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2009年2月27日(金)付

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麻生首相へ―改めて早期解散を求める

 混迷を続ける日本の政局は大きな節目を迎えた。

 09年度当初予算案と関連法案がきょう、衆院で可決され、参院に送られる見通しだ。今後、たとえ野党が徹底抗戦したとしても、予算案は憲法の規定で30日後に自然成立し、関連法案は60日後に衆院での再議決が可能になる。

 与党が固執する定額給付金の支給に必要な第2次補正予算の関連法案も、来週には参院で否決される方向だ。そうなれば与党はただちに衆院で再議決し、成立させる。

 ■先送りの理由はない

 これで衆院の解散・総選挙を先送りする理由はなくなった。麻生首相は時間を無駄にすることなく、民主党など野党に協力を求めて予算案や法案の成立を急ぎ、一日も早く衆院解散に踏み切るべきだと考える。

 首相は昨秋の就任直後、一度は解散を考えた。だが、世界の金融危機と不況の荒波のなかで、緊急の経済対策を優先するとして見送り、今日に至るまで総選挙を避け続けてきた。

 そして2次にわたる補正予算と大型の財政出動を盛り込んだ09年度予算を景気回復への「3段ロケット」と呼び、成立に全力をあげると言ってきた。そのすべてに実現のめどが立った。もはや国民の審判から逃げるのは筋が通らない。

 わたしたちが解散を求める最大の理由は、これ以上、日本の政治の混迷、つまり「政治空白」を長引かせてはならないということだ。

 経済は急速に悪化しており、与謝野財務相が言うように「戦後最悪」となりつつある。昨年10〜12月の国内総生産は年率に換算して12.7%減と35年ぶりの2ケタマイナスを記録。1月の輸出額は前年の半分近くに激減した。

 ■政治空白はもういい

 トヨタやパナソニックなど、日本経済を引っ張ってきた自動車、電機などの大企業が軒並み損失を計上し、他産業も含めて大規模な人員削減が進む。非正規労働者だけでなく、正規社員にも雇用の危機が迫っている。

 だれもが政治の役割を期待し、未来への展望を開いてくれることを待ち望んでいる。なのに、麻生政権の機能不全は深刻になるばかりだ。

 内閣支持率は1割台に低迷し、不支持率は7割を超える。朝日新聞の世論調査では、71%もの人が「麻生首相は早く辞めてほしい」と答えた。国民の不満は極限近くまで膨らんでいる。

 首相はスピード感が大事と言いながら、予算案や法案はなかなか成立しない。「ねじれ国会」になって久しいのに、野党に政策協議を求めるでもなく、局面を打開しようという工夫も努力もあまりに乏しい。

 それどころか首相自身が定額給付金や郵政民営化をめぐって軽率な発言を繰り返し、国民をあきれさせている。

 さらに深刻なのは、社会保障の立て直しや新たな分野への大胆な公共投資といった長期的な政策論議が深まらないことだ。今の景気対策には、目先のことだけでなく、将来の社会や経済のあり方を展望した視点が求められる。

 だが、半年後に衆院の任期満了が迫り、総選挙では政権交代に現実味があるとなれば、与野党間でも腰を据えた議論がしにくいのは確かだ。

 外交面でも、基盤の弱い政権の限界が見えてきた。首相は、ロシアのメドベージェフ大統領、米国のオバマ大統領と矢継ぎ早に会談した。今後も外交日程が目白押しだが、政権の生命力に疑問を抱かれていては国益の重さを担う首脳外交は難しい。

 さすがに、自民党内にも危機感が広がっている。その中で浮上してきたのが首相交代論だ。不人気の麻生首相では総選挙が戦えないから、9月の自民党総裁選を前倒しして新首相を立てようというわけだ。

 ただ、安倍、福田、麻生の3氏に続いて、またまた首相の座をたらい回しすることが許されるものなのか。選挙の前に党首を替えるなら、野党第1党の民主党に政権を譲っていったん下野し、国民の信を問うのが筋だろう。

 ■危機克服のために

 当初予算の成立後、すぐに追加の経済対策や補正予算づくりに取りかかるべきだという声もある。

 経済情勢の先行きが厳しいのは、その通りだ。だが、だからこそ最新の民意に裏打ちされた政権を早く築かねばならないのだ。必要なら、選挙と同時並行で対策をつくればいい。

 政治を早く再生しなければならない。自公の与党が勝てば「ねじれ国会」は変わらないものの、直近の民意を支えに強力な政治を行うことができる。民主党が勝てば、ねじれは解消され、政治の歯車は回り出す。

 総選挙は準備期間も含めてひと月余りで実施できる。有権者が政策を真剣に吟味し、投票を通じて政治に参加する。それが危機克服の大前提である。

 ここに至ってなお選挙を先送りするのは、ただただ政権にしがみつこうとしているに等しい。

 民主党など野党に呼びかけたい。

 早期解散を求めるのは当然だが、それだけでは足りない。自分たちの政権では、どんな政策を、どんな優先順位で、どう実現していくのか。内政、外交の両面で具体的なプログラムを明確に掲げてもらいたい。その作業を急ぐべきだ。それなしに、政権交代の主張に本当の説得力は生まれない。

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