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社説

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NHK標的―暴力や脅しは許さない

 深い憤りを覚える。NHKを標的にした相次ぐ事件である。

 日曜日の夕刻、福岡放送局の玄関付近で「ボン」という音が響き、置かれていたガスボンベが爆発した。燃え広がることはなかったが、天井に穴が開くなどの被害が出た。

 爆発の直前、不審な男が現場にバッグを置いて立ち去った。その姿をとらえた防犯カメラの画像が公表された。

 この事件の翌日から、別の事件が続いている。

 東京・渋谷にあるNHK放送センターや札幌、長野、福岡の各放送局あてに、ライフルの実弾のようなものが送りつけられた。実弾らしきものが張りつけられた紙には、「赤報隊」の3文字が印字されていたという。

 いずれも狙いや意図はわかっていない。NHKは「脅迫など、特に警戒や注意を要するようなことは最近なかった」としている。爆発事件と不審な郵便物との関連性も、今のところは出てきていないようだ。

 だが、犯人像や動機がどういうものであったとしても、これらの事件を見過ごすわけにはいかない。

 放送局の玄関で爆発事件を起こすことは、まぎれもない報道機関への暴力である。理由を問わず、決して許されることではない。かりに、NHKの業務や放送内容に対して不満や恨み、言いたいことがあったのだとしても、なぜ言葉で伝えないのか。

 もしも「騒ぎを起こしたかった」などの動機だったとしても、あまりにもたちが悪い。幸いけが人はなかったが、一つ間違えばホールにいた人たちに危害が及びかねなかった。

 実弾らしきものの送りつけ事件も、無言の暴力である。いやがらせや愉快犯の可能性ももちろんあるが、受け取った側に薄気味悪さや恐怖心を抱かせようという意図がみてとれる。

 「赤報隊」の名は、87年に朝日新聞阪神支局で2人の記者が殺傷された事件などで犯行声明に使われた。一連の事件は未解決のまま時効を迎えたが、本社は今でも真相解明を目指している。NHKへの送りつけ犯が脅しのためにこの名を使ったとしたら、とんでもないことだ。

 報道や言論を力で封じ込めようとする。あるいは人を脅して憂さ晴らしをする。そんな身勝手さは社会全体への挑戦でもある。

 河村官房長官は「報道の自由という観点からしても、民主主義を脅かしかねない。極めて悪質なもので、政府としても看過できない」と懸念を示した。当然のことだ。

 警察には早く犯人を検挙し、動機などを解明してもらいたい。

 同時に、こうした暴力や脅し、いやがらせを認めない。その思いをあらためて社会で共有したい。

東京五輪招致―新しい首都像を見たい

 東京でぜひ開きたい、開催してもよい、と皆が思える五輪とは、どんな姿なのだろう。

 2016年夏季五輪の開催地決定まで、あと7カ月余り。シカゴ(米)、マドリード(スペイン)、リオデジャネイロ(ブラジル)との招致争いはいよいよ佳境に入る。だが、東京が国際オリンピック委員会(IOC)へ提出した計画書からは、その具体像がまだ十分浮かんでこない。

 「世界一コンパクト」をうたうこの計画では、半径8キロ以内に95%の競技、宿泊施設を配置する。選手の移動や警備の面でIOCに評価はされるだろう。その一方で、交通渋滞が激しい都心での五輪開催がさらに混雑を激化させないか、不安を覚える人は多い。

 競技会場の7割は64年の東京五輪の時に造った既存施設を利用するという。節約の姿勢は大いに買うが、その多くは大幅な改修が必要だろう。

 「省エネ技術や再生可能エネルギーの活用で二酸化炭素を削減する」「街路樹や公園の整備で新たに1千ヘクタールの緑をつくる」。計画書が掲げる地球温暖化対策は、実現すれば魅力的だ。大会期間中だけでなく、これを東京全体に広げる必要がある。

 五輪の開催は、招致活動から大会終了まで7年以上も世界の関心を集めることになる。その目を意識しつつ、大事なのはわたしたち自身が環境との共生や目指すべき社会の姿を考えることではないか。単なるスポーツの祭典にとどまらない意義がそこにある。

 45年前の前回五輪は、スポーツをする楽しみ、見る楽しみを日本に定着させた。子どもの体力低下が言われるなかでの2度目の五輪開催を、スポーツに人々が親しむための新しい契機にする工夫がほしい。

 街づくりの点でいえば、前回五輪は戦後の新しい首都の顔を作る原動力になった。今回問われるのは、21世紀の首都の姿をどう描いていくかだ。それは老若男女、障害のある人もない人も分け隔てなく快適に暮らせるユニバーサルデザインの街であるべきだ。

 招致活動にも注意が必要だ。150億円の予算は、8年前に失敗した大阪の3倍にも上る。都下の自治体に資金を出して盛り上げ活動を依頼するような例もあるが、せっかくの資金なのだから効率的に使わねばならない。

 4月にはIOCの評価委員が来日する。もてなしも必要だろうが、行き過ぎた接待攻勢は慎んでもらいたい。

 4都市の中で東京の世論が一番冷めているという。五輪招致を後押しする国会決議もまだだ。しかも未曽有の経済危機の中での五輪招致である。

 計画を夢とリアリティーが両立するものに磨き上げたうえで、人々を説得する。それが国内外に支持を広げる原動力になるはずだ。

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