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社説:視点 賢明な支出 需要不足の解消に使おう=論説委員・今松英悦

 GDP(国内総生産)ギャップという言葉がある。ある時点の平均的な生産能力で実現できるはずの潜在GDPと、現実のGDPとの差のことだ。景気がいい時には現実のGDPが潜在GDPを上回る。景気後退時には需要が減り、現実のGDPが潜在GDPを下回る。

 昨年10~12月期のGDP統計を基にした内閣府試算では、需要不足はGDP比4・3%、年間にして約20兆円だ。4・3%は99年前半や01年末とほぼ同じだが、前2回はそこから景気が上向いた。今回は、今年1~3月期に状況がさらに悪化することは避けられそうにない。

 政府は昨年秋以来、3次にわたり景気対策を決定した。事業規模は総額75兆円で、財政支出は12兆円だ。これが08年度の第1次、第2次の補正予算、09年度当初予算案に盛り込まれている。ただ、これだけで需要不足が解消するとは思えない。

 そうした状況打破の手立てということだろう、首相が議長を務める経済財政諮問会議の張富士夫トヨタ自動車会長や吉川洋東京大教授らの民間議員が、ワイズ・スペンディング(賢明な支出)の断行を提言した。わかりやすく言えば、中長期の成長力を高めるため、財政出動に臆病(おくびょう)になるなということだ。支出の対象は脱炭素社会作りや、健康長寿など、従来型のばらまきと一線を画すことも求めているが、財政機能の積極的活用という点では、政府機能の重視である。「小さな政府」政策の見直しとも言える。

 日本では80年代の臨調行革以降、政府は小さければ小さいほどいいという論調が、経済界や政界を支配してきた。この流れは小泉構造改革で一層強まった。経済政策の柱は金融政策とばかり、野放図なまでの緩和政策が長期間続けられた。しかし、金融政策も財政政策と相まってこそ、効果が期待できる。

 景気の落ち込みが尋常ではなく、民間部門による自律的回復が見えてこない時には、財政が積極的に出動すべきなのだ。もちろん、借金(国債)で各種事業をやっていく以上、これまでの利権政治とは手を切らなければならない。緊急対策のみならず、中長期の経済構造転換も目指すものでなければならない。

 このような政府支出拡大であれば、野党も反対しないだろう。経済体質の強化や国民の安心を実現する内容を具体的に詰め、09年度予算に盛り込める施策は、与野党合意で入れればいい。少し長い課題は、予算成立後の追加策として、補正予算などを検討すればいい。GDPギャップを軽く見てはならない。

毎日新聞 2009年2月24日 東京朝刊

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