企業経営者にとって大変厳しい状況になっている。昨年6月末の株主総会で社長になった人たちにとってこの環境激変はまさに青天の霹靂(へきれき)だっただろう。就任時に思いを込めて宣言した経営方針は空疎な色を帯び経営計画はあっという間に棚上げになった。業績は赤字に転落、月を追うごとに悪化する。報酬は返上、明日を考え日々眠れない夜を過ごす。資金不足に陥らないか。いつまで耐えられるか。あの取引先は、あの提携先は大丈夫か。従業員を不幸な目に遭わせるわけにはいかない。めぐり合わせとは言いながら今社長の職にある人は不運である。だが逃げることはできない。
今年も4月に、あるいは6月の株主総会を機に多くの企業で経営体制が一新される。中にはオーナーが再び陣頭指揮に立つ企業もあるようだ。権限と情報を集中し、トップとしてオーナー自らが第一線で営業に当たるという。時を同じくして我が国を代表する自動車メーカーの創業家への大政奉還も決定された。
意味するところは今こそ求心力が必要な時だということだろう。企業の創始者の多くは家屋敷まで抵当に入れ血のにじむような努力をもって事業を興してきた。今の企業はその積み重ねの上にある。オーナーの再登場は個人の力に対する期待と同時にそのDNAを組織として呼び起こそうということだろう。
いずれにしても今ほど社長個人の力量と覚悟のほどに結果が左右されるときはない。創業家一族として社を率いる社長、あまたの社員の中から抜擢(ばってき)された社長、親会社から派遣されている社長、就任の経緯はともかくとして会社の将来が社長の肩に重くのしかかる。社長にとってつらい時代である。(啄木鳥)