米国には有罪、無罪の判断のほか、有罪の場合、死刑にするかどうかも陪審で決める州がある。人の命を奪う決定に一般市民がかかわる点では、5月から始まる日本の裁判員制度と同じだ。ニューオーリンズで96年、陪審(12人)の一人として死刑判断を出しその後、この被告が無罪となった経験を持つキャサリーン・ホークさん(54)に死刑と向き合う難しさを聞いた。【ニューオーリンズ(米南部ルイジアナ州)で小倉孝保】
--死刑を評議する陪審の空気は。
知らない人と生活しトイレに行くにも警備の人が付いて来た。早く終わって帰りたいと思うようになった。みんないらいらし、男性2人はけんかを始めた。女性の陪審員1人は泣き続けていた。たぶん、死刑に反対だったのだと思う。
--全会一致で死刑と判断したのは。
終身刑になった場合、被告は何年かしたら釈放されるのではないかと思っていた。検察側の説明で被告を危険人物だと思っていたので、釈放されたら怖いと感じ、死刑と判断した。
--死刑判断を伝えた後は。
--その後、被告は無罪となった。
--市民が死刑判断することについて。
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95年1月、ニューオーリンズの黒人地区路上で、男性が射殺された。目撃証言をもとに薬物の売人だったダン・ブライトさん(38)が逮捕され、強盗殺人罪で起訴。96年、1審で死刑判決が言い渡されたが、控訴審で無罪に。04年釈放された。
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■ことば
一定以上の罪に問われた被告に、陪審での評議を受ける権利を憲法で保障している。実際は司法取引によって陪審審理を経ずに刑が確定することが多い。陪審の評議には、裁判官は加わらない。陪審は通常、有罪か無罪かを評決し、量刑は裁判官が決定する。ルイジアナ州は、死刑か終身刑かについても陪審が判断し、その判断を受け裁判官が判決を下す。ほとんどの州で評決は全会一致が原則。
毎日新聞 2009年2月24日 東京朝刊