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社説

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日米首脳会談―弱い首相の外交の軽さ

 「これほど政権基盤が弱っている麻生首相に対米外交を任せられるのか」「米国はそんな首相をなぜ、ホワイトハウスに最初に招いたのか」。そうした疑問が少しも不思議でない状況の中で、オバマ大統領との初の首脳会談が実現した。

 とはいえ、会談にはそれなりの大きな意義があった。

 深刻さを増す世界同時不況に対し、各国は破局を防ぐための国内対策に追われる一方、国際的な協力、助け合いの道を探っている。経済規模が世界1位と2位の国のトップが互いの認識を確かめ合い、協調を語った。

 もう一つ、米大統領が8年ぶりに交代したことで、国際政治の方向が変わろうとしている。アフガニスタン、北朝鮮、イラン、中東和平、米ロ……。激変が予想される中で主要国は外交を活発化させ、新しい流れに対応しようとしている。

 そうした動きに日本も後れをとってはならない。「日米同盟は東アジアの安全保障の礎石」(オバマ大統領)という認識を土台に、さまざまな国際問題や地球環境対策などで協調していく方向となったのは、予想されたこととはいえ、出発点としてはいい。

 それにしても、内閣支持率が極端に低迷し、与党の中からも退陣論が出ている「弱い首相」が、何より国家指導者としての存在感が問われる首脳外交をする違和感はぬぐいがたい。

 今回の会談は日本側の強い要望で実現した。米側はむろん麻生首相の政治的な窮状は承知のうえだ。それでもオバマ大統領にとって最も重要な施政方針演説の日に会談日程を入れたのは、首相が誰であれ「日本重視」で臨むというメッセージを、日本国民に送りたかったということに違いない。

 複数の米欧メディアは「たった1時間の会談のために1万1千キロの長い旅」などと、首相の訪米を皮肉を交えて報じた。オバマ大統領との出会いを国内での人気挽回(ばんかい)につなげたいというのが麻生首相の底意、と見立ててのことだろう。

 来月早々には英国のブラウン首相が訪米する。国際経済やアフガン戦略などをめぐって欧州側で進む作戦づくりを踏まえ、米英の連携を協議する。4月初めの金融サミット(G20)に向けて、主要国首脳の駆け引きはいよいよ激しくなるだろう。それと比べ、麻生首相の今回の訪米がいかにも軽く扱われるのは悲しい。

 近年、首脳外交の重要性はますます高まっている。その支えとなるのは国力であり、国を動かす首脳の力だ。国民の審判を避け続けた揚げ句、民意の支えを失いかけた政権がそれを成し遂げようとしても、もともと無理があるのだ。今回の訪米は、そのことを浮き彫りにした。

オバマ演説―大統領を待つ多難と希望

 未曽有の経済危機のさなかに就任して1カ月余り。オバマ米大統領は初の議会での施政方針演説で「我々は再建する。再生する。米国はいっそう強力になるだろう」と強調した。

 未来を切り開いていく決意の表れだろう。だが、政権運営の鍵となる共和党の協力は引き出せていない。経済の先行きもさらに厳しくなってきた。6割の支持率を背にスタートした政権も、前途は容易ではない。

 政権発足と同時に、オバマ氏は全力疾走で経済の立て直しに取り組んできた。7870億ドル(約74兆円)にのぼる史上最大規模の景気対策法をいち早く成立させたのは、胸を張れる成果だろう。金融安定計画や住宅差し押さえ対策も打ち出した。

 だがそれでも、金融機関への不安が再燃し市場が揺れている。ニューヨークの株価は演説の前日まで下がり続けた。先行きへの悲観論が消費者心理を冷え込ませている。演説で「危機のなかに希望を見いだすのが米国民だ」と励ましたのはそのためだ。

 求められているのは、緊急対策だけではない。将来への展望を示す指導力である。オバマ氏は危機を引き起こした経済のあり方を批判して、「つけを清算する日が来た」と宣言した。教育、医療、エネルギーを重点分野にあげ、長期的な繁栄の基盤づくりをすすめるというビジョンも示した。

 ただし、膨張しきった「つけ」をいざ清算しようとすると、ジレンマに直面せざるをえない。雇用確保にも、信用不安の解消にも、住宅ローンの救済にも、巨額の財政支出が必要になる。その結果、財政赤字が1・5兆ドル(約140兆円)と、前年度の3倍余りへ急増する見通しになった。

 共和党からは「政府の肥大化だ」と厳しい批判が出ている。オバマ氏も財政規律を重視するとして、予算の無駄の削減などを公約した。イラク戦争やアフガニスタンの戦費も明示する方針を示した。ただ、それで足りるわけではない。肥大化した国防費をはじめ、長年の既得権益へ大胆にメスを入れなくてはならないだろう。

 外交では「新たな関与の時代」を宣言した。米国だけでは脅威に対処できないとして、国際協調を強調したのは歓迎できる。ブッシュ時代の「テロとの戦い」という言葉も消えた。

 だが、当面の焦点であるイラクからの米軍撤退の日程や、アフガニスタンやパキスタンへの包括戦略はこれからだ。イラクが再び混乱したり、アフガン情勢が泥沼化したりしては、経済再生も絵に描いたモチになりかねない。

 「超党派の結束」をめざして反対派をねばり強く説得しながら、慎重に事を運ぶのがオバマ流のようだ。難しい決断であっても、方向性をしっかり示してほしい。

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