反政府武装勢力タリバンが勢いを盛り返し、アフガニスタン情勢が厳しさを増している。国連機関が先週発表した報告書によれば二〇〇八年の民間人死者数は二千百人を超え、前年より四割も増えた。状況は〇一年以降最悪ともいわれる。
オバマ米大統領は約一万七千人に上る米軍増派を決めた。選挙時から「アフガンで始まった対テロ戦をアフガンで終わらせる」と語っていた大統領は、イラク戦争に肩入れしすぎた前政権を教訓に、アフガンへ安全保障の軸足を移す構えだ。三月末までに新たなアフガン包括戦略もまとめる。
米政権は欧州にも協力を働きかけている。ポーランドで開かれた北大西洋条約機構(NATO)の国防相理事会で、米国は加盟諸国に一時的なアフガン増派を求めた。だが、英国やフランスは慎重な姿勢を示し、現段階で応じた国や派遣兵員数は少数にとどまる。世界的な経済危機の影響もあろう。
ロシアの対応もアフガンの今後にかかわる。イラク戦争で冷却化した米ロ関係はミサイル防衛問題やロシアのグルジア侵攻で新冷戦といわれるまでに悪化した。米政権の交代をにらみ、ロシアもアフガン向け非軍事物資の領内通過を許すなど軟化したかにみえたが、ここにきてキルギスが対アフガン戦の拠点である国内の米軍基地閉鎖を米国に通告する事態が起きた。ロシアはキルギスに影響力を持ち、相前後して巨額融資を約束してもいる。ロシアが背中を押したとみるのが妥当だろう。
米国とどう付き合うか、ロシアにはロシアの思惑があろう。アフガン問題に関する今後の対応は読みにくい。
オバマ政権は前政権の反省に立ち、各国と協調していく姿勢を打ち出している。アフガンをめぐる最近の一連の動きもその一環といえようが、欧州やロシアの協力をどこまで取りつけられるのか。米協調外交の試金石といってよかろう。
米国はアフガンに関し、日本に対してもインド洋での給油だけでなく、医療や教育など非軍事分野の貢献を要請し、陸上自衛隊の派遣を求めている。アフガン包括戦略の策定作業に日本政府が参加する見通しであることも明らかになった。二十四日の日米首脳会談で取り上げられる予定という。
平和憲法を持つ日本は、自衛隊の海外派遣については常に慎重でありたい。自衛隊を出すことが協調だといった姿勢は取るべきではない。
深刻さを増す水銀汚染の拡大を防ぐため、国際社会が協調へと踏み出した。ケニアの首都ナイロビで開催された国連環境計画(UNEP)の第二十五回管理理事会は、難航していた水銀の排出を国際協力で削減する条約について、二〇一三年までの制定を目指すことを決めた。
水銀は一度環境中に放出されると国境を越えて広がり蓄積し、健康被害をもたらす。石炭火力発電所や化学工場など汚染源は多い。中国やインド、ベトナムなどでは、水銀を使って鉱石や電子基板から金を取り出す業者が増えているという。
規制の在り方をめぐっては、法的拘束力のある条約制定に積極的な欧州連合(EU)などと、「自主的な取り組みで対応できる」とする米国や中国、インドなどが激しく対立していた。水俣病の重い経験を持つ日本は条約制定を支持しながらも米国への配慮からか、自主的な取り組みも並行して推進する立場をとってきた。
今回、行き詰まり状況を動かしたのがオバマ米大統領の誕生だ。ブッシュ前政権から一転して条約制定支持を表明、中国やインドも最終的に交渉開始を受け入れた。UNEPは、今年後半から準備を進め、一〇年には政府間交渉委員会を設置して条約化への協議に入る予定だ。
国際社会が危機感を強め、結束して取り組まなければ、水銀汚染は食い止められない。今後の展開には不透明な面も多いが、各国が合意にこぎ着けたことを大きな弾みにしたい。
多くの国が参加する実効ある規制にするには、水銀の使用が多い発展途上国への代替製品や削減技術などの支援が不可欠だ。日本は水俣病の教訓と、蓄積してきた優れた環境技術を生かし、積極的にリード役を担っていかなければならない。
(2009年2月22日掲載)