著書と映画の成功は、著者の生活を一変させた。恐喝に始まり、「システム」による殺害計画も発覚。警察の護衛下での暮らしを余儀なくされている彼に、ノーベル平和賞受賞者たちが連帯のアピールを寄せた。青年を中心に「我々はみな、サヴィアーノだ!」の合言葉の下、犯罪組織に挑むサヴィアーノ現象が国中にわき起こった。「神もイデオロギーも死んだ」と言われて久しいイタリア社会にあって、青年たちは明日への真摯(しんし)な模索を続けているかのようだ。 小説『Laハsolitudineハdeiハnumeri primi(邦訳すると“素数たちの孤独”)』は、北部トリノ大学を優秀な成績で卒業した原子物理学研究者パオロ・ジョルダーノの処女作。過去にプリモ・レーヴィやウンベルト・エーコも受賞した、イタリアで最も権威ある文学賞のストレーガ賞(08年度)を歴代最年少の26歳で受賞し、華やかに文壇にデビューした。
トリノ市を舞台に、幼年期のトラウマを抱えた男女マッティアとアリーチェの幼年・思春期から成年への歩みがたどられる。アリーチェは父を恨み、同時に自分を愛しきれず拒食症に悩まされる。マッティアには知的障害を持つ双子の妹がいたが、ある事件から内向的な性格を深めていく。
互いに強く惹(ひ)かれる2人だが、声に出して自分の思いを伝えられない。「双子素数」のごとく、間近にありながら決して結ばれることのない二つの孤独な存在。代弁するのは「親から豊かさを保障される一方で、寄る辺ない孤独のうちに苦悶(くもん)する富裕なブルジョア階層の青年たち」だ。緊張感のある描写で、確固とした生のよりどころを失ったかに見える現代社会への省察を刺激する。
今回は、外国人作家による小説が多数ランクインした。欧州人の作家や世界的な話題作は素早く翻訳されるイタリアだが、7冊も入るのは珍しい。
1.5.8.はスウェーデンのジャーナリスト・作家である故スティーグ・ラーソン推理・探偵小説三部作。25カ国で翻訳され、800万部を超えた世界的ベストセラー。ストックホルムを主な舞台に、社会・経済スキャンダルを扱う月刊誌ミレニアムのジャーナリストと若く勝ち気な情報システムのエキスパートという魅力的な男女2人のアンチヒーローが活躍、福祉国家といわれるスウェーデン社会の闇に挑戦する。
ラーソンは本業のジャーナリストとして1995年ストックホルムでの極右による殺害事件のあと、季刊誌EXPOを発刊。欧州でのネオナチ・ファシズムの台頭に警鐘を鳴らし続けたことでも知られる。04年11月、エレベーターの故障のため7階の自社オフィスまで駆け上がり心臓発作を起こし、刊行を待たずに50歳で亡くなった。全10作を予定していたシリーズは第4作が準備されていた。欧州各国で映画化やTVドラマ化が進んでおり、本国では小説ゆかりの地を巡るツアーまで企画されているという。
2.3.4.6.は米国の女性作家による学園生活を舞台にした青春小説シリーズ。ファンタジー仕掛けでホラーと恋愛をミックスし、「ハリー・ポッター」を卒業した10代に多くの読者を得ている。とはいえ、ローマの辛口評論家をして「どうしてこんな作品が?」と嘆かせるほどの人気は、映画公開もあって衰えを見せない。
10.は、02年度ストレーガ賞受賞作「動かないで」に次ぐ女性作家の最新作。1984年の冬季オリンピックにわく町から1992年、戦火に包囲される町へと変容するサラエボを主要な舞台にして織りなすローマの女性、ジェンマの「愛と苦悩」を描く。
著者の夫はイタリアの人気俳優セルジョ・カステッリット。150万部も売れた前作は04年、夫とペネロペ・クルスの出演で映画化された。