日本、インドネシア、韓国を歴訪した米国のクリントン国務長官は、最後の訪問地、中国で胡錦濤国家主席、温家宝首相と会談し、楊潔〓外相と話し合った。
長官に就任して最初の訪問地をアジアにし、各国で市民との対話集会をこなした。ブッシュ政権時代の単独行動主義から転換しようという意欲は好感がもてる。
歴訪では、最初に日本を訪問して「日米同盟重視」を再確認した。また、野党民主党の小沢一郎代表とも会談した。自民党から民主党に政権が交代しても良好な日米関係は維持できるというメッセージだ。
世界最大のイスラム人口を擁すインドネシア訪問は、イスラム国との対話重視だった。韓国訪問では、6カ国協議の枠組みによって北朝鮮への核放棄を迫ることを確認した。
だが、今回の歴訪で世界が最も注目したのは中国首脳との会談だ。中国はいまやアジアで最も影響力のある国というだけではない。米国が金融危機を切り抜けるには、米国債の最大の保有国であり、世界一の外貨準備を持つ中国との協調が不可欠だ。
だが、その中国は核ミサイル搭載の原潜や空母の新造開発に力を入れ、米国の不安と疑念をつのらせる存在でもある。
ブッシュ政権の時は、米国の財務長官と中国の副首相とが定期的に協議する「戦略経済対話」の枠組みを作っていた。オバマ新政権になってどのような対話の枠組みを作るかが、今回のクリントン長官訪中の課題だった。
歴訪に先立ち長官は「同舟共済」(川を渡るには、心をあわせてボートをこがなくてはならない)という中国のことわざを引用し、米中協調を呼びかけた。アジア重視外交といっても、事実上、米国は中国を最も重要な外交の相手と見なすと宣言したのである。
北京での一連の会談で、米中は閣僚級による経済対話、政治安保対話の二つの枠組みを作ることを決めた。バイデン副大統領と温家宝首相との定期協議というハイレベル対話の構想も流れていたが、クリントン長官が仕切る閣僚級対話に落ち着いた。
また、台湾への武器売却で中断していた軍事交流についても再開が決まった。温暖化問題での対話にも合意した。
だが、そのために米国が人権、民主化、チベット問題などで外交圧力を後退させたことは否定できない。譲歩だと批判がでている。
また、長官が米中2国で世界の問題を解決できるかのような表現を時々使ったことも見逃せない点だ。米中外交だけではアジア重視外交にならない。
米中協調という姿勢は歓迎する。しかしボートに乗っているのは米中だけではないことを両国は忘れないでもらいたい。
毎日新聞 2009年2月22日 東京朝刊