カンボジアで虐殺や餓死で約二百万人を死亡させたとされる旧ポル・ポト政権の最高幹部らを裁く特別法廷が始まった。
出廷したのは、トゥールスレン政治犯収容所の所長を務めたカン・ケ・イウ被告で、人道に対する罪などに問われている。罪状認否などは三月以降の予定だ。同収容所で一万五千人の政治犯や知識人らが拷問され、処刑場で殺害されている。
ポル・ポト派は、一九七五年に親米政権を倒して政権を握ると中国の毛沢東主義の影響を受けた極端な共産主義政策を展開した。貨幣制度や学校教育、宗教、家庭などの社会制度を否定し、都市住民を地方に移住させて強制労働させた。殺された多くが政府高官やジャーナリスト、知識人だった。
四年後にベトナム軍の侵攻によって政権は崩壊しタイ国境地帯で抵抗を続けた。九八年に最高実力者のポル・ポト元首相が死亡し、ポト派は実質的には消滅した。
特別法廷ではほかにポト派ナンバー2のヌオン・チア元人民代表議会議長ら最高幹部四人を逮捕しているが、起訴には至っていない。政権崩壊から三十年が経過し、誰がどんな役割を果たし虐殺を行ったのかなど、不明のままになっている。裁判は元幹部の高齢化や健康問題で時間との闘いとなるが、大虐殺の真相に迫らねばならない。
責任追及を求める国際世論を受け国連の支援で設置された特別法廷は、ルワンダや旧ユーゴなどの国際法廷と異なり、国内法に基づいて審理されるのが特徴だ。公判は多数を占めるカンボジア人裁判官と外国人の裁判官で構成される二審制で、最高刑は終身刑となる。被害者が尋問などに参加できる制度も設けられ、大勢の国民が出廷の意向をみせている。
日本はカンボジアでの国連平和維持活動(PKO)に参加するなど和平に努力してきた。その後も民法などの法整備をはじめ、特別法廷の運営予算や二審の裁判官を派遣するなど支援を続け、高い評価を得ている。
気になるのはカンボジア政府の姿勢だ。二十年以上権力を掌握してきたフン・セン首相は、元ポト派を取り込み権力基盤を固めてきただけに、法廷の設置や審理入りを「内戦が再発する」として引き延ばしてきた。
特別法廷は、カンボジアに「法の正義」を実現するのが狙いである。国民の司法に対する信頼回復の重要な一歩となろう。心に深い傷を負った国民の和解や融和に結びつけてほしい。
大麻事件が後を絶たない。有名大学の学生や地方の高校生から俳優、大相撲力士まで、大麻汚染はかつてない広がりを見せている。
警察庁のまとめによると、昨年一年間に全国の警察が大麻の所持や栽培などで摘発した事件は三千八百三十二件(前年比16・8%増)、人数は二千七百七十八人(22・3%増)に上り、いずれも過去最多となった。本腰を入れて大麻汚染を断ち切る手立てを考えねばなるまい。
年代別では二十代以下が千七百三十六人(前年比10・6%増)で62・5%を占めた。若者を中心に汚染が拡大している実態が浮き彫りされた格好だ。
背景には、罪悪感の希薄化とともに、インターネットで種子や栽培法などの情報が簡単に入手できるようになったことが挙げられよう。ネットで検索すると、写真付きで乾燥大麻の製造方法を紹介したり、室内での栽培方法を解説するサイトもあり、違反行為を助長する情報が野放しではんらんしている。
大麻取締法は大麻の所持や栽培、譲渡などは禁じているが、種子取引は規制していない。このため、法の抜け穴につけ込む形で「観賞用」と称して大麻の種子のネット販売が横行しているといわれる。
大麻を使うと視覚や聴覚が過敏になったり思考が散漫になるほか、長期間続けると妄想や幻覚に襲われ、覚せい剤など依存性の強い違法薬物への入り口にもなりうる。心身に多大な弊害をもたらすとともに、他の犯罪の引き金になりかねないことを肝に銘じるべきだろう。
大麻取締法の見直しも含め、取り締まり当局はネットを介した取引への監視や規制を強化すべきだ。と同時に、社会を挙げて大麻汚染を許さない規範意識を高めることが求められる。
(2009年2月24日掲載)