DEATH NOTE×地獄少女
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しかし、車で向かった先は家ではなく、薄暗い廃墟であった。 

「ここは…?」 
「やっと二人きりになれたね…涼子。」 

涼子は体が硬直した。 
自分の身の危険を感じた。 

「迷子の迷子の子猫ちゃん…あなたのおうちはどこですかぁ?」 
「近寄らないで!」 
「涼子ぉ…なんで俺を遠ざけるんだい? 
こんなにも君の事を愛してるというのに…」 
「お父さんはどうしたの!?」 
「君と二人きりになるのには奴が邪魔だったんだよ…。 
もういいじゃないか…あんなにも告白のプレゼントを贈ったのに。」 
「意味不明の気持ちの悪いラブレター…
私の盗撮写真……極めつけは動物の死体まで送ってくるなんて、変質にもほどがあるわ!!」 
「なんだって…涼子。」 

この状況を影で見守っている人物がいた。 
シロタ=D=コンソメこと、レイ=ペンバーである。 

「…ヤバイ事になってきたな。 
しかし糸を引くまでは……その時に地獄少女は来るのか…?」 

彼女が藁人形を持っていることは事前に把握していた。 
後は糸を引くだけだがレイはその一瞬一瞬を見逃さず、銃を構え待機していた。 
このギリギリの中で出撃しないのも、FBIの判断力と視察力が身に付いているからである。 

「涼子…なんで、なんでおれ受け入れてくれないんだ! 
こんなにも愛しているのにぃぃーーー!!!」 

ストーカーの刑事は落ちている木片の棒を手に取り、襲いかかろうとしている。 

「どうして…!どうして私がこんな目にあわなくちゃいけないの!?」 
「ハァハァハァハァ…お前が悪いんだよぉ?涼子〜。 
もういいさぁ〜お前を殺して、動かない人形にしてあげるからさぁ〜…
そしたらいっぱい、いっぱいお着替えさせてあげるからねぇぇ〜〜…ハァハァハァハァァァッァ」 
「いやぁ!!!」 

狂気に満ちたストーカーは、そのまま涼子に襲い掛かった。 
そのとき……

「くそ!ここまでかっ!」 

レイは出撃した。だがその時、涼子は糸を引いてしまった。 

「助けて…私の救世主。」 

すると、レイの対向から別の警察官がやってきた。 

「おい!そこで何をやっている!?」 
「くそ…!」 

ストーカーは逃げていき警察官はそれを追って行った。 
レイは涼子の方へ向かっていき、手帳をみせた。 

「私は警視庁のシロタ…いや、FBI捜査官のレイ=ペンバーと申します。 
早速ですみませんが私の車にお乗りください。私も奴を追います。」 
「ど…どうしてFBIの人がここに…?」 
「それは車の中でお話しましょう。」 

そしてレイもストーカーを追っていった。 

「あの…先ほどもお話しましたが、何故FBIの方が日本にいるのですか?」 
「…凶悪犯連続殺人特別捜査、通称キラ事件を追っているからです。 
道を通りかかった瞬間、偶々あなたが被害にあっている現場に遭遇して 
助けに掛かりました。」 

地獄少女を追っているとは言えなかった。 
それは鷹村涼子がこの事件の実験体だったと言っているようなものである。 
キラ事件も黙秘していたかったが、この時ばかりはそうはいかない。 

「キラか…キラも殺人犯だけではなく、 
悪い人はみんな裁いてくれればいいのに。」 
「何故、そう思うんですか?」 
「倫理的に考えれば、裁判も猶予も無く人を殺すのは馬鹿げています。 
でも実際被害にあった人の立場から考えたらそうでは無いと思うんです。 
どんな小さな罪でも、自分の立場からすればその罪は大きい。 
しかし現実で自分は犯人を殺すことは出来ない。 
そんな時、『妄想』と『祈り』が私を助けてくれるんです。 
頭の中では永久に牢に閉じ込めようが人を殺そうが、何をしてもかまわない。 
キラは…そんな私の妄想が具現化したような人物なんです。」 

しばらくの間、沈黙が続いた。 
レイの立場からすればそれは正論ではない。 
だが真由美のときとは違い、反論は出来なかった。 
人の思想は自由でありそれを裏付けるのは、 
実際に涼子が被害者であり、それを見てしまったからである。 

「…そういえば、私はあなたの名前をまだ聞いていませんでした。 
よろしければお教えくださいますか?被害届けも出さなくてはいけない。」 

レイは事前に知っていたが、 
改めて聞き、場の雰囲気を変えようとした。 

「鷹村涼子といいます。」 
「涼子さん、地獄通信って知ってますか? 
これはキラ事件の次に日本で問題になっているものでして、 
先日私も初めて知りました。局地的な事件なので 
アメリカでは話題になりませんでしたが。」 

地獄通信の名前が出たとき、涼子の顔が一瞬虚ろ気になった。 

「一応知ってます…。」 

「行方不明ということになっている地獄通信の被害者の方は、 
まだ助かる希望があると私は思います。」 

「多分…助からないと思いますよ。地獄通信の噂、知ってます?
通信の主、地獄少女は恨みの相手をそのまま地獄に送ってしまうんです。」 

「…地獄なんてあるわけない。神もいない。 
キラや地獄少女は、この世の神にでもなろうとしているのだろうか。」 

「…そうですね。また、私は妄想に囚われていました。」 
「…色々と大変だったようですね。応援も呼びましたので、 
必ずストーカー犯人を捕まえます。 
私の先の、犯人のすぐ後ろを追っている警官もいるので大丈夫でしょう。」 
「そう…ですね…」 

涼子は確信を持っていた。誰より先に地獄少女が手を下すと。 

「…どうやら犯人は病院に逃げ込んだようです。 
今は夜、人がいない暗い病院でその場で身を隠し、 
我々を見計らって逃亡すると思われます。 
…涼子さんはここで待っていてください。」 
「わかりました…。」 

一方、この会話を傍受していたLは考察した。 

「どういうことだ…?このレイ=ペンバーの会話は…
『犯人のすぐ後ろを追っている警官』とは、一体…
この監視カメラの先は、犯人しかいない。 
レイ=ペンバーの見誤りではない……
鷹村宅でも同一の現象が起きた。 
そして、鷹村自身が糸を引いた…これは…
…これも地獄少女に関係していると思うべきか…。」 

監視カメラ越しには警官の姿は写ってなかった。 
そしてLはワタリに通信した。 

「ワタリ。」 
「今から私とレイ=ペンバーが直接通信出来るようにしてくれ。」 
「かしこまりました。」 
「…地獄少女。確実に追い詰められているはずだが、 
お前には存分に余裕を感じさせられる…これは私の杞憂か…?」 

病院前には先を追っている警官とストーカーがいた。 
レイは外に出たその時、携帯から電話が掛かってきた。 

「…もしもし?」 
「ワタリです。Lの要望があり、 
今から直接貴方の携帯にLの通信を送ります。」 
「なんだって!?それはなぜ…。」 
「リアルタイムで貴方に指示を送りたいとのことです。 
「わ、わかった。」 

レイの携帯からLの通信が来た。 

「Lです。レイ=ペンバー捜査官、今正面には誰がいますか? 
今、貴方が持っている鞄の中の小型カメラでは範囲が狭いので。」 
「犯人と、犯人を追っている警官です…今病棟に入りました。 
私も犯人を追ってみます。」 
「…その警官が犯人をそのまま追っていれば構いませんが、 
もし犯人と警官が別々になってしまったら、警官を追跡してください。」 
「そ…それは何故ですか?」 
「その警官は地獄少女の一派だと思われます。 
犯人は他の警察官たちに任せてください。」 
「なんだって…!わ、わかりました…!」 

レイは病棟に入ると二階に上っていく犯人と警官を見かけた。 

「そこの警察官の方、応答を願いたい! 
私は警視庁のシロタ=D=コンソメと申します!」 
「警察手帳に拳銃…どうやら本物のようだな。やれやれだぜ。」 

しかし、警官は無視してそのまま行ってしまった。 

「やはり地獄少女の一派なのか…! 
犯人を追っていたあの時日本警察ではそう簡単に、 
銃は使わないと思い、何故銃を持って威嚇をしないかなど 
思ってもいなかったが…くそ!」 

2階に上ると犯人が右に逃げていく中、警官は左に移動した。 

「私を撒くつもりなのか…!」 

レイもLの指示に従い、警官を追った。 
警官はレイを誘うかのように部屋に入っていく。 
レイも部屋に入ったが中には誰もいなく、何も無い空き部屋であった。 

「くそっ…ここは2階だぞ。どこから抜けたというんだ…?」 
「…レイ=ペンバー捜査官、犯人を追ってください。 
私たちを撒き、犯人と接触を試みているのかもしれません。」 
「わかりました。」 
「ぎゃああぁぁぁぁ!」 

その時、右の通行路から悲鳴が聞こえた。 
犯人は廊下に立ちすくみ対面している部屋からは明かりが灯ってた。 
レイはそこに向かい、銃を構える。 

「まて!そこから動くな!」 

しかし犯人は『引きずり込まれる』かのように部屋に入っていった。 
レイも急いで部屋に入ったが、またもやそこには誰も居なかった。 

「なぜこうも、一瞬の内に消えることが出来るんだ…? 
これは一体…。」 
「…どうやら警察隊が来たようです。一度、彼らと合流してく………」 
「L…?くそっ、電波妨害か。」 

小型のカメラも起動しなくなった。 

「ワタリ?」 
「…すみません、L。病院周辺に謎の電波ジャックが入りました。 
早急に対応します。」 
「頼む。」 

全て地獄少女の計画通りに進んでいった。 

「何故部屋から消えることが出来た…あの部屋にはトリックも何も無い。 
『地獄少女』……そんなものの存在を信じろとでもいうのか…。 
…どの様な裁きを行っているかは知らないが、お前は悪だ。 
意義が違えど、やっていることはキラと同じ…
そしていずれ…どちらも処刑台に送って見せよう。」 

―――ストーカーは今あの引きずり込まれた病室に居る。 
その前方には長襦袢の着物を着た少女、閻魔あいがいた。 

「この部屋に涼子が居たと思ったら…ば、化物にかわりやがった! 
これはどういうことだぁぁーー!」 

するとまた背後から気配がした。 

「あの子がどんな思いをしてきたか分かってるのかい? 
あたしゃあ、あんたを見てると気持ちが悪いよ。」 
「運悪く本物の警察と鉢合わせになっちゃったよ。 
…まあこうやってうまく誘い込めたんだけどね。」 
「自分の罪を認めるきになったか?」 

それは骨女、一目蓮、輪入道の三人。 
レイの先にいた警官の正体は一目蓮であった。 

「ふざけるんじゃねぇぁぁ!あいつが悪いんだよ! 
こんなにも俺が愛してるのによぉぉおぉ!!」 
「だってさ、お嬢。」 

あきれ返った一目蓮が切り出すと、 
あいはストーカーの方ににじり寄って来た。 

「闇に惑いし哀れな影よ……
人を傷つけ貶めて…罪に溺れし業の魂…」 
「ひぃぃ!?」 
「イッペン、死ンデミル?」 

その瞬間ストーカーは幻覚に捕らわれたかのように、 
闇に堕ちていった………

「はっ!?」 

目覚めると、ストーカーは小船に乗っていた。 
川の周りには灯篭が流れており、小船を漕ぐ少女が一人。 

「ここはどこだ!?」 
「地獄行きの三途の川…
ここは妄念に捕らわれた貴方には、よく似合う場所……。」 
「ふざけるなぁ!」 

あいに襲い掛かろうとしたが、 
ストーカーはこの世のものとは思えぬ輩に 
身体を雁字搦めにされてしまった。 

「ひいぃぃ!? 
逝きたくないー!逝きたくないよぉぉ!!!」 

暗い地獄へ案内(あない)をたのむ、 
金の羊に、鶯に。 
皮の嚢(ふくろ)にやいくらほど入れよ、 
無間地獄の旅支度。 

「この恨み…地獄に流します……」 

囚われた魂は、地獄へ堕ちていった。 
死神をも知らぬ地獄へと…。 

「終わったな、お嬢。」 
「そうだね…」 

あいの見つめる先には、鷹村涼子がいた。 
レイ=ペンバーは鷹村の待つ車へと戻っていった。 

「遅くなってすいません…犯人は病院から失踪した模様です。 
申し訳ありません、総動員で探しましたが…。」 
「いえ…いいんです。今回の件はありがとうございました。」 

少女の胸元には契約が完了した証の刻印が刻まれていた。 
少女は、小声でつぶやいた。 

「…これでいいの。私の救世主は地獄少女。 
私のような目の届かない罪は地獄少女が恨みを晴らしてくれる。 
魂を犠牲にして、自業自得でなければいけないけど…でも…
キラと地獄少女がいれば、この世はいずれ平和になる。 
それを望まない人がいても…必ず。」 

キラの支配を代償に、安寧とした世界を望む者。 
それに反抗し、現在の状況を維持しようとする者。 
地獄少女はどちらにも興味が無い。 

「啼けよ…鶯、林の雨に…
妹恋しと声かぎり…。 
啼けば反響(こだま)が地獄にひびき…
狐牡丹の花がさく…
地獄七山七谿めぐる、可愛い…
ふぅ……やめよ。 
…『夜神月』…あなたは、一体…。」 

あいは詩を歌ったが、途中でやめてしまった。 
閻魔あいは、どれにも交わらずただ自らの任務を遂行する。 
彼女はそれだけの為に、幾何年存在し続けてきたのだろうか。 
それでも時は止まらない。 
そして月とL、この先どちらに勝敗は転ぶのだろうか。 
未来は、誰にも分からない―――



完 


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