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社説:海賊新法 武器使用緩和の歯止めが必要

 政府・与党が、ソマリア沖などの海賊対策に関する新法で、自衛隊や海上保安庁の武器使用基準を緩和する方針を決めた。

 武器使用基準の緩和は、新法の最大の論点である。政府の法案骨子は、正当防衛・緊急避難などで武器使用を認めた警察官職務執行法7条を基礎としつつ、新たに「船舶を停止させるための射撃」を盛り込んだ。具体的には、現行法で認められている警告・威嚇射撃にもかかわらず、これを無視して接近してくる海賊船を停止させるための船体射撃(危害射撃)が可能となる。

 警職法7条の解釈では、海賊が発砲する前に海賊船に向けた武器使用を認めるのは無理があると判断し、新たな基準を設けることになったようだ。

 政府は新法成立までのつなぎとして海上警備行動で自衛隊をソマリア沖に派遣するが、武器使用は正当防衛・緊急避難に限られる。海警行動での船体射撃は日本の領海内に限定されているからだ。新法案に盛られた船体射撃の許容は、初めて海外活動における「任務遂行のための武器使用」の一部を容認するとの指摘があり、正当防衛・緊急避難以外で人を殺傷する可能性を認めることになる。

 民間船を襲撃しようとする海賊を目の前にして、その犯罪行為を阻止するために船体射撃が必要なケースがあるかもしれない。警告・威嚇射撃だけでは、民間船や自衛隊員を危険にさらす事態を回避できない可能性もある。しかし、その運用は慎重かつ厳格でなければならない。現場指揮官の判断がより重要になるのは間違いないだろう。

 懸念されるのは、今回の措置が、海賊対策という警察活動にとどまらず、自衛隊の海外活動全体に「任務遂行のための武器使用」をより広く認める突破口になりかねないことである。

 自民党の国防部会小委員会が06年にまとめた「国際平和協力法案」は、船舶検査活動や安全確保活動、警護活動で必要な武器使用を認めた。また、安倍内閣時代に発足した安全保障懇談会は昨年の報告書で「妨害排除のための武器使用」を認めるよう提言した。

 自衛隊の海外活動全体になし崩し的に武器使用基準が緩和される事態は避けなければならない。そのための歯止めが必要である。

 また、新法案では、日本関係の船舶だけでなく、他国の船舶も護衛・救援の対象とした。海賊対策では、互いの船舶を保護するなど国際的連携が必要であり、他国の軍艦との情報交換などは、海賊対策という警察権の行使である限り、集団的自衛権の行使にはあたらないというのが政府の解釈である。

 しかし、日本と全く無縁な海域に他国船舶のみの護衛目的で自衛隊を派遣するのは、今回の新法制定の趣旨とは異なる。政府はこの点も明確にすべきである。

毎日新聞 2009年2月27日 東京朝刊

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