世の中を覆う沈滞ムードを吹き飛ばすような朗報がロサンゼルスから届いた。第八十一回米アカデミー賞で、日本映画で初の二作品同時受賞という快挙を達成した。
注目の外国語映画賞は滝田洋二郎監督の「おくりびと」に決まった。思いがけず「納棺師」になった主人公が仕事を通し、その重要性を認識していく。さまざまな人間模様を織り込んで生と死の尊厳を描いた。
「納棺師」を題材にしたのは、主演の本木雅弘さんの発案という。実地訓練を重ねて撮影に臨んだ。その情熱が遺体に心を込めて接する所作となって、国や文化の違いを超えて共通する人間の根幹を揺さぶったのだろう。
もう一つは短編アニメ賞に輝いた加藤久仁生監督の「つみきのいえ」。海面の上昇で上へ上へと建て増しした家を舞台に、独り暮らしの老人が家族との思い出に浸る物語で、地球温暖化にも警鐘を鳴らす。日本のアニメ文化の高さを存分に示した。
人のつながりや、繊細な心の動きを表現した日本人らしい両作品が世界の頂点に立ったことは、日本映画の大きな自信と励みになろう。滝田監督は映画「バッテリー」で、岡山県にもなじみ深いだけに喜びもひとしおだ。
権威あるレッドカーペットから持ち帰った大きな土産。その意味を、あらためてかみしめたい。