ネオン街を黒煙で埋め尽くした東京・新宿の歌舞伎町ビル火災から7年半。夢を追って上京した被害者も多かった。放火の疑いが強いが、犯人は捕まっていない。「どうしてわが子が」。見えぬ犯人への怒りを抑えながら、遺族は今も冥福を祈り、防火管理の重要性を訴える。【宮川裕章、石丸整】
女優を目指し、高校卒業後に上京。アルバイトをしながら俳優養成所に通った。ティッシュ配り、携帯電話の販売……。現場の「スーパールーズ」には友人の紹介で勤めた。
火事の夜は、実家に帰省予定だった。午後8時。母スイ子さん(60)に電話があった。「ごめんね。お店にどうしても手伝ってと言われて。もう1日だけ働くから」。それが最後の会話となった。
遺品の中から、家族への思いが書かれた手紙が見つかった。<小さなころの私と変わってないと見えるかもしれないけど もう大丈夫-->
「照れ屋だから、恥ずかしくて渡すつもりはなかったのでしょう」。スイ子さんは手紙に目を落とす。
彩子さんは幼いころから、愛子さんの後ろをついて回った。「いつも一緒。双子のようだった」と母(57)は振り返る。スーパールーズにも愛子さんを追いかけて彩子さんも勤め始めた。焼け跡から、身を寄せ合うようにした2人が見つかった。
打ちひしがれた母を救ったのは、遺族同士のふれあいだった。
2人の遺影の前に並ぶぬいぐるみは、足利市の中村スイ子さんからの贈り物。「孫のようにかわいい」女の子もいる。同じ店で亡くなった男性会社員(当時35歳)の長女(8)だ。男性の妻とは文通が続き、女の子の成長する姿が写真で送られてくる。
昨年末、かばんを縫い上げて贈った。すぐに女の子からお礼の手紙が届いた。<かわいいかばんをありがとう。もようのうさぎは、絵本にでてくるうさぎでした。たいせつにつかいます>
「遺族同士のつながりは、娘たちが残してくれた宝物です」
2009年2月21日
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