厚生労働省が、五年ごとに行う公的年金の財政検証に基づく今後百年間の将来試算を発表した。現役世代の収入に比べた厚生年金の給付水準を示す所得代替率は基本ケースで二〇三八年度から二一〇五年度まで50・1%で、政府が〇四年に約束した50%を維持できるとした。
〇四年の年金改革で、社会経済情勢の変化に応じ五年に一度は年金財政の持続性を検証すると法で規定された。今回が初の検証だ。調べた時点で五年のうちに50%を下回るようなら制度設計を見直す必要がある。
厚労省は試算の前提として、将来の経済指標と合計特殊出生率について高位、中位、低位の予測値を設定し、両方を掛け合わせた九通りのケースで所得代替率を計算した。基本ケースの場合、モデル夫婦世帯で〇九年度の二十二万三千円が三八年度は現在価値換算で二十六万三千円になる。代替率50%は維持できるものの、現在三十五歳の人が将来受け取る年金は今の高齢者より二割目減りする。
年金財政を維持するための給付抑制措置は一二年度から三八年度まで続き、〇四年想定の抑制期間十七年間から一気に長期化する。現下の不況や積立金の運用損を織り込んだためだ。
とはいえ、試算の前提は甘いといわざるを得ない。基本ケースで運用利回り(名目、年率)は4・1%、賃金上昇率(同)は2・5%を見込んだ。景気の低迷で〇八年十―十二月期の現実の長期国債(十年債)利回りは1・5%、賃金上昇率はマイナス0・9%である。
まず「50%維持」の結論ありきで、楽観的な前提に立ったとしか思えない。利回りと賃金の伸びを高く設定すれば所得代替率を高くできる。〇四年と同じ数値が前提なら所得代替率が47%程度にとどまることが、実態を物語っている。
「百年安心」の説明が、逆に危うさを浮き彫りにした。多くの人が既に年金財政の苦しさを知っている。この上数字のつじつま合わせでは年金不信がさらに募ろうというものだ。
医療、介護と併せ、社会保障制度全体の中で整合性を図りながら制度を根幹から見直し、将来不安を解消できる仕組みにする必要がある。困難な仕事であっても国の責務である。
政治の力に期待したいところだが、国会は与野党対立が続き基礎年金の国庫負担割合引き上げさえ決着がついていない。与野党は政治の責任として、安心を導く制度づくりへ取り組みを加速させなければなるまい。
東南アジア諸国連合と日本、中国、韓国(ASEANプラス3)の財務相会議が開かれ、通貨危機防止のための通貨交換協定の強化と、各国の経済状況を監視する独立機関の設立を盛り込んだ共同声明を発表した。
市場介入資金を素早く融通し、アジア通貨の安定、さらにアジア経済圏の拡大・発展への役割が期待される。かつて日本が提唱した「アジア通貨基金(AMF)」に近い形が姿を現してきたといえよう。
一九九七年からのアジア通貨危機で、日本はアジア独自の金融支援が必要としてAMF設立に動いたが、国際通貨基金(IMF)中心体制を守りたい米国の反対などで頓挫した。このため、日本は二国間で緊急時に資金を融通し合う通貨交換協定を積み重ねていく作業を進めてきた。現在、十六の二国間協定があり、一つの多国間協定に衣替えする検討が進められている。
共同声明では、通貨交換協定の資金規模の枠をこれまでの八百億ドルから千二百億ドルへ増額することに合意した。IMFが支援しない場合でも、経済監視に基づく独自の判断で資金支援できる割合を現在の20%から引き上げることを検討する。また、深刻な経済危機の中、世界各国で台頭する保護主義的な政策には強い反対姿勢を示した。
今後の課題は、経済監視機関を早期に具体化できるかどうかだ。どのような権限を与えるかや、事務局の設置場所などで各国の思惑は一致していないという。それでも、米サブプライム住宅ローン問題をきっかけとする金融危機の深刻化によって、通貨危機の予防策の重要性が再認識されたことは間違いない。
AMFを提唱した日本のリーダーシップが今こそ問われよう。アジアの連携と経済再生に向けて存在感を示す時だ。
(2009年2月25日掲載)