こどもアサヒ

「歩行中」の子どもを交通事故から守ろう
2008年の交通事故 「乗車中」上回りトップに
イラスト・高田ゲンキ

 2008年の1年間に交通事故で亡くなった人のうち、「歩行中」に事故にあった人の割合が33.4%となり、「自動車乗車中」(33.2%)を上回って34年ぶりに最も高くなりました。子ども(15歳以下)は、歩行中の交通事故死者の割合が43%と、お年寄り(65歳以上)と並んで高い年代です。子どもたちを歩行中の交通事故から守ろうとする取り組みを紹介します。

分離信号を広める
歩行者用青のとき、車用は全方向赤に

 交差点で青信号を確かめて横断歩道を渡っていて、右折や左折の車にひかれる――。こんな事故を防ぐため、東京都八王子市の長谷智喜さんは、歩行者用の信号が青のときはどの方向の車用の信号も赤になる「歩車分離信号」を広める活動をしています。

 17年前、5年生だった長男の元喜くんが、交差点の横断歩道を青信号で渡っていて、後方から左折してきたダンプカーにひかれて亡くなりました。「新聞記事などで調べると、同じような事故が後を絶たない。子どもを守るためには歩行者と車を分けるしかないと考えました」と長谷さん。今、最も多い「非分離式」の信号では、青になれば歩行者の横断、車の直進と右左折が同時にでき、横断中の事故を防ぐのは運転者の注意力しかないからです。

 署名集めなどを重ね、事故があった交差点は02年3月に分離信号になりました。08年4月には、通学路の交通安全に取り組んできた大阪府豊中市教職員組合とともに、全国に広げる会をつくりました。

 警察庁は02年1月から半年間、全国百か所で分離信号の試験を実施。その結果、人と車の事故が7割減るなど、安全の効果が明らかになり、分離信号の整備を進めています。それでも08年3月の時点で全国の分離信号は4538基。信号機全体の2%です。なかなか広まらないのは、車の渋滞を心配する人や、信号待ちの時間が長くなることを不便と感じる人が多いから、といわれます。

 18日、長谷さんは東京都町田市の忠生第三小で、3年生に命の授業を行いました。元喜くんの同級生だった、3年生担任の上島真一先生の招きです。長谷さんは「車を早く多く通す効率よりも人の命が大切だと、みんなの意識を変えなければ」と語りかけました。

【2008年の交通死亡事故】
死者数は5155人(前の年より589人減)。うち歩行中1721人、自動車乗車中1710人。15歳以下の死者数は127人。うち歩行中55人、自動車同乗中34人、自転車乗用中30人。(警察庁まとめ)

消防車にも張られた「ソフトドライブ」のシール=千葉県浦安市で

ソフトドライブ運動
運転者にシール配り安全運転よびかけ

 千葉県浦安市では、小学生の事故をきっかけに、安全運転を広げようと、「ソフトドライブ(やさしい運転)」と書かれたシールを運転者に配る運動が行われています。

 07年9月、同市富岡の交差点で、青信号で横断中の4年生の男の子が、後方から左折してきた大型トラックにひかれて亡くなりました。近くに東京ディズニーリゾートや、鉄鋼材販売業者が集まる浦安鉄鋼団地があり、交通量が多く、大型車が目立つ場所。「ずっと危ないと思っていたのに、事故が起きてしまった。何かしなくちゃ、と思いました」と、交差点近くにある見明川中学のPTA副会長、渡辺伸子さん。周辺の自治会のメンバーら同じ思いの人と「安全な富岡交差点へ! 市民連絡会」をつくりました。

 連絡会の働きかけを受け、市は見通しを悪くしていた木を切り、街灯を明るいものにかえるなどしました。「でも、この交差点だけ安全になっても、ほかで事故が起きては意味がない。市民が安全運転をすることで、市外から来る車にも見習ってもらおうと、08年2月からシールを配り始めました」と渡辺さん。

 これまでに配ったシールは1万枚以上。市はシールを公用車約150台に張り、09年1月の成人の日には約1500人の新成人に配りました。市内のバス会社東京ベイシティ交通は路線バスなど125両すべてに張りました。バスの運転手さんは「お客さんや道を歩く人によりやさしく、という意識を持つようになりました」。

 それでもまだ、事故の心配がなくなったわけではありません。16日午後、事故があった交差点を渡って下校していた小学3年の女の子は「右を見て左を見て渡ろうとしても、グーンと強引に曲がってくる車があってこわい。運転する人は子どものことをもっと見てほしい」と話していました。


朝日小学生新聞 2009年2月24
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