社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

社説:米軍アフガン増派 成功への戦略を知りたい

 兵力増強はいいが、成功への青写真はあるのか--。そんな不安がぬぐえない。米国がアフガニスタンへの1万7000人の増派を決めた。既定方針とはいえ、アフガンの「ベトナム化」を懸念する声が広がる中、オバマ政権は大きなかけに出たといえよう。

 オバマ大統領の脳裏には、ベトナム戦争の教訓とともに旧ソ連軍のみじめな撤退があるかもしれない。79年にアフガンへ侵攻した旧ソ連軍は、イスラム勢力などの抵抗を受けて10年後に撤退した。

 米同時多発テロ(01年9月)の翌月から米軍がアフガンで始めた軍事作戦は、既に7年余に及ぶ。米軍は9・11テロを実行したテロ組織「アルカイダ」の拠点を掃討し、アフガンを実効支配していたイスラム原理主義組織タリバンを政権の座から追い落とした。

 しかし、その後はタリバンなどの武装勢力が巻き返し、米軍は苦戦続きだ。19、20日に開かれた北大西洋条約機構(NATO)国防相会議で、ゲーツ米国防長官は各国に支援を呼びかけたが、兵員増派ではドイツとイタリア以外から色よい返事は得られなかった。しかもアフガン空輸の拠点であるキルギスは米軍への空軍基地提供を打ち切る可能性が強く、オバマ政権は強い逆風にさらされている。

 米軍増派がアフガン安定につながることを期待したい。ただ、オバマ政権は戦闘激化と米兵の死者増加を覚悟しているようだ。戦況を一時的に盛り返しても、どうやって永続的な安定につなげるかという問題もある。「戦闘だけでは永遠に勝てない」と公言するアフガン政府首脳もいる中での米軍増派なのである。

 一口に反米武装勢力と言っても、タリバンやアルカイダの戦闘員もいれば、母国への外国軍隊駐留に反発して武器を取った人もいるだろう。イスラム圏では外国軍隊の駐留や占領への抵抗感が特に強い。だからこそ旧ソ連軍は撤退を余儀なくされたことを思い出すべきである。

 ブッシュ政権が多用した善悪二元論のように「ソ連軍の侵攻は悪で、米軍の駐留は善だ」と言っても、納得しないアフガン国民は少なくあるまい。しかも国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)によると、08年の戦闘による民間人の死者は2118人と最悪の数字になり、うち4割近くが米軍の空爆などによる犠牲者だった。

 こうした状況を思えば、米国は軍事行動の必要性を改めて説明し、アフガンや隣国パキスタンなどの穏健イスラム層の理解を得る必要がある。軍事行動の限界を認識し、反米感情の改善に努めるのが得策だろう。

 また、日本を含めた国際社会の支援を求めるにしても、米国自身がアフガン安定への確かな展望と戦略を示さなければ、具体的な支援要請はしにくいはずだ。

毎日新聞 2009年2月23日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報