2009年02月08日

NHKがネアンデルタール人の番組でやらかしたらしい

一月にNHKが
ハイビジョン特集 フロンティア
ネアンデルタール人の謎
〜最新報告・ゲノム解読の試み〜

という番組を報道していたそうな。
私はテレビを見ない人間なので例によってこの番組もスルーしていたのだが、どうも伝え聞くところによると、以前の記事で書いた間違いをまんまやらかしたらしい。
「ネアンデルタール人の遺伝子の痕跡が現代人に」とやったようだ。
誰だ番組の監修をしたのは?そのネタは暫定ゲノムの報告でほぼ完全に否定されていたはずなんだが。

幻影随想: ネアンデルタール人のゲノムがもうすぐ公開されます
中でも重要なのが、現代人との交雑の可能性がほぼ完全に消えたこと。
これまで両者の関係性については結構好き勝手なことがいわれていたのですが、ゲノムレベルでネアンデルタール人と現生人類を比較してみても、両者の間に交雑の痕跡は認められませんでした。
もしヨーロッパ人の先祖がネアンデルタール人と交配していれば、多少なりとも遺伝子にその痕跡が残るはずなのですが、そういったものはまるで見られなかったのです。

ネアンデルタール人の遺伝子に関する与太論文ってのは結構存在していて、以前もちょっとだけ触れましたが「欧米人は脳の進化の鍵となる脳容積を増やす遺伝子変異をネアンデルタール人から受け継いだ」という感じの内容の、失笑ものの論文がPNASに載っちゃってたりします。
ぶっちゃけ遺伝学でトッピングした白人至上主義の亜流に過ぎませんが。


元々これまでに報告されている「ネアンデルタール人が現代人につながる遺伝的証拠を発見したと主張する論文」自体、どれもこれも眉唾物で、まともに相手するようなものじゃなかった。
番組内では赤毛、薄い体色、言語を操る遺伝子という三つのネタについて取り上げたようだが、言語遺伝子が現生人類に受け継がれた可能性は否定されているし、薄い体色も、赤毛遺伝子も、原生人類のそれとネアンデルタール人のそれが別物であることは既に確認されている。
その上にダメ押しで昨年の暫定報告があったというのに、NHKは何を今更血迷ったんだろう?と思っていたら、どうもこの番組はただの吹き替え放送らしい。
・原題:The Neanderthal Code
・制作年:2008年
・制作会社:Wall to Wall Media(イギリス)

ちょっと調べてみたら、私が昨年取り上げた暫定ゲノムの報告が出る前、すなわちまだネアンデルタール人のゲノムについて想像で好き勝手なことが言われていた頃に作られた番組らしい。
今更最新情報に基づいた番組への置き換えもできなかったのか、あるいは単に状況の変化を知らないままやってしまったのか。
誰か忠告してくれるような研究者に繋ぎは取ってなかったのかねえ。
posted by 黒影 at 00:38 | Comment(4) | TrackBack(0) | サイエンスニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
  1. 最近,natureに記事が出てますね(Nature 457, 645 (2009))。
    論文が出たわけではないので何とも言えませんが,ネアンデルタールと現生人類の交配が明らかになったとしてますね。
    批判的検証はこれからですが。
    Posted by Taq at 2009年02月08日 11:39
  2. >Taq さん
    これですね。
    Neanderthal genome to be unveiled : Nature News
    http://www.nature.com/news/2009/090204/full/457645a.html

    >Comparisons with the human genome may uncover evidence of interbreeding between Neanderthals and humans
    とだけあって、どの遺伝配列にその根拠を求めたのかは不明ですが、今度こそまともな根拠なのであれば興味深い発表になりそうです。
    いずれにせよ今は発表待ちですね。
    Posted by 黒影 at 2009年02月08日 11:59
  3. >Taq さん
    昨日はスキャニングだけで済ませたのでさっき改めてNatureの記事を読み直していたんですが、
    これ研究チームから何か新しい発表があったわけではなく、単にNatureの編集者が「ヒトとネアンデルタール人の混血の証拠がゲノムに見つかる"かも知れない"」と言っているだけなんですね。
    この記事が混血の証拠にならないのは言うまでもなく、暫定ゲノムの内容や研究チームのこれまでの発表と合わせて考えるとあまり期待は出来なそうです。
    Posted by 黒影 at 2009年02月10日 01:02
  4. そうですね。
    もともとnatureにcontaminationしたDNAに基づく論文が出て,そこから交配説が出てきたので,natureとしては交配はあったという方に少し期待したいのかも。
    でも,おっしゃるようにちょっと厳しそうですね。
    Posted by Taq at 2009年02月10日 03:57
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