えていたら、11月7日に開かれた「21世紀ジャーナリストフォーラム2007」(主催は関西プレスクラブ、関西広報センター、大阪国際交流センター)で、さまざまな立場からの人が「大阪」について語っていたのを思い出しました。
わたしなりに大阪の魅力や問題点を感じましたので、少し紹介したいと思います。
基調講演は関西大学社会学部の黒田勇教授で、テーマは「メディアの描く内なる他者 関西の現在」についてでした。
黒田さんは昭和26年に大阪で生まれ、大阪で育ち、大阪の大学で働いている「大阪人」で、メディア研究で知られる方です。
「メディアの中に登場する大阪とは何だろう」という研究をしてきたそうですが、すると「メディアが良心的な気持ちで大阪を描いたとしても、それは何か変だぞ」ということに気付き始めたそうです。
その理由はいくつかあるそうですが、経済が東京に集中し、放送局のキー局も東京に集まり、さらに放送が70年代以降、娯楽化し、なかでも吉本興業の東京進出というのが大きく影響したと見ているそうです。
そして、「2000年代になると、『東京のまなざし』との言葉を使っていますが、東京のメディアから見る大阪とか関西のイメージを大阪の人々が内面化している、受け入れてしまっている、のではないかと感じています。つまり、自分たちを東京のメディアが語る大阪で語ってしまうという現象が起こっているのです」と指摘しています。
そこで、TBS系の番組「ここがヘンだよ 日本人」のビデオが流れました。
黒田さんは授業でも使っているそうです。これは関西人対外国人を闘わせるという番組です。関西人として、うるさいおばさんや水商売風だという世間的なイメージを装った女性、暴力団風の人が出てくるのです。
当然、素人かと思っていたら、「関西人は実はタレントさんで、言動など東京サイドのイメージに従った関西人を一生懸命演じているのです」というのです。関西のイメージの問題以前に、そこまでやっていいのか、という倫理上の問題があると思うのですが、このテレビ局は関西に対して、そのようなイメージを持ち、そのイメージを役者に演じてもらい、表していることがうかがえます。
大阪人のせっかちさをよく表しているニュース番組も紹介していました。
ある番組では、歩くスピードをみると、大阪は東京より時速で0.15キロ速く、もし大阪-東京間500キロを同時に歩くと3時間もの差がつくことになるとか、歩行者が赤信号を無視する割合は、大阪が東京を25%以上も上回っていることや、日本初の硬貨を3枚一度に入れられる新しい券売機が大阪の天下茶屋駅に設置されたことなどが放送されていました。
黒田さんは、こう解説してくれました。
「このニュースでは新しい券売機開発と大阪人はせっかちだということが、結びつけられたわけですが、よくよく考えると、券売機の開発は大阪人がせっかちだという説明以外にも幾らでも説明要因はあるはずです。例えば、大阪はものづくりの伝統のある町であり、進取の気性もあって、こういう開発はできるという説明も可能だったかもしれません。本来の券売機開発というニュースよりは、大阪人はせっかちだという古い情報を確認するためにニュースになっているということです。歩くスピードも、私たちも調査を世界中でしましたけど、福井県が一番速かったです。このパターンのニュースというのが非常にあふれていると思います」
つまり、東京発の関西イメージは、まず結論があって、そのために客観的データが利用されている傾向がみえるということです。このことから、黒田さんは「他者として描かれる大阪を大阪自身が受け入れている傾向があるということです」と結論付けています。
また、黒田さんによると、アニメの「とっとこハム太郎」に登場するハム太郎一族の中で1つだけ変わっているそうです。容姿が違い、性格も違い、その名前が「まいどくん」で大阪弁を使うそうです。「おジャ魔女どれみ」というアニメでも、やはり逸脱した女の子、妹尾あいこちゃんという子は大阪弁を使うそうです。
また、「けんか祭りと言われる岸和田だんじり」と表現されることに、黒田さんは「言われるってだれが言ったんだということです。岸和田に問い合わせても、だんじりはけんか祭りと言われたことはないのです」そうです。
「浪速のおかん、ミヤコ蝶々さん死去と使いますが、『おかん』という言葉は大阪弁にはありません。私の子供のころから「おかん」ということは聞いたことがないけど、それがいつの間にか大阪弁の代表のように使われるということですね。非常に乱暴な言い方として使われているというのは、あまり、いい思いはしません」とも話していました。
確かにわたしも、関西人はうるさくて、せっかちで、あけっぴろげで、強引なおばちゃんが多くて、繁華街を歩く柄の悪いというか、暴力団風の格好をした人が多くて、というイメージがあります。実際にそのような人はいるのですが、そういう人ばかりではないのも事実です。
黒田さんは、吉本興業についても厳しい目を向けています。
「吉本的お笑いの貧困というのを私は感じています。大阪の漫才というのはわりあい自分を笑っていたのに、自己ではなく大阪を笑う。つまり東京で私は大阪をよく知っている物知りとして大阪のおばちゃんなり、大阪を笑うという漫才、あるいはそういうコメディアンが非常に増えている。それは非常にうまく東京のメディアで受け入れられた。それは予言の自己成就というのですけども、大阪、関西、そうじゃなかったよと言っていても、そのメディアで繰り返しやられているうちに、一部、逸脱した人間は、いや、大阪人なんだからいいとかという言い方をして、実際にそういう人が増えてきたりしてしまうという現象が起こっているように思います」
そこで、黒田さんはゼミ生に「吉本・たこ焼き・タイガースを捨てろ」と言っているそうです。逆説的ですが、メディアはこの3つに安住してきたために大阪の魅力を探す努力を怠ってきたことが問題だというのです。
大阪のおもしろさは結構、あります。
文化や芸能があり、歴史があり、うまい食があり、伝統工芸があり、ものづくりの精神があり、東京に比べて住みやすい環境があり、近くに遊びに行く風光明媚なところがあり、近くにゴルフ場もありーと、さまざまなものがあります。黒田さんは、「夕日が世界一美しい町は大阪だ」と話していました。
まず、ステレオタイプの大阪のイメージを捨てて、そのうえで、大阪のよさを探すことをしてみたいと思いました。大阪の人も、ステレオタイプ化された大阪人を受け入れず、もっと、大阪の良さをどんどんアピールすることがあってもいいのではないでしょうか。
by kannroji
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