◇速報:豪SS捜査報道について
【シー・シェパード船を捜索、オーストラリア警察「日本が要請」】(2/21,共同/時事/読売/毎日/日テレ/TBS/AFP)
http://www.afpbb.com/article/politics/2573653/3835564
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090221-00000062-jij-int
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090221-00000105-mai-int
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090221-00000755-yom-int
【シー・シェパードの妨害行為2件捜査 警視庁】(2/21,産経)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090221/crm0902211924018-n1.htm
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090221-00000554-san-soci
【水産庁評価「捕鯨交渉にもいい影響」 シー・シェパード捜索で】(2/21,産経)
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090221/biz0902211933008-n1.htm
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090221-00000105-mai-int
【Australian Federal Police Seize Whale War Videos】(2/20,SS)
http://www.seashepherd.org/news-and-media/news-090220-1.html
いまニュースチェックをしていて飛び込んできた情報。
日本側はどこも短い事実報道のみの中、鯨研に役員を派遣しているオトモダチ新聞産経のみがおもしろい記事の書き方をしています。まず上の記事は、内容自体は今回の豪州の捜査とは別の昨年の話で、単なる補足情報にすぎません。これで1本記事にしちゃうところがスゴイ。下は水産庁"幹部"などのコメントを載せた独占スクープ。
「不信感が薄れたことで、交渉が進めやすくなるのでは」というコメントや見出しについては、筆者も同感の部分はあります。「捕鯨交渉にもいい影響」というのは、SSをネタにして日本政府にゆすりたかりをさせないよう、米豪がSSに対するのと同様日本にも虫のいい甘えを許さない姿勢で望んでくれることが何より肝腎。SSはスケープゴートで結構。
た・だ・し、問題は同時に、豪州側の日本に対する不信感を和らげる対応を今後日本政府がとるかどうか次第でもあります。
まず、2/13に青森地裁で公判前整理手続きが始まったGPJ職員逮捕事件に絡み、横領、横流し、ランダムサンプリングの虚偽を始めとする調査捕鯨の数々の不正について、日本側が徹底的に膿を出しきることです。SSへの捜査権が日本にないように、共同船舶への捜査権も豪州警察に権限がないのですから、不自然に打ち切られた東京地検の捜査を再開し、事実を公明正大に明らかにするべきでしょう。GPJ職員の容疑については、捕鯨のみならず日本の司法に対して世界の市民や人権団体の目が注がれていることも忘れないように。日本側の対応次第でSSの捜査をどうするか、豪州政府の対応も決まってくるのは当然でしょう。(リンク下掲)
【Govt quiet on AFP whaling protest raid】(2/21,SMH)
http://news.smh.com.au/breaking-news-national/govt-quiet-on-afp-whaling-protest-raid-20090221-8e3v.html
【動かない豪政府】(2/17,flagburner's blog(仮))
http://blog.goo.ne.jp/flagburner/e/acbb4d12aad99e1b0f6f6563645895ba
実際、上掲リンクのとおり、豪州の新聞シドニーモーニングヘラルドで、オーストラリア緑の党が日本の言いなりにSS捜査を許したAFP(警察)とラッド首相の姿勢を批判したことが報じられています(Hさん、情報提供ありがとうございます)。日本が“黒い調査捕鯨”を真摯に改める姿勢を見せなければ、オーストラリア国民が怒りの声をあげ始めるのも時間の問題に思えます。音響兵器LRADでの攻撃や捕鯨船の特攻など、むしろSSの証拠をもとに日本政府を追及する構えを示すかもしれませんね。こっちも、上院で政府の尻をたたく決議が通っていますし。
また、豪州側が米など他の捕鯨国と連携してSUA条約、国連海洋法条約、OB号のCITES違反など日本側の違法行為についても今後さらに追及していくことにもなるでしょうね。どっちもどっちのSSと日本の捕鯨船団について、日豪両政府が厳しくケンカ両成敗をすればいいことです。
それにしても、GPJ職員事件、逮捕当時はあれだけ大きく報じたのに、今回の記事が掲載されたのは地方版、地方紙のみのようですね。共同の報道では、起訴状の中で「英国人男性と共謀」とありますから、なぜ一緒に逮捕しなかったのか、国際問題に発展するのを恐れた青森県警の及び腰のせいなのか、今後の裁判の展開にも目が離せないところ。
関連リンク:
【捕鯨問題「横領鯨肉の確保は知る権利の行使」グリーンピースの2被告に独占インタビュー】(2/14,JanJan)
http://www.news.janjan.jp/living/0902/0902120296/1.php
【「表現の自由」の保障により2人は無罪――調査鯨肉裁判:第一回公判前整理手続きで弁護団が主張】(2/13,GPJ)
http://www.greenpeace.or.jp/press/releases/pr20090213oc_html
【鯨肉窃盗:弁護側、無罪を主張−−公判前整理手続き /青森】(2/14,共同/時事/毎日青森版/東奥日報/河北新報)
http://mainichi.jp/area/aomori/news/20090214ddlk02040266000c.html
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2009/20090214142419.asp
http://www.kahoku.co.jp/news/2009/02/20090214t23029.htm
http://www.47news.jp/CN/200902/CN2009021301000862.html
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200902/2009021301097
◇日本のマスコミ、環境問題としてのクジラを正しく伝え始める
【「クジラの食ピンチ」南極異景】(2/19-,読売夕刊)
http://www.yomiuri.co.jp/eco/news/20090221-OYT1T00720.htm?from=navr
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090221-00000720-yom-soci
先日捕鯨問題に関して中立的な社説を掲載した読売、夕刊1面で科学部記者が地球温暖化を中心に南極の環境問題を連載特集。1回目は、気温上昇により雪が雨に変わったためペンギンのヒナが大ピンチに陥っている状況を写真付きで紹介。2回目は、棚氷崩壊について。そして3回目の21日にはクジラが登場。
連載1回目でも温暖化でオキアミとその捕食者に大きな影響が出ることを指摘していますが、今回は南極の環境問題に取り組むNGOの連合体ASOC(南極南大洋連合)に取材、オキアミ漁がそこに拍車をかける可能性にも触れています。養殖向けに大量のオキアミが漁獲され、需要増加も予想されていますが、大口の需要先は他でもない日本です。ちなみに、ASOCにはWWFやGPなど捕鯨問題にも取り組む多くのNPO(支部含む)が参加しています。名前の紛らわしいWFF(ウーマンズフォーラム魚)は当然含まれていません。。
南極海生態系を構成する野生動物の一種であるクロミンククジラは、突然降って沸いたエイリアンでも何でもないただの野生動物です。WWFが指摘しているとおり、南極圏の野生動物の中でもとりわけクロミンククジラは深刻なダメージを受けるものと懸念されています。地球温暖化とオキアミ漁、さらに捕鯨の影響が強く疑われるカドミウム汚染など、数々の人為的環境負荷に脅かされているクロミンククジラたちに対し、日本は調査捕鯨/商業捕鯨という直接的なインパクトを加えています。その相乗効果がいかほどになるか、影響が南極圏生態系にどのような形で表れるか、特定の事業者に依存してすっかり堕落しきった鯨研の未熟な致死的資源学からは絶対に解答が出てくることはありません。
捕鯨擁護論者の皆さん、「ミンククジラは日本の里海“南極海”を侵略する宇宙人だ」と言わんばかりの非科学的、情緒的でエゴイスティックな擬人化はやめましょう。クロ(ミナミ)を付けないのも間違いです。
「ノルウェー、英国、旧ソ連、日本による乱獲で大型鯨類は減少。一部の種は回復しつつあるが、いまも元の水準には戻っていない」(以上引用)
乱獲した捕鯨国の中に日本が含まれていることなど、科学部らしい公正で客観的な記述でホッとしました。本来は水産庁/鯨研が、誤った情報に惑わされている日本国民に対して声を大にして伝えなくてはならない事柄です(後述の櫻井氏じゃないけれど)。
惜しむらくは、ザトウクジラの写真のキャプション。下顎の状態を見ると、これは摂餌行動ではなくパフォーマンス中のようですね。
もうひとつ残念だったのは、20日まで2面で連載していた非科学的なマタギヨイショ記事・・
参考リンク:
ASOC(南極南大洋連合)
http://www.asoc.org/
南極南大洋連合:南極オキアミ保全プロジェクト
http://www.krillcount.jp/index.html
◇何かと戦闘的な反反捕鯨オピニオンたち
【感情的反捕鯨論との闘い方】(2/19,「櫻井よしこ ブログ!」)
http://yoshiko-sakurai.jp/index.php/2009/02/19/%E3%80%8C%E6%84%9F%E6%83%85%E7%9A%84%E5%8F%8D%E6%8D%95%E9%AF%A8%E8%AB%96%E3%81%A8%E3%81%AE%E9%97%98%E3%81%84%E6%96%B9%E3%80%8D/
捕鯨関連ブログを検索していて、またまた著名人が引っかかりました。保守派論客として名高い櫻井よしこ氏。最近筆者が目にしたところでは、ジャーナリストの江川昭子氏、自民党所属衆院議員の山際大志郎氏、漫画原作者の雁屋哲氏に続いて4人目。どうやら櫻井氏のこのブログは、週刊新潮連載の自身のコラム「日本ルネッサンス」から引っ張ってきているようです(今回のは2/19号(12日発売)のもの)。
内容については、皆さん各自上掲リンク先の当のブログをご参照いただきたいと思いますが、中田宏氏や梅崎義人氏の主張を借り出した後、文末でいかにも右系オピニオンリーダーらしい櫻井氏ご自身の捕鯨擁護論を展開しています。
中田氏と梅崎氏はその筋では有名なので、捕鯨問題に関心のある方はよくご存知でしょう。“魚くん”に似てるといわれる中田氏は横浜市長。調査捕鯨母船日新丸が横浜港の三菱重工ドッグに時々いたりするくらいで横浜市政とは何の関係もないのに、IWC総会誘致運動を展開したり、何かと捕鯨にご執心な方。横浜市民はさぞかし迷惑されているのでは。一方、梅崎氏は、「食文化・人種差別」プロパガンダによる世論操作戦略を日本捕鯨協会に指南し、大成功を収めさせた反反捕鯨運動興隆の立役者である元国際PRのコンサルタントで、現水産ジャーナリストの会会長。基本路線は変わっていないとはいえ、最近の物言いは若干控えめですな。先日グリーンピース・ジャパン主催の漁業シンポジウムにも顔を見せたらしいですが・・。
−モラトリアム発効と「国際PR」の陰謀
http://chikyu-to-umi.com/kkneko/aa4.htm
では、櫻井氏のブログについて、順を追って細かくチェックしてみることにしましょう。以下、着色部分引用。
のっけからシーシェパードの妨害活動で始まっていますが、永続的な聴覚障害を来たす「恐れがある」音響兵器LRAD(税金3億で装備させた)を使用したり、一時的障害であっても船から転落させて命を落とす危険がきわめて高いにもかかわらずそれをゴムボートの乗員めがけて発射したりしたことには一言も触れてませんね。日本側の捕鯨船がイスラエルや北朝鮮のように正当防衛を主張しつつ「自分から突っ込んでいった」ことにも。さらに、安全管理に手落ちがあったことが強く疑われながら情報がまったく出てこない捕鯨船員の転落事故や、船団の一隻が自分でトラブルを起こしてインドネシアに寄って修理しようと試みたものの国際条約違反を理由に入港を拒否されたことなども。この辺はジャーナリストの姿勢としていかがなものでしょうか。。
続いて、拙ブログでもご紹介した谷口氏の主張。「〜をはじめ」とあるのは、読売や北海道新聞の社説のことを言っているのでしょう。おそらく櫻井氏は、保守系の読売からも同様の主張が出始めたことに危惧を覚えて、週刊新潮でこの記事を書くに至ったものと思われます。櫻井氏は「情報を広めること」が大切だと主張しながら、谷口氏が指摘する調査捕鯨の政策決定過程の不透明性や高コスト、外交上のデメリットなど数々の問題点について一言も触れることなくすっ飛ばし、日本国民の目から情報を隠したがる鯨研/共同船舶/水産庁にしっかり加担していますね。これまたジャーナリストの姿勢としていかがなものでしょうか。。。
−第三の道
http://kkneko.sblo.jp/article/25798112.html
−捕鯨擁護マスコミに変化の兆し(読売/北海道)
http://kkneko.sblo.jp/article/26342123.html
http://kkneko.sblo.jp/article/26707951.html
3つ目の段落ですが、これはホガース議長(米国)の提案をたたき台にした作業部会の報告書で、総会に向けて詳細が詰められるものです。「沿岸捕鯨を認める報告書」といってしまうと何かと語弊がありそうですね。これは各マスコミの報道の問題ですけど。詳細は後述。
−ホガース議長仲裁案の問題点
http://kkneko.sblo.jp/article/25960561.html
この後中田氏の持論の紹介に続くわけですが、横浜市長なのにすっかり「鯨問題研究家」の扱いですね。その割には、中田氏の主張は至るところ間違いだらけです。
「長年、日本はIWCの許可の下で、調査捕鯨を行い、鯨の生態を科学的に分析してきました。年齢構成、系統別の出産率、エサ魚群の種類と量など、一連の調査はIWC科学委員会で高く評価されました。科学者たちは一様に、日本が捕獲するミンク鯨などは、ほぼ100万頭が生息し、捕獲は十分に許されることを知っています。けれど、科学委員会の主張は本会議では、政治的、感情的意見で否決されてしまいます」
調査捕鯨は国際捕鯨取締条約(の抜け穴)に基づき加盟国である日本政府が許可証を発給しているもので、IWC自体が許可するもんじゃありません(付帯条項に基づきレビューするだけ)。「系統別の出産率、エサ魚群の種類と量など」こういう表現はいかにも素人の生物学オンチらしいですね。クロミンククジラに関しては系統"群"判別がそもそもまだ途上の段階です。妊娠率は出せますが、出産率なんて数字は調査捕鯨じゃ出てきません。生物学的特性値については自然死亡率がゼロになってしまうなど調査捕鯨の手法のお粗末ぶりが露呈したほか、過去のバイアスなど捕鯨を続行する以前に解決されなければならない問題が山積していて議論がずっと続いている状態です。昨年のレビュー会合でもIWC科学委は決して“高く”評価などしていません。「RMP(改訂版管理方式)ではそもそも不必要だが、使おうと思えば使えるデータもないわけじゃない」と言っているだけです。
最悪なのはその次の一文。一様にという意味では、ごく一握りの鯨研関係者を除き、科学者たちはほぼ一様にクロミンククジラが「100万頭生息する」などというデタラメを否定するでしょう。76万頭という旧い便宜的な合算値は、日本側がIDCR/SOWERの最新の数値(時系列的に推移を比較可能な同一のデータ解析手法を用いれば約40万頭)についてごねているため、科学的には既に死んでいます。ミンクとクロミンクをごった煮にしたり、種の個体数(管理に必要なのは地域個体群毎の数字ですが)に「など」というおそろしく非科学的な表現を使ったり、否定された76万をほぼ100万に無理やり四捨五入したり(最新の数字だとゼロになっちゃいますよ?)、無断で許したり、嘘八百もいいところですな。はっきり言って厨房レベルです。このコメントは櫻井氏が中田氏に直接レポったのかもしれませんが、プロのジャーナリストなら週刊誌のコラムであっても取材対象に原稿の確認くらいさせるでしょうに、それを怠ったのか、中田氏がやっぱり恐ろしいほど無知なのか・・。いずれにしろ、櫻井氏も科学的素養に欠けるとの謗りは免れないでしょう。
−調査捕鯨自体が否定した3つのトンデモ論
http://chikyu-to-umi.com/kkneko/jarpa.htm
非科学的な耳タコ鯨食害論については、櫻井氏と同じく闘うのが大好きな山際氏の書籍に対して批判したとおり。もう一度繰り返しますが、クジラ以外の海棲哺乳類の捕食量、海鳥の捕食量、魚食魚の捕食量、イカその他魚食生物の捕食量、そしてクジラの捕食量のうちの商業漁獲非対象種の割合を全部数字で出してご覧なさい。それを全部コントロールできるなどというつもりなら、大法螺を吹きまくる鯨研学者のマッドサイエンティストぶりが浮き彫りにされるだけです。市民団体や生物学者・水産学者、市民ブロガーの皆さんからも反論は山ほど出ているので、中田氏や櫻井氏にも耳栓をせずにしっかり勉強してもらうよりありませんな。
FAOの勧告についてはソースが載っていませんが、おそらく人伝に昔の話をしているのでしょう。非科学的な食害論とリンクするものではありません。
−「なぜ調査捕鯨論争は繰り返されるのか」石井敦(『世界』'08/3)
−「トンデモ鯨職害論」
http://ameblo.jp/puneko/theme-10004669027.html
−「…それはありえない」
http://3500131221.blog120.fc2.com/blog-entry-18.html
−「クジラが魚を食べ尽くす?? なわけがない!!!!」
http://www.whalelove.org/raw/content/fun/kujiravssakana-jp.pdf
−スケトウダラ・勝川俊雄公式ウェブサイト
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/study/0430/
今年、IWCの議長国は米国だ。反捕鯨の米国出身の議長が日本の沿岸捕鯨を認めると提案したのは、捕鯨賛成派と反対派が拮抗し、機能停止に陥ったIWCの亀裂の修復を目指すからだ。この妥協案も、日本の主張ゆえに生まれたと中田氏は語る。
これも間違い。米国は以前にも同様の提案を行い、大手捕鯨を庇護する日本政府が自分で蹴った経緯があります。
’07年のアンカレジ総会での日本提案については、市民WebニュースJanJanで詳細に解説されていますが、日本の主張と再開提案が否決された経緯は、鯨問題研究市長中田氏の解説とはまったく異なるものです。中田氏が日本の提案としているのは、実は反捕鯨国であるアイルランドが提案した内容。ついでにいえば、「脱退するぞー!」という脅しは年中行事。。
−やってる「ふり」だけ?の沿岸小型捕鯨再開提案〜国際捕鯨委員会・2007総会ウォッチ(5)
http://www.news.janjan.jp/world/0706/0706280989/1.php
ここでバトンは中田氏から梅崎氏へ。世論操作がお家芸の梅崎氏、反捕鯨国の市民をも丸め込むのがうまいのか、質問と解答の中味を見てみないことにはわかりませんが・・。ただし、櫻井氏が抜き出した部分だけでも客観情報とは到底言いがたいもの。前述のとおりミンククジラは(クロミンククジラも)100万頭いませんし、捕鯨は一部の地域で断続的に行われてきただけで、とくに近代商業捕鯨は日本という国や日本人という民族の文化ではありませんし、そもそも日本ははるかに大切な内外の伝統文化を経済的・政治的理由であっさりと潰してしまえる国ですし、過去の商業捕鯨ばかりか調査捕鯨においてすら大量に鯨肉が投棄されていた疑いがありますし、調査捕鯨も沿岸捕鯨もIWCの規制対象外だからこそ日本が勝手にやれちゃっているのです。さすがにこんなデタラメな情報をもとにすれば、反捕鯨国の市民といえど騙されて変な数字が出てくるのかもしれませんね。逆に言えば、日本でも正しい客観情報を与えて世論調査をすれば、きっと調査捕鯨反対が多数を占めることでしょう。
捕鯨協会や梅崎氏がこれまでどういう情報操作を行ってきたかも市民の皆さんが分析済み。
−「平成13年度 捕鯨に関する世論調査について」(平賀さんの投稿:IKAN)
http://homepage1.nifty.com/IKAN/news/toukou/08021902.html
−「アンケート」(Adarchismさんのブログ)
http://3500131221.blog120.fc2.com/blog-entry-53.html
「豪州のホエールウオッチの人たちは、一頭毎に名前をつけて鯨に親しんでいます。その鯨は大型で美しいザトウ鯨やナガス鯨です。彼らの感情を傷つけないために、日本はこれらの鯨を捕獲しないことです。小型で数も多いミンク鯨であれば、漁業資源保護からも必要で、納得され易いのではないでしょうか」と梅崎氏。
日本のタマちゃんや動物園アイドルへの無節操なフィーバーぶりに比べりゃ、狂騒的動物愛誤度は環境先進国のオージーの皆さんの方がはるかに低いですよ。梅崎氏らは昔コククジラを醜いとかTVで発言して笑っていましたが、コククジラだってクロミンククジラだって他の野生動物に劣らず美しいですよ。グレートバリアリーフでの観察事例もありますし、ザトウと同じくオーストラリアの人々にとって身近な自然を構成する野生動物であることには違いありません。地球の裏側からやってくる飽食廃食大国に勝手に殺されて、感情を傷つけられないはずがないでしょう。
ちなみに、北半球のミンククジラについても、WWが成立する可能性は十分あります。それも他ならぬ日本で。日本のミンクフリークはかなり肩身の狭い思いをしているようで、遭遇ポイントも大っぴらにできない有様ですが・・。
それにしても、梅崎氏も「クジラと陰謀」出してた頃に比べずいぶんと角が丸くなりましたねぇ。ザトウやナガスを獲るなですって。そーゆーことは、ノーテンキな南極海牧場構想で次はザトウだと吠えている大隈御大や、高級料亭でナガスの尾の身を頬張りたがるおエライ文化人や政治家の先生方(このヒトたちの鶴の一声で意味のない10頭の捕獲枠を設けてるんでしょーが)にちゃんと言ってくださいよ。最初に抱き込んだのはあなたでしょーが。
漁業資源保護の観点から必要なのは何だか知ってますか? 北太平洋のミンククジラの主食は昨年豊漁のサンマですよ。それ以外の危機的状況にある漁業資源を徹底的に痛めつけてきたのは何だか知ってますか? 当然知ってますよねぇ、水産ジャーナリストの会会長さんですもんねぇ。それはもちろん、乱獲と水産行政の無策ですよ。日本が対策に後ろ向きな地球温暖化もこれに加わってきていますが。漁業の未来を真剣に憂える人たちは、鯨食害論などという眉唾なトンデモ仮説など見向きもしません。
21世紀半ばに、地球人口は100億を超える。100億人分の牛、豚などの肉類の生産は到底、不可能だ。鯨が必要とされる時が必ず来ると、梅崎氏は強調するのだ。その日の日本のためだけでなく、IWC加盟国の約半分の日本支持諸国、また、未来の地球人口のために、調査捕鯨と、冷静な説得の継続が必要だ。
これまたノーテンキ極まる暴論ですな。食糧問題の解決を目指す世界的なベジタリアニズムの運動と比べても、非科学性、非合理性という点でははるかに上。捕鯨は環境にまったく優しくなどありません。とりわけ遠洋捕鯨はきわめて環境負荷が高く、牛肉生産にほぼ匹敵します。また、仮に商業捕鯨が再開されたとしても、RMP/RMSの厳正な管理下で行えば可能な捕獲量はせいぜい現行の調査捕鯨と同レベルであり、日本の高額所得者層の食通向けにしか供給され得ません。現在でも第三世界では年間500万人を越える児童が栄養失調で亡くなっていますが、その一方で日本は世界の食糧援助を上回る年間約2千万トンという途方もない量の食物を廃棄しています。もちろん、調査捕鯨による鯨肉供給量はその1%にも及びません。ふざけるのもいい加減にしてもらいたいものです。アフリカ諸国の飢餓問題克服への寄与度ゼロ(リソースを奪うのでむしろマイナス)の捕鯨のために水産ODAで票を買い取る日本政府の姿勢は、道義的に決して許されるものではありません。
リンク:
−遠洋調査捕鯨は地球にやさしくない・日新丸船団、CO2を4万tは排出か?
http://www.news.janjan.jp/living/0807/0807090629/1.php
−捕鯨は畜産のオルタナティブになり得ない
http://chikyu-to-umi.com/kkneko/ushi.htm
さて、そこで締めくくりの櫻井氏自身の主張をそのまま引用してみましょう。
奇妙に思われるかもしれないが、私には捕鯨問題と満州事変がつながってみえる。事変に至る過程で、日本がどれだけ国際条約やルールを守ろうとしたか、反対に中国がどれほど条約破りをし、日本を挑発し続けたかは、リットン報告書など、種々の資料で指摘されている。結果は、しかし、事変を起こした日本が一方的に非難され、“原因を作った”と国際社会が分析した中国は゛善意の被害者≠ニ位置づけられた。政治は結果によって評価されるのであり、その点で、忍耐出来ずに行動を起こした日本は外交で失敗したのだ。
今回、日本は「忍耐の限界」などと言ってIWCを脱退する代わりに、情報を世界に広めることだ。米国の衛星チャンネル「アニマル・プラネット」は昨年末から7週にわたってSSの活動を伝えた。彼らの活動を美化し、日本を貶める内容だ。一方的な情報が世界中に報じられるのに対して、日本側は官民あげて、日本の主張と正確な情報を発信し返すのがよい。摩擦を生むからといって、対中政策に見られるように、正しい主張を引っ込めてはならない。鯨問題に限らず、日本は国家として、情報発信予算をもっと割くべきだ。世界は情報で動く。国益を守るも損ねるも、情報戦略が基本であることを忘れたままでいてはならない。
私は奇妙に思いませんよ。ただし、結論は正反対ですが。一体日本がどれほど国際条約やルールを破り、世界を挑発し続けたかは、谷口氏や石井氏、真田氏、ピーター・サンド氏を始め内外の識者によってこれまでさんざん指摘されてきました。CITES(ワシントン条約)の留保と手続き違反、補給船オリエンタル・ブルーバード号の改名とCITES非加盟国への船籍替えという海賊捕鯨ばりの悪質行為に対する水産庁の「私企業だから関知しない」という姑息な言い訳、国連海洋法条約や南極条約の主旨に反する音響兵器搭載、イージス艦あたご事故を彷彿とさせる傲慢なSUA条約違反etc.etc. そもそも調査捕鯨自体、10頭前後という条約制定当初の想定の裏を掻く抜け道を利用した擬似商業捕鯨(というより規制・監視を外れた擬似海賊捕鯨)以外の何物でもありません。
−日本の調査捕鯨の違法性を追及する内外の動き
http://kkneko.sblo.jp/article/26915339.html
−SUA条約関連
http://kkneko.sblo.jp/article/18205506.html
http://kkneko.sblo.jp/article/25798112.html
まあ、事変という耳障りのいい(?)言葉にすり替えて侵略行為を正当化するヒトらしい結論といえばそれまでですが。こういう超保守主義者のヒトたちって、広島・長崎の原爆投下や東京大空襲も同様の文脈・論理で仕方のなかったことにしちゃうんでしょうかね。そしてきっと、戦争そのものにNOと言ったり、環境破壊や動物の犠牲をなくしていくための取り組みを、すべて非現実的で感傷的といって一笑に付すんでしょうね・・。筆者に言わせれば、国家という哺乳類離れした超個体的群れへの帰属意識も、伝統の本質からかけ離れた素朴な食ブンカ論も、根っこはエモーショナルなものでしかありませんが。
最後は結局「SSに対抗して闘え!」と関係者に発破をかける結論ですが、日本がやっているのはどちらかというと正しい情報を伏せる情報操作でしょう。すでに鯨研は研究機関のくせに年間5億円を費やし(おっと、広報に使ってるのも今年から秘密にしちゃったんでしたっけ、鯨研さん)、下関から永田町までお偉い議員先生がパーティーを開いて盛大にシュプレヒコールを上げてるじゃないですか。その結果として、毎年のように補助金を増額して経営に行き詰まっている鯨研/共同船舶を国庫で下支えし、引き換えに天下り先を農水官僚が確保してるじゃないですか。
摩擦を生むからといって、対中政策に見られるように、正しい主張を引っ込めてはならない。鯨問題に限らず、日本は国家として、情報発信予算をもっと割くべきだ。
国民を騙す情報操作に国家予算をつぎ込むのはまさしく北朝鮮化の道ですよ。ただでさえ財政事情が厳しいのですから、くだらないことに予算を割くことには日本国民として明確にNOを突きつけるべき。唯我独尊をアピールしても、なおさら世界に恥をかくだけです。いつまでも過去のしがらみに囚われて(その実はアイデンティティを失った挙句のアングロサクソン・コンプレックス)自滅の道を歩むのは愚かです。平和国家・環境国家としてこどもたちに対しても世界に対しても、本当の意味で胸を張れる国にするべく、後ろ向きのルサンチマン国家からとっとと脱却しなくてはなりません。
「忍耐の限界」といって脱退すれば先がない、というのは唯一正しい現状認識ですね。それだけ。なぜ先がないのかまでは、櫻井氏は根本的に理解できてないみたいですが・・・
参考リンク:
−江川紹子氏の捕鯨擁護論批判
http://kkneko.sblo.jp/article/16488658.html
−陰謀論をふりかざして「闘うお笑いくじら人!」たち
http://kkneko.sblo.jp/article/25487149.html
−手塚治虫氏と雁屋哲氏
http://kkneko.sblo.jp/article/26550741.html
櫻井よしこさんのブログをはじめて見ました、もっと若い人かと思ったら、結構なお歳ですね。このヒトも捕鯨推進語りに手を染めたのか。
ミンクの頭数の根拠については、実はあまり詳しくなかったので勉強になりました。
(その根拠の薄い数字を基にしても矛盾が出る食害論って凄い)
まあ、小松正之氏自身がテレビで50万頭で収まりそうだとかコメントしてたんで、40万頭ならあたらずも遠からず。
ついでに言えば、横浜市民として本当に迷惑しています。もう市長の座はさかなクンに譲ればいいのに。
ついでに、トンデモ鯨食害論の続きですが、なんか根本的な部分に世間の誤解があるなら、もっと解りやすくてシンプルにネタにしないといけないかなとか、思っています。
生態学が専門の方の解説を期待していますが、右派論客や捕鯨サークルにとっては、無視したい論文でしょう。
「クジラ食害論」が使えないとしても、日本ではこの論文の存在は紹介されず、「イワシが減ったのはクジラのせい」と洗脳を続けるのかもしれません。
クジラにこだわって、本当の原因を調べないなら、50年後は魚も食べられなくなると思います。
>伝統の本質からかけ離れた素朴な食ブンカ論も、根っこはエモーショナルなものでしかありませんが。
だからこそ、食ブンカ論のような反反捕鯨論が日本でそれなりに受け入れられてるのかもしれませんね。
論理的に考えなくてもわかりやすいから、ついついそっち(食ブンカ論支持)に行ってしまう、といったところでしょうか。
その前に、論理的に考える際に必要な情報が少ない、という噂もありますが・・・。
http://asunews.asu.edu/20090213_whale
サイエンスの論文については著者自身による解説ビデオもありますね。