国連の安全保障理事会改革をめぐる議論を行う政府間交渉が国連本部で始まった。常任理事国入りを目指す日本は二〇〇五年、安保理拡大を盛り込んだ決議案提出までこぎ着けながら最終的に挫折した苦い経験がある。今回の交渉は、悲願達成に向けた再挑戦の場といえる。
安保理は国連で最大の権限を有する。米国、英国、フランス、ロシア、中国の五常任理事国と任期二年で交代する十の非常任理事国で構成されている。
改革の最大の焦点は、常任理事国を独占してきた五大国体制に風穴を開けることができるかどうかである。一九四六年に安保理が発足して以降、第二次世界大戦で勝った大国が占め続ける現状は「戦勝国クラブ」とさえ呼ばれる。
国連加盟国は増加し、複雑、多様化する国際社会の意向を反映する形とは言い難い。非常任理事国も含めた安保理改革は時代の要請であり、避けて通れない道だろう。
だが、現在の常任理事国を中心に各国の利害は複雑に絡み合う。〇五年の改革交渉では、常任理事国入りを狙う日本、ドイツ、インド、ブラジルの四カ国が常任六カ国、非常任四カ国をそれぞれ増やす決議案を国連総会に提出したが、米中などの反対で廃案になった。
今回も交渉難航は必至の情勢だ。ただ、国際協調路線に転じたオバマ米政権は、日本の常任理事国入りに理解を示す。日中関係も一時よりは改善している。日本に追い風が吹いている感じではあるが、楽観できる環境ではない。
日本やドイツの動きに反感を抱くイタリア、韓国などのコンセンサス(総意)グループは、常任理事国の拡大そのものに反対している。中国の協力取り付けも一筋縄ではいくまい。
始まった政府間交渉の論点は五つに整理された。安保理の拡大規模、常任と非常任理事国の数、地理的な配分条件などである。今後、論点ごとに個別協議を行い、まとまれば決議案として総会に提出される。採択されるには加盟国の三分の二以上の賛成が必要となる。
安保理を拡大し、幅広い意見を反映させることが大切だという日本の主張には説得力がある。問題はなぜ日本が常任理事国入りを目指し、メンバーになったら何をするのかがはっきりしない点だ。国内で議論が尽くされ、国民の共通認識になっているとは思えない。早急に国会などで議論を深め、明確な理念を世界に発信すべきである。
五月から始まる裁判員制度を前に、新たな課題が浮上した。膨大な資料を読み込む時間のない一般の裁判員に向け、視覚に訴える「見て分かる裁判」の在り方である。
問題になったのは、東京地裁で先日行われた公判だ。東京のマンションで元派遣社員の男性が女性会社員を殺害し、遺体を切断してトイレから流すなどして遺棄した事件の判決が言い渡された。
この公判で注目されたのが、視覚に強く訴えかけた検察の立証方法だった。法廷には大型モニターが置かれ、下水道などから発見された大量の遺体の肉片や骨片が次々に映し出された。
これだけではない。遺体切断の経過をマネキンで再現した画像も映し出された。遺族を含めた傍聴人は、むごい画像に息をのみ、泣きだして退廷する遺族もいたという。
検察幹部は「裁判員制度を念頭に、目で見て分かる手法を取った」と説明した。検察側が残忍さをリアルに示すために講じた措置だろうが、やはり行き過ぎた感は否めない。裁判のプロならともかく、残酷な画像に慣れていない一般の人に見せ、冷静な判断を求めるのは酷ではないか。
裁判員裁判では、これまでの大量の調書などを読み込む審理から、法廷での供述や証拠の写真、映像を見て真相を解明する審理へと大きく転換する。一般の裁判員への時間的負担を軽くするためだ。
分かりやすい裁判にするのは当然である。だが、残酷な写真や映像は心理的な負担になるとともに、一時的な感情に左右されて公平さを損なう恐れもある。どこまで許されるかの基準は難しいが、遺族や素人の裁判員に対する配慮は欠かせない。慎重な運用が求められる。
(2009年2月23日掲載)