DEATH NOTE×地獄少女
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「…おいおい月。名前を打ち込まないと駄目だろ。」
「これはあくまで地獄通信=デスノートってことじゃないさ。
Lという固有名詞の人物なんて今じゃあの有名な名探偵だって誰だって思うだろ?
そしたらLの素性、周りを少しは調べてくれるかもしれないって思ったんだ。
まあ誰かのイニシャルって場合で、不特定多数になる場合もあるけどね…
冗談半分で書いてみただけだよ。」
「前に書いた奴より難易度が高いぞこれ…。」
「…まあ、僕が本気で憎んでいる人物といえばLだからね。」
その時、月とリュークの背後から気配がした。
「何!?」
月が背後を振り向くと、そこにはセーラー服を着た黒い長髪、赤い瞳をした少女が立っていた。
そして少女は月にこう述べた。
「私は閻魔あい…呼んだでしょ?」
月とリュークは驚愕した。
「地獄少女だと!?何時の間にそこにいたんだ…?」
「………。」
リュークは沈黙して彼女を見ていた。
リュークも驚いたのは、彼女が人の形をした者だったからである。
だが地獄少女は淡々と行動を移していく。そして月に赤い糸の付いた黒い藁人形を渡した。
「これは…?」
「貴方が本当に恨みを晴らしたいと思うなら、その赤い糸を解けばいい。
糸を解けば、私と正式に契約を交わしたことになる。
恨みの相手は、速やかに地獄に流されるわ…。」
「地獄…だと?」
「…ただし、恨みを晴らしたら、貴方自身にも代償を支払ってもらう。」
「代償…?」
「人を呪わば穴二つ…貴方が死んだら、その魂は地獄に堕ちる。
極楽浄土へは行けず、貴方の魂は痛みと苦しみを味わいながら…永遠に彷徨う事になるわ。」
「……ちょっと待ってくれ。いくつか聞きたいことがある。」
月は考察した。眼前にいるのは中学生くらいの少女。
いつの間に部屋に入り込んできたのか。
密閉した部屋で物音を立てずに入り込んでくるのはありえない…。
「何故今頃ここに来た?以前僕は別の人物の名前を書き込んだはずだが。」
「それは貴方の『私怨』が本気ではなかったからよ…。」
恨みの重さが分かるなんて、馬鹿馬鹿しいと誰もが思うだろう。
しかし月の疑念は当たっていた。Lと送信してから来たのだから。
「…僕は地獄通信に『L』と書き込んだ…それが誰だか分かるのか?
そしてその人物の名前、顔、居場所などの詳細を突き止めることは可能か?」
「名前や顔は別にいい…必要なのは、居場所。
それが分かれば後は調べさせるわ。」
「なん…だと…?そしたら、居場所が分からぬまま糸を引いたらどうなる?」
「…そうしたら最初に依頼した人物が対象になる。」
「ふざけてる…馬鹿馬鹿しいな。」
「私も模索してみる。でも、貴方自身が見つけてくれれば、
その時点でこちら側も行動しやすい。」
地獄少女とは一体…
「後はあなた次第よ…」
「まだだ…待て……!」
しかし少女は壁際から消えていった。
これは月にとって予想外であった。
もはや『人』とは言えない行動に見えたからである。
「…月。面白いことを教えてやる。俺のこの死神の目は人間の名前と寿命が見えるのは
知っているだろう?…だがあいつは何も見えなかった。」
「なんだと…それは本当か?その条件を満たすのは死んだ人間だけじゃないのか…!?」
「さすがの俺も焦っちゃったぜ。」
「…リューク、単刀直入に聞く。あいつは死神か?」
「だったら俺も驚かないって。あんな人間みたいなやつ死神界には絶対いない。」
「リュークの話はなんか信用出来ないな…案の定地獄に堕とすとか言ってたが…
恨みを晴らせば、死後僕自身も堕ちるのか…どういうことだ…?」
「…本来、地獄という概念は人間が作ったものだ。それに固執しているということは、
『元々は』…ということもあるが、何にせよあいつは『人間』だ。」
「…まあいいさ。それが地獄少女側の脅迫であることは確かだ。
そして僕はこの糸を解かない。後で厄介なことになっても面倒だからな。
この噂についても新たな情報が把握出来た。」
「なんだ?」
「いくつかある…。
1.恨みの相手の本名を書かなくても依頼は可能
2.しかし地獄少女側の条件を満たしていない場合は本名を書いても来ない
3.共犯者がいる
唯一の疑念は…やつは何故『顔』を見なくても可能と答えたのか…。
いずれにせよ奴がDEATH NOTEを使用している可能性は60%ぐらいか…
その他の殺害方法が30%、10%は…僕が知り得ぬ『常識を超えた何か』と考えるしかない。」
「月、共犯者がいるというのはなんで分かった?」
「やつが『調べさせる』といったからだよ。
それに僕はまだ地獄少女が死神だという複線を捨てたわけじゃない…
あんな物理的に不可能なことを成し遂げたのだから。」
「俺って信用ないなぁ。ところでその糸、解いてみれば?」
「馬鹿いうなよ、地獄に堕ちてしまうんだぞ。」
「お前って迷信とか信じるほうなの?」
「この藁人形はセンサーらしきものはついていない。
もうこれはDEATH NOTEと同じ現代の科学を、
超越した物と思わなければ…いや、信じなくてはならない。」
そのときまたもや予想外のことが起きた。
「おい月!藁人形が!」
何と月の持っていた藁人形が忽然と消えてしまったのである。
「…なんだと?…これは。」
「ライト?」
「…はは、どうやら向こう側も判断したようだ。」
「判断?」
そう言うと月はノートに『閻魔あい』と名前を書き込んだ。
「まあ名前も寿命も見えない…
そして偽名と分かる苗字だが、一応書いておくか。」
「…俺の目は死んでいると判断していたからな。」
「まあいいさ、あいつはキラ事件に関与しない。
忠実に己の任務をこなす隷属だ…。」
月はいずれ地獄少女自身をも解明しようと思っていた。
『この世は腐っている…。』
ニ度起こった不可思議な出来事に、己の探究心が駆出していた。
「…『人を呪わば穴二つ』、か。はは、面白いよ…閻魔あい。
いつか…貴様の全貌をも暴いてやる。」
ある夕暮れの里。現代には数少ない村落の風景。
そして現世とは何かが違う、美しい夕日が映し出されていた。
「なあ、キラ事件って知ってるか?」
「…ああ。あの殺人犯が大量に死んでいる事件のことね。」
「これがほとんど心臓麻痺が原因で死んでいるんだ。
お前はどう思う?」
「もしかして、あたし達以外にも人外の力を持っている輩がいるってことかい?」
「やっぱそう思うよなぁ。あんなこと人間界で起こったことないし。」
彼らの名前は『一目蓮』と『骨女』といった。地獄少女に仕えている妖怪である。
彼らが談話をしていると、夕日の向こうから閻魔あいがやってきた。
「お嬢のお帰りだ。」
「…輪入道は?」
あいはそう彼らに問う。
「え?輪入道は依頼者の所だろ?お嬢はそこに行ったんじゃないのか?」
「早々に撤退させた。」
「そりゃまたなんでさ?」
「…依頼者が完全に糸を引く様子を見せなかったから。
それに他の人間と違ってた…妖(あやかし)がついていたわ。」
「なんだって?それはどういう妖怪なんだ。」
「私にもよくわからない。黒い羽の生えた、鬼に似た風貌…。」
「…ちょっと俺も見てくるぜ。」
一目蓮は去り、月の部屋を覗いてみた。天井には奇妙なものが映し出されていた。
『目』である。彼は千里眼の持ち主の妖怪であった。
しかし、彼にはリュークの姿は見えなかったのである。
ただ月が小さな声で一人で喋っている様にしか見えなかった。
一目蓮自身も奇妙に思い、夜神家を後にした。
「どういうことだ、お嬢。何も見えなかったぜ?
依頼者が一人でぶつぶつ喋ってたが。」
「もしかして…私にしか見えない……
…妖と喋っていた…やはり…夜神月……彼は、私と同じく妖を従えている…?」
異様な依頼者の事を議論している間、あいのもう一人の使い魔である輪入道が帰ってきた。
輪入道は黒い藁人形に変化していた妖怪である。
「たくっ。一人でぶつぶつ何か言ってたが、なんだったんだ。あの依頼者は。
ありゃ恨んでいる様子なんて全く無かったぞ。
お嬢も何故あの依頼を受けたんだ?」
「…それは…わからない。でも…」
普段は、常に無表情の少女。
だがその顔には少しばかり陰鬱な表情を浮かべていた。
「でも…ちょっとだけ恐怖心を感じた。これは一体…。」
そのとき…
「あい〜。依頼が来てるよ〜…。」
屋敷の中から老婆らしき声が聞こえた。
「わかった、おばあちゃん。」
「…お嬢。何を考えてるかはあたしには分からないけど、
前の依頼者のことは忘れて、今の仕事に専念した方がいいよ。」
「…わかっているわ。」
「………。
あたし達はお嬢に使える妖怪。この依頼の調査、どうぞ使い回してくださいな。」
夜神月について様々な疑問がある中、あいは次の依頼者の下に向かった。
そのころLはPCの置いてある対象者の部屋を四六時中見回していた。
計数十人はいる…そしてこの中で近日中に地獄少女は現れると、
確信たるものを持っていた。そのとき…
「……様子がおかしい。この人物は、鷹村涼子か。
以前からストーカー被害にあってるという……」
監視カメラ越しの鷹村涼子と呼ばれた人物は、恐怖に怯えた様子だった。
そして焦燥の中、彼女は地獄通信にアクセスしたのである。
書き込んでいる名前をカメラで見てみると、そこには『ストーカーの人』と書かれていた。
地獄少女の一連の噂は彼女も知っていたが恐怖心のため、
そして名前も分からぬので我を忘れてこう書いてしまったのだろう。
「………。」
Lはこの状況を静観していた。
―――彼女は今、ストーカーらしき人物から電話が掛かってきている。
そして怯えている。何度も何度も繰り返されてきたのだから。
「もう嫌…どうして…なんで私だけこんな目に……」
彼女の被害状況は未だに証拠不十分であり、警察も手を出せなかった。
故にこの状況が一年間も続いていたのである。
彼女は耐えられなくなり、地獄通信にアクセスをしてしまった。
「助けて…もうこんな生活は嫌………!」
困惑の中、彼女の後ろに地獄少女は現れた。
だが涼子は驚く様子を見せなかった。
ありがたい、と思う気持ちの方が上回ったからである。
「私は閻魔あい。呼んだでしょ?」
「あ…あなたが地獄少女ね!お願い、私を助けて!」
「私に人を助けることは出来ない…ただ、相手の恨みを晴らすだけ。…これを。」
あいは例の藁人形を渡した。
「これは…?」
「貴方が本当に恨みを晴らしたいと思うなら、その赤い糸を解けばいい。
糸を解けば、私と正式に契約を交わしたことになる。
恨みの相手は、速やかに地獄に流されるわ…。」
「ほ、本当に?これを引くだけで…」
「ただし、恨みを晴らしたら、貴方自身にも代償を支払ってもらう。」
「え…?」
「人を呪わば穴二つ…貴方が死んだら、その魂は地獄に堕ちる。
極楽浄土へは行けず、貴方の魂は痛みと苦しみを味わいながら、永遠に彷徨う事になるわ。」
「そ…そんなことが…。」
「…後は、貴方次第よ。」
そう言い残すと、閻魔あいは闇へ消えていった。
「一体…何が起きたというんだ。」
一方、一部始終を見ていたLはこの状況を考察していた。
何故なら監視カメラ越しには、閻魔あいの姿が映ってなかったからである。
「…鷹村涼子は一時的に暗示をかけられているのか。
それとも鷹村自身が監視カメラに気付き、自演をしていたのか。
ストーカー、もしくは地獄少女などの犯人に脅されて演じていたのか。
…そして問題なのは、あの藁人形は何処から出現したのか。
一瞬のうちに、鷹村の手のひらの上に乗っていた…何故。」
不明瞭な部分が多すぎるため、そして非現実的な情景が
浮かび上がってしまったためLは思いとどまっていた。
「いや…今突き止めるべきは地獄少女の正体だ。
キラと違い、これは隠蔽的ではない。明らかに私は今、
地獄少女の真相に近づいている。そして人形にも糸が付いていた…
…それは確かだ。」
『藁人形の糸を引くと、地獄少女が現れる』
このキーワードが引っかかり、まさに今吊り上げようとする寸前である。
Lは好機を逃すべく、ワタリに次の指令を出した。
「ワタリ。レイ=ペンバーに鷹村涼子の尾行を要求してくれ。
…もし、鷹村が藁人形を手に持ったら辺りと鷹村自身を警戒するように、
それと鷹村自身に危険が及んだ場合、極力最低限突入は控えるようにと伝えてくれ。」
「対象者を彼女に搾るのですか?」
「ああ。ある程度証拠は掴めた。
それとワタリ、鷹村家の車、クラスルームにも監視カメラを付けてくれ。
簡易的でかまわない。」
「了解いたしました。」
「頼む。」
鷹村涼子は学校で授業を受けていた。
そこで彼女は一時的にだが落着した様子を見せている。
彼女にとって学校が一番安全、そして安らげる場所であった。
「私の目の前に救世主みたいな人が現れてくれたらなぁ…。
…キラ……キラが奴を裁いてくれればいいのに…。」
そう思っているのも束の間、時間はあっという間に過ぎてしまう。
「はぁ…」
彼女は最近になって車で登下校をしていた。
父親が娘の身を案じて送り迎えをしてくれ、
鷹村家も常に警戒心を持つようになっていた。
しかし車にいたのは…
「え…どうしてあなたがここに?」
「やあ、涼子さん。」
車にいたのは、彼女の事件を受け持つ中年の刑事であった。
彼は父の車にいる事情を説明した。
「どうやら君のお父さんが犯人を見つけたらしくてね、
そのまま追いかけていったんだ。迎えは私に任された。
君を送ったら、俺も追跡してみよう。」
「遂に犯人を見つけたんですね…!」
涼子は心の中で大いに喜んでいた。
つらかった生活がやっと終わると、そう思っていた。
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