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主要18シンクタンク・金融機関の05年度予測



メーンシナリオは「05年度後半に再び成長軌道」

  2002年から景気の拡大局面が続いた日本経済は、04年後半から経済指標が下降気味だ。05年の日本経済はどうなるのか。



ともだ みちお
友田 道郎
(毎日新聞経済部)


04年後半は弱含みの指標続くが

 景気は踊り場か、それとも後退局面入りか――2004年末にかけて景気減速を示す指標が相次いで公表され、02年1月を谷とする今回の景気拡大局面が、重大な岐路に差し掛かっていることが浮き彫りになった。

 いまのところ、政府・日本銀行はもとより民間の見通しも、日本経済の足腰はことのほか強く、調整は短期かつ限定的なものにとどまり、05年度後半ないし06年度には再び持続的な成長軌道に乗るというのがメーンシナリオだ。ただ、景気下押しのリスク要因も多く、後退局面入りの可能性も否定できない状況だ。

 主要な民間シンクタンク・金融機関18社の経済見通し(表)によると、05年度の経済成長率は、物価変動の影響を除いた実質で平均1・2%と、4年連続のプラス成長を予測した。最も高いゴールドマン・サックス証券(GS)は04年度予測の2・2%を上回る2・4%と予想。最低のニッセイ基礎研究所でも04年度の2・0%からは急減速となるものの、0・5%のプラスを予測し、全社がマイナス成長を回避するとした。

 「05年は減速ではなく、回復の年」(BNPパリバ証券)、「景気腰折れを回避し、デフレ脱却への歩みを進める」(野村証券)といった強気の見通しも目立つ。

 内閣府が04年12月8日に公表した7〜9月期の実質GDP改定値は、前期比0・1%増(年率0・2%増)で、11月の1次速報段階の0・1%増(年率0・3%増)から小幅下方修正にとどまったが、4〜6月期は速報段階の0・3%増(同1・1%増)が0・1%減(同0・6%減)のマイナス成長へと大幅に下方修正され、2四半期連続の実質的なゼロ成長だったことがわかった。

 これは、12月改定値以降のGDPデフレーターを「固定基準方式」から「連鎖方式」に改めたのが主因だが、「デフレが過度に強調されていた面が修正された」(みずほ総合研究所)と、より経済実態に即した数字になったと受け止められている。同方式採用の結果、3・2%とされてきた03年度の実質成長率も、1・9%にしぼんでしまった。

 もっとも、それだけでは「テクニカルな要因」と言えなくもないが、ほかにも、10月の鉱工業生産指数が2カ月連続で低下し、景気動向指数の一致指数も、景気後退に陥った可能性があるとされる「3カ月連続の50%割れ」となった。設備投資は足元は堅調だが、先行指標とされる機械受注の「船舶・電力を除く民需」の受注額が、やはり10月に2カ月連続で前月を下回った。個人消費も5四半期連続でプラスを維持してはいるが、これまで考えられていたより弱含みであることがわかった。

民間予測がプラスの理由

 にもかかわらず、民間の05年度成長率予測の平均が、11月時点に比べ、デフレーター変更の影響を受けた実質で1・7%から1・2%へ0・5%ポイントの下方修正にとどまり、名目で横ばいの0・5%に踏みとどまっているのは、いくつか要因がある。

 一つは、バブル崩壊以降の「失われた10年」を経て、日本企業の構造改革が進み、過去の調整局面に比べて企業体質が格段に強化されていると見られている点だ。

 日本企業を苦しめてきた設備、負債、雇用の「三つの過剰」は、ほぼ解消されつつある。04年12月の日銀短観(企業短期経済観測調査)によると、雇用人員判断DI(「過剰」と「不足」の回答割合の差)は、大企業・製造業で前回9月調査比1ポイント減のプラス6に、同非製造業では4ポイント減のマイナス1となり、「人員が不足している」の回答が上回った。全規模全産業でも2ポイント減のプラスマイナス0。また、生産・営業用設備判断DI(「過剰」マイナス「不足」)も全規模全産業で、横ばいのプラス3にとどまっている。

 余剰資金を借金返済に優先的に回すバランスシート調整の動きも一段落し、いまや30兆円にも達したとされるフリーキャッシュフローをいかに効率よく投資に回すかという局面に来ている。

 大手銀行が不良債権問題にほぼめどをつけたことも、プラス材料だ。企業向け貸し出しは依然伸びていないため、景気への影響には慎重な見方もあるが、日本経済を覆っていた重石の一つがなくなったことは、企業、家計のマインドに与える影響は小さくないと思われる。

 他にも、過去の典型的な本格景気後退局面入りと異なる点があるとの指摘は多い。

 野村証券は、(1)輸出環境が比較的良好、(2)素材業種の景況感が良好、(3)深刻な在庫調整はIT(情報技術)・デジタル分野に限定――の三つを挙げる。

 (1)は、現在の円・ドルレートの水準が、輸出企業にとってなお採算が問題になるレベルにないことや、機械受注の外需が足元、好調であることなど。(2)は、国内景気が後退局面に陥る際は、素材業種の景況感が加工業種を顕著に下回るのが通例だが、今回は日銀短観を見てもわかるとおり、空前の活況の鉄鋼をはじめとする素材業種が好調を維持していること。(3)は電子部品・デバイスなどIT・デジタル以外の分野で深刻な在庫調整に入る兆候が見られないことなどだ。

リスク要因は海外経済の動向

 だが、一方で、先行きを不透明にしているリスク要因も多い。一つが日本同様、減速傾向が見える海外経済の動向だ。

 米国は、04年7〜9月期の実質成長率が3・9%と、減税効果の剥落や原油高の影響で個人消費が落ち込み、「ソフトパッチ」と言われた04年夏前の減速局面から抜け出したかに見える。だが、クリスマス商戦の不振が伝えられるなど、個人消費はさえない展開。設備投資も減税効果が年末で消え、年明けから鈍化しそう。景気腰折れ懸念はないものの、年明け以降は緩やかな減速局面に入り、実質成長率は04年の4%台から、05年には2%台後半〜3%台前半に低下しそうな雲行きだ。

 ユーロ圏は、個人消費が伸びないうえ、ユーロ高の影響で輸出環境も悪化しており、1%台の低成長にとどまりそうだ。

 唯一、中国は05年も8%台の高成長を続けるというのが大方の見通しだ。03年10月には9年ぶりに利上げが行われたが、引き上げ幅は1年物預金の基準金利で0・27%と小幅にとどまり、景気への影響は限定的だった。ただ、05年前半は自動車需要の一服感や米・欧の景気減速の影響で、やや減速しそうだ。

 こうした海外情勢を受けて、日本は輸出の伸びの鈍化が顕在化し、好調を持続してきた設備投資も減少に転じる可能性がある。1ドル=100円近くまで迫った後、やや円安方向に後退したものの円相場も気掛かりだ。ドル安の主因とされる米国の財政と経常の「双子の赤字」問題が解消されたわけではなく、年が明けて、再び1ドル=100円を試す展開になる可能性もある。現在は、WTI(原油先物)価格で1バレル =40ドル近辺と落ち着きを見せている原油価格の動向にも、なお注意が必要だろう。

 ほかにもある。所得税・個人住民税の定率減税の05年度の半減とその後の廃止や、社会保険料引き上げなど家計の負担増だ。04年7〜9月期のGDP改定で、水面上にわずかに顔を出している程度にすぎなかったことが判明した個人消費を萎縮させかねない。
 そもそも、04年度の実質成長率が仮に予測どおり(民間平均2・0%、政府2・1%)に推移したとしても、03年度末の高成長率による「成長率のゲタ」が実質2・0%程度あることを考えると、04年度中の実力はほぼゼロ%成長だ。そう考えると、足元の景気は予想以上におぼつかないものである可能性は高い。

 仮に、メーンシナリオ通り調整が軽微で済み、05年度後半から本格回復の道をたどっても、その後、今度は2010年代初頭の財政のプライマリーバランス均衡という政府目標に沿い、07年度以降は消費税アップという本格増税が待ち受ける。一方で、社会保障費の上昇もあり、歳出削減は続くだろう。団塊世代の離職という、労働市場の波乱要因も待ち受ける。

 日本経済が薄氷の上をそろりそろりと歩く状態は、なお続きそうだ。


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