欧州経済が一段と悪化してきた。中・東欧諸国の景気減速で欧州全体の銀行の貸し付けが焦げ付き、巨大な不良債権を抱え込む可能性が高まっている。金融機関が融資を絞り、実体経済がさらに悪化する悪循環に陥れば、世界景気に重大な影響が出る。予断を許さない状況である。
ハンガリーやポーランド、チェコの金融市場の混乱は著しい。3カ国の株価は2月半ばから下落が加速し金融危機前に比べて約半分の水準となった。債券も売られ、通貨も下がっており、最悪の状態といえるトリプル安の様相を見せ始めている。
3カ国は欧州連合(EU)の新規加盟国の中でも経済規模が大きく、これまでは投資先として安定性が高いとみられてきた。トリプル安が起きるのは、国外の投資家の信頼が揺らぎ、投資マネーが一斉に流出しているためである。
問題は中・東欧にとどまらない。この地域で事業展開する企業などに資金を融資しているのは主に西欧各国の金融機関だからだ。特にオーストリア、ドイツ、イタリアの銀行の債権額が大きく、主要行の財務への影響は深刻だとみられている。
英独仏など欧州主要国はベルリンの緊急首脳会議などで対応策を検討しているが、これまでのところ政策は後手に回っている。金融機関の申請に基づく公的資金の注入に対策をとどめていた独政府は、事態の急速な悪化に慌てて、銀行を国有化できる仕組みづくりに動き始めた。
フランスでは公的資金の注入を受けたBNPパリバが初の最終赤字を計上した。ベルギー・オランダ系金融大手フォルティスは、株主総会でベルギー政府による国有化を否決した。各国の対応策は効果が出ないまま迷走している印象が強い。
ここで中・東欧発の信用収縮に歯止めをかけなければならない。EU内にとどまらず日米を含め国際的で大規模な政策協調を考えるときだ。国際通貨基金(IMF)や世界銀行の支援も視野に置くべきである。
1930年代の大恐慌は米国の株価暴落に始まった。それが世界的な同時不況に発展したきっかけは、東欧経済の不振に伴うオーストリアの銀行の破綻だったとされる。歴史の失敗を繰り返してはならない。