退職した年に始めた日記のタイトルを、「自由元年」とした人を知っている。それなりのわずらわしさはあっても、自由と呼びたい隠居暮らしである 仕事や家は若い者に任せ、趣味道楽を究め、諸国漫遊を楽しむ。時に若者を諭し、世の乱れをただす。ドラマの「水戸黄門」が年配者に根強い人気を集めるのは、「ご隠居」に自分を重ね合わせて楽しむ1時間なのかもしれない 年金制度の将来試算で、隠居しても「百年安心」のうたい文句が繰り返された。が、都合の良い数字を並べた「つじつま合わせ」と、評判は悪い。恐らく総選挙を意識した明るい予測が、逆に制度のもろさと将来の不安とをさらけ出した。皮肉な話である 現役世代が払う保険料が高齢者の年金に回る制度は、少子化の影響をまともに受ける。空前の不況も、働き手からの「仕送り」を細らせる。政治が手を打たないと、安心が消し飛ぶ制度なのである かごから放たれた鳥は、大空に羽ばたく。隠居やその予備軍は、不安をぬぐえずに、かごの周りをうろうろする。黄門さまの時代なら、「隠居一揆」が起きるころである。
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