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社説:年金の財政検証 甘い前提を排し試算やり直せ

 経済の実体を直視せず、現実離れした前提を置いて厚生労働省が試算した年金財政の見通しに、どれほどの意味があるのか。政府は足元の厳しい経済状況を踏まえたうえで長期展望を見据え、年金の財政検証をやり直すべきだ。政府・与党の政策目標である経済の前提条件をそのまま使って試算を行い「これで年金は100年安心」と言われても、果たして国民は信用するだろうか。

 厚労省が公表した公的年金の将来見通しは、物価、賃金の上昇率と積立金運用利回りについて、前提条件が楽観的過ぎる。いくら長期間の見通しと言われても、国民の実感と大きくズレている。

 試算は9通りの前提条件で行っているが、中位の基本ケースは、物価が1%、名目賃金が2・5%上昇、年金積立金の運用利回りが4・1%となっている。最悪のケースでも物価は1%、賃金は2・1%、利回りが3・9%だ。現在の状況などを見る限り、最悪のケースでさえ達成は相当に難しい。基本ケースでみると、モデル夫婦世帯の年金給付水準は現役男性の平均的手取りに対して、09年度は62・3%だが、その後年々下がり、38年度には50・1%で下げ止まるというのが政府の見通しだ。

 今回の財政検証をどう読むのか。ポイントは04年の年金改正で、政府・与党が約束した「年金給付額は現役の平均手取り賃金の50%保証」を最優先させたことだ。そのためには甘い前提を置かざるを得なかった。

 04年の年金改正では、少子化と高齢化の同時進行を見込んで、年金保険料を固定し年金給付の伸びを賃金・物価の伸びより低く抑える「マクロ経済スライド」方式が導入された。だが、選挙を意識した与党が「50%の給付保証」を主張、今回の財政検証はそれに合わせる形で「作られた」試算になったことは否めない。

 100年先のことは誰も分からないが、経済政策を総動員しても達成できそうにない前提を置いて年金財政の推計を行い、数字の上で現役収入の50%確保にこだわる意味があるのだろうか。政治家に顔を向けるのではなく、国民のために現実的で説得力のある見通しを示し、活発な年金の改革議論の材料にすべきだ。

 日本の年金制度は現役の保険料で高齢者の給付をまかなう世代間の仕送り方式を採用している。少子化や不況などで保険料収入が減れば、負担と給付の見直しや年金支給年齢の引き上げ、さらには税金の大幅投入などの対応策が必要になる。しかし、現実には年金改革の議論は進んでいない。そこで考えたのが問題の先送りだったのだろう。甘い試算を示し、その場を何とか取り繕おうとしたのが、今回の財政検証の本質ではないのか。

 子供や孫の世代にツケを回す問題の先送りはすべきではない。

毎日新聞 2009年2月25日 東京朝刊

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