日本経済が驚くほどの勢いで失速している。政府は、二月の月例経済報告で景気の基調判断を「急速な悪化が続いており、厳しい状況にある」とし、前月の「急速に悪化している」から下方修正した。
基調判断の下方修正は五カ月連続である。ITバブルが崩壊して景気後退に陥った二〇〇一年二―六月と並び、過去最長となった。「厳しい状況」という表現は〇二年八月以来。「戦後最悪不況」の様相を呈してきた現状に危機感を示した形だ。
個別項目で注目されるのは個人消費である。一月の「このところ弱含んでいる」から「緩やかに減少している」と二カ月連続で下方修正した。
世界的な景気悪化で輸出や企業の生産が急激に落ち込んでいるが、個人消費で「減少」という表現は初めてだ。与謝野馨経済財政担当相も「家計部門への波及がはっきりしてきた」と、景気悪化が家計を直撃し始めたことへの強い懸念を示した。
一月の全国百貨店売上高も前年同月比9・1%減と十一カ月連続の前年割れとなり、消費不振を裏付けた。個人消費は国内総生産(GDP)の五割強を占める内需の柱だけに、景気全体に与える影響は大きかろう。
背景にあるのは消費者の節約志向だろう。賃金の低下や雇用環境の悪化による不安などが消費低迷に拍車をかけている。
深刻な不況は、外需に依存して成長を続けてきた日本経済の構造的な欠陥を顕在化させたともいえよう。物価が下落しても売れない状態が続けば企業業績は悪化し、賃金も下がって一段と景気が悪化するデフレスパイラルへ突入する懸念もある。
緊急の景気対策ももちろん必要だが、内需を刺激するための大胆な処方せんが求められるのではないか。経済財政諮問会議の民間議員は十九日の会合で、内需けん引型の経済回復を進めるには、環境や省エネ、医療、介護といった成長が見込める分野の新事業育成に向け、政府が「賢明な支出」をすることが重要との指針を提言した。
内需主導の克服策を早急に示し、雇用の拡大にもつながる経済成長戦略を打ち立てることが肝要だ。危機を脱したときの日本経済のあるべき姿も見定めながら、財源の使い道を精査する必要があろう。社会保障制度の充実も急務だ。社会の安心感を確保することが個人消費の刺激にもつながるからだ。末期症状の麻生政権に信頼に足る骨太の戦略が打ち出せるかどうか。政治の力が問われている。
起きてはならないことが起きてしまった。香川県立中央病院(高松市)で不妊治療中の医師が受精卵を取り違えて移植し、人工中絶という事態を招いた問題である。生命の根源を扱う分野で、安全対策に不信感を抱かせる重大なミスといえる。
病院側の説明によると、昨年秋に不妊治療で体外受精を受けた二十代の女性に担当医が別の患者の受精卵を戻した疑いがあり、妊娠した胎児を人工中絶した。受精卵の発育具合を確認する際、女性の名前が書かれた容器のふたを別人の容器に誤ってかぶせたのが原因という。
不妊治療は子どもを望む親にとって最後のよりどころだ。両親は妊娠を喜び、出産を待ち望んでいただろう。ミスを謝罪した医師に対し夫は怒りをあらわにし、妻はうちひしがれた様子で無言だったという。二人の気持ちは察するに余りある。
受精卵の取り違えは二〇〇〇年に石川県のクリニックで発覚したが、妊娠まで明らかになったのは初めてである。日本産科婦人科学会は会員に向け、体外受精の実施に当たっては受精卵の識別や管理などを徹底するよう通知しているが、実態は把握していない。
香川県立中央病院では、対応マニュアルは未整備だった。受精卵の確認は一人で行い、他人によるチェックもなかった。受精卵の取り違えは担当医の単純ミスのようだが、ミスを誘発しやすい状況を放置してきた病院の責任も問われよう。
求められるのは組織的で厳格な再発防止策だ。安全対策は施設によってばらつきがあるとされる。この病院だけの取り組みではなく、関係機関を挙げて対応する必要がある。今回の問題点を徹底的に洗い出し、何重ものチェック機能の整備を急がねばならない。
(2009年2月21日掲載)