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先生:生徒指導は今 連載への反響特集 絡み合う問題、努力支えるには

 1月27日から6回にわたって連載した「先生 生徒指導は今」には、130通以上の反響が寄せられました。人との関係をうまく結べない子の増加や、職場のゆとり不足を嘆く教員らの声に加え、家庭のあり方を問う意見も目立ちました。識者の見方とともに紹介します。

 ■子どもが変わった

 ◆プラスαに追われる日々/心を満たしてやりたい

 ◇東京都渋谷区、高校3年生、吉田沙樹さん(18)

 私は教員をめざし大学に合格したところです。母は小学校教員です。最近の子どもは、遅れて来ても急がない。仮病が多い。暴れることが多いと母は嘆いています。また保護者からのクレームが多く、子どもの世話プラスαが必要とされています。サービス業となりつつある今日の教育の実態をこれからも訴え、少しでも教員を理解していただけたらと思います。

 ◇群馬県藤岡市、元小学校教員(66)

 今も臨時的任用で教育現場で勤めていますが、ここ4、5年、何かが変わってきていると強く感じます。授業中の私語は当たり前、席は立つ、紙飛行機や消しゴムを投げる……。まるで注意が聞こえないかのようにクラスが全く学習の状態に機能していない。管理職の対応も優柔不断で、教師が余計な心配をしないで仕事に打ち込めるような姿勢が見られません。心が病んだり、退職したりする教員が出て当たり前です。

 担任が病休で交代したら、新担任の授業参観を保護者が望むので実施すると、「笑顔がなかった」「もっと先生の指導ぶりが分かる授業を見せるべきだ」と常識では考えられないことを言います。親と子どもが常日ごろから向かい合って会話する機会が減っているとも思います。子どもの心が満たされていない、親が親としての役割を示していないと感じます。知ること、分かることってこんなに楽しいことなんだ、友達って大切な宝物なんだと学校で育てていけたら、と思っています。

 ◇奈良市、元幼稚園教員、清水美恵子さん(53)

 幼稚園でも、親が変わり子も変わりました。習い事には熱心だけれど、自分で子どもをしつけようという意識をもつ保護者が減ったようです。子どもは結果を出すことを急ぎ、一つのことにゆっくり取り組むのは苦手。子どもが帰った後は会議と資料作りに追われ、教材準備の時間もない。家族の寝静まった部屋で涙が止まらなくなり、軽いうつ状態と感じて退職しました。

 主婦となった今、忙しい現場に子どもを預ける不安さえ感じます。頑張っている教員ほどジレンマに陥っていると思います。

 ■携帯電話や発達障害への対応

 ◆教育だけでは解決できない/事務作業減らし会話を

 ◇岐阜市、NPO法人理事(36)

 PTA会長を務めている小学校のアンケートでは、保護者の2割が携帯電話やインターネットによるトラブルが教育問題となっていることを「知らない」と答えました。保護者自身のアンテナが欠如しているのだと思います。保護者の多くは、任天堂のファミリーコンピュータが一世を風靡(ふうび)した世代です。その社会状況を検証しないと、子どもたちに起きている問題は教育だけでは解決できないような気がします。

 ◇福岡県、主婦(41)

 学習障害の子どもを持つ母です。特別支援教育は現状ではほとんど機能していません。記事の通り、専門の先生が不足しているので、特別支援教室に通常学級しか担当したことのない先生が配置されています。クラスが落ち着くまでに半年から1年くらいかかり、担任が代わるたび同じことが起きます。特別支援の教室は人数が多く、学年も多種で指導も個別の要素が必要で、先生方も手が回りません。子どもたちが必要な教育を受けられるよう法律が機能してくれることを祈ります。

 ■提言

 ◆何でも学校任せにしない

 ◇埼玉県鷲宮町、女性会社員(50)

 学校の荒れに対処するには、もう個人の頑張りでは無理です。先生とは別に「一般の成人」を教室に入れ、聴講してもらうのはいかがでしょう。子どもは先生以外の人に接触できる。大人は金を払わず再勉強でき、ルールを体現することにより、子どもに規範を見せるボランティアにもなる。気楽に人の立ち入れる学校にしておいて悪くないはずです。

 ◇神戸市、元小学校教員、中野正三さん(79)

 教員評価の自己申告書とか授業改善プランとか事務作業が年々増え、無意味な作業が目立っている。このようなつまらないことに使われた時間が浮けば、先生は生徒と会話する時間が生まれます。子どもと接触する時間が生まれれば、先生はまた元気を取り返すと思います。

 ◇横浜市、主婦(47)

 「教育」すべてを学校に任せる親がとても多いことを感じます。家庭では好き放題に育て、しかることは担任に任せる。中学校でよく耳にしたのは「学校のお便りを子どもが渡してくれないので、なんとかして」と親が言うこと。なぜ自分の子どもに言えない?と不思議に感じました。子どもとのかかわりが薄い親が多いと感じます。

 一方、問題を抱える子が増えている今、1クラス40人は多すぎます。国は予算を増やし、少人数学級で教育すべきです。大人の目が増えることで解決する問題は多く、教師の負担も軽くなるはずです。

 ■教員の多忙

 ◆深夜まで赤鉛筆握り/反省語り合うゆとりなし/初心貫き頑張って

 ◇京都府、農業、70代女性

 小学校教諭の長女は、病欠の子どもがいれば家庭訪問し、帰宅後も深夜まで仕事を抱え、赤鉛筆を持ったままコタツで眠る毎日。疲れ果てて愚痴ることもありますが「仕事は増える一方だけど、子どもが解けなかった問題を解けるようになった時は、仕事を続けていて良かったと思う」といいます。本来なら家庭が担うしつけまで担い、日々の労働は12時間を超える長女。母としては長女の健康が一番心配です。

 ◇滋賀県守山市、市教委職員、石田喜久さん(48)

 中学校教員です。現場を外から見る立場になり、先生方のゆとりのなさを痛感しています。ゆとり教育は教師のゆとりを奪ったと思います。教師に課せられた仕事が増え、責任も追及される。学校ってもっとほんわかしたものでなければ、子どもがのびのび育つことはないと思うのです。

 連載にあったように新規採用者や転任者へのフォローが十分でないことは感じます。私が教員になったころは毎日、日付が変わるぐらいまで反省や愚痴を言い合い、「明日も頑張るか」と言い聞かせて帰路に就いたものです。ベテランの先生にも厳しく指導されたり、優しく諭すように教えてもらったりしました。今は教師間の人間関係も希薄になっているように思えてなりません。

 ◇三重県度会町、団体職員(30)

 9年前に教育実習を経験した。教師が真正面から全力投球で向かえば、生徒たちは必ず応えてくれる一方、少しでも甘さがあれば見破られることを実感した。今の教師は四方八方からいろいろ言われて生徒と向き合う時間が取れないのかもしれないが、教師は本当にやりがいのある仕事だ。厳しい採用試験を勝ち抜いてこられた先生方には、ぜひとも初心を貫き通してほしい。

 ◇増える同調型の子ども、実態見極めて--河村茂雄・早稲田大教授

 90年代半ばから子どもが変わり始め、学級崩壊という言葉が生まれた。集団についていけない子が増え、教員が子ども同士の人間関係を作る手助けをしないと、生徒指導が難しくなっている。

 05~06年に5万人を調査した結果、クラスの過半数を占めるのは同調型の子とわかった。家庭は落ち着いているものの親が過干渉で、仲のよい友達と一緒でないと落ち着かないというタイプ。あるきっかけで不登校になったり、騒がしい子に同調して学級崩壊させたりする。勉強も友達関係も積極的で、いじめを注意できるような自立型は2割しかいない。

 学校はクラスの実態を把握し、自立型の子が少なければ、少人数指導やチーム支援も工夫すべきだろう。教育委員会は各校のニーズの見極めが必要だ。

 昔と違い、今の子は「先生だから」という理由ではついてこない。信頼する先生にしか従わない。現場の教員と話して思うのは、教師はじっくり児童生徒にかかわる時間も少なく、疲れているということ。子どもは最も身近な大人をモデルにする。教師自身が生き生きと、ゆとりを持って子どもと応対できるようなシステムが必要だ。

 ◇子ども主体で異学年交流の場を--滝充・国立教育政策研究所生徒指導研究センター総括研究官

 学校は勉強しにゆく所で、先生にしかられたら従う。一昔前はそれが共通の価値観だったが、今は違う。教員は、社会性や対人関係能力が見た目ほどには育っていない子がクラスの大多数を占めているという現実を認識し、腹をくくって生徒と向き合わなくてはならない。

 子どもの社会性をはぐくむには、異学年と交流する機会を設けることが有効だ。遠足や給食準備、下校時の見送りなどで高学年が低学年の面倒を見ることにより、年長者は「認めてもらえた」「必要とされていると感じた」などの自己有用感を得て、他者への配慮や集団への責任感を獲得する。

 この際、教員は子どもが活動の主体となって課題に取り組める交流の機会を準備することが大切だ。教師の中にも社会性の未熟な者が目立つようになり、不用意な声かけで意欲が失われることもある。子ども自身が主体的に取り組めるよう、支えて見守る裏方に徹することが求められる。

 問題が起きた時も、決して一人で抱え込まず、複数でかかわることだ。チームで現状認識を共有して話し合い、繰り返し改善計画を立てる必要がある。

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 ◇貧弱な予算

 教員が余裕を取り戻せるようにするには、予算面から支えることも重要となるが、日本の教育予算は貧弱だ。経済協力開発機構(OECD)が昨年公表した教育予算(05年)の対国内総生産(GDP)比は3.4%で、28カ国中最低。上位はアイスランド、デンマーク、スウェーデンなどで6%を超えている。

毎日新聞 2009年2月23日 東京朝刊

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