――会場の奥にいても面白さが分かるというか、感情的な部分が伝わりやすい試合でした。
國保 負けたネト選手も非常にいい選手で、まだ若いですから、これから出てくるファイターだと思います。あの試合で劣勢を跳ね返す川村選手を観て、もしかしたら「自分のこれからの人生の中で、こんなこともできるんだ」と思う人もいるかもしれない。ただ殴り合っているとか、ただ腕を取り合っているという見方だけじゃなくて、いろいろな思いで観てくれている人たちはたくさんいると思います。五味くんにしても、相手が打撃の選手と分かっていて自分がグラウンドもできるとなれば、何とかグラウンドに持っていきたいと思うのが普通なのに、相手の土俵に立って勝負をし、なおかつ勝った。こういうところは見習うべき部分も多いでしょう。
――セミの五味隆典vsドゥエイン・ラドウィック戦は、短時間ながらインパクト絶大でした。
國保 本当にそうですね。もう少しやらせてあげたかったと思いますけど。
――ラドウィック選手の顔を観たら、とてもそうは言えなかったですよ。
國保 鼻がもう、パックリ行っていましたから。あれはもうどうにもならなかった。でも、やっぱり相手の土俵に立って勝つという五味くんの凄みを感じました。もしグラウンドでグダグダとやって、判定で勝つという試合だったら、また評価も変わったでしょうけど。五味くんは、さらに評価を上げたんじゃないかなと。
――五味選手の涙を見て、感じるところはありましたか。
國保 本当にいろいろな思いがあったでしょうし、何とも言えない感情が沸いたんじゃないかなと。ああいうのを見ると、こういう大会をやってよかったんだなってみんな思えますよね、関係者一同。大会に向けて寝ずに頑張ったスタッフたちもたくさんいましたけど、あのシーン一つで「やってきたことは間違いじゃない」という気持ちにはなると思いますね。一年間、いろいろな思いを溜めて試合に出られなかった五味選手が、リングに戻ってこれて、なおかつ勝った。その思いが一気に来たんだろうなと思えばね。僕としても嬉しいですけど、いろいろな人が観ている中で五味選手だけを称えるわけにもいかないので(笑)。
――三崎和雄選手については?
國保 大晦日の試合を終えたばかりで、またケガを押しての出場とも聞いていて。どこまでモチベーションを維持できるのかな、モチベーションを維持して、いい試合をしてほしいなと思っていたんですが、やっぱり期待通り、あの試合順でよかったなと思う試合をしてくれました。
――かなりスリリングな展開でしたね。
國保 川村選手もそうですけど、相手のいいところを、プロレスじゃないけどちゃんと出したというか。吉田にしても、かなり顔が腫れていましたし。本当に「なんちゃって」を当てた選手が一人もいなくて、みんな強い選手とやっていますから。もう一度やったら、ある意味分からないというようなカードばかりだったと思うんです。そんな相手に一本を極めてきた。三崎選手は王者の風格というものが、だんだん備わってきたと思います。
――旗揚げ戦ということで、顔見世興行的な選択肢もあったと思います。それをあえて選ばなかったのはなぜですか。
國保 うーん、吉田に関しては、久々の試合ということで、顔見世的なものでもいいのではないかという話もあったんですが、本人の希望でもあったり、僕らとしてもここは一つの勝負をしてもらいたいという希望も強かったり。そもそも吉田が総合格闘技に来たのも、いろいろな強い選手とやってみたいとか、勝てると思って当然のことだから来ているわけですよね。自分が柔道で培ったものを活用すれば勝てるだろうと。負けると思って来ていないですよね。とはいえ、総合に来て7年ほど経つ中で「7年前にこの選手とやっていたら、俺はもっとこうできた」というのはたくさんあると思うんです。僕だって、昔と同じスポーツをやっても、今は頭が動いても体が動かない。
――年齢ならではのジレンマですね。
國保 本人もそういう状況になっているのか、これからなりつつあるのか。だとしたら、これ以上遅くならないうちに、やってみたかった選手とやらせてあげたいというこちらの気持ちと、本人のやりたいという気持ち、そこが合致した相手と闘ってもらいたいですし、それがイコール、ファンにも響くであろうと。だけど道衣を着る、着ないで当日まで悩んでね。はじめは着ようと思っていたんですけど、できあがった道衣がロゴの部分が分厚くなってゴソゴソしていて、どうしようもない状態で。「着ない方がいいんじゃないか」と悩む中で結局、「自分は柔道を背負ってきたんだ」ということで、着る決断をして。