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社説1 「かんぽ」撤回が映す民営化後退を憂う(2/21)

 日本郵政は「かんぽの宿」のオリックス不動産への一括売却を白紙撤回した。入札は「公正だった」というが、なぜ事実関係を明かす努力を尽くさずに撤回したのか。鳩山邦夫総務相も不正の有無と売却方法の妥当性を混同して議論している。早すぎた白紙撤回が郵政民営化の後退につながるなら憂うべきことだ。

 第1の焦点は27社参加の入札でオリックスを有利にする不正な扱いがあったかどうかだ。総務相は同社の宮内義彦会長が規制改革・民間開放推進会議議長だったことを引き合いに「出来レース」と批判した。

 西川善文社長は「一般競争入札ではなかった」と説明を修正した。日本郵政の情報開示の遅れも疑念を深めた。総務省は入札参加者などへの調査を始めている。不正があれば日本郵政やオリックスは厳しく指弾されるべきだ。だが日本郵政の公開資料をみる限り、意図的な落札を導いたと断ずるに足る証拠はない。

 日本郵政は正当というなら情報開示に努めるべきで、白紙撤回は早すぎた。総務相も抽象的な批判でなく、調査を徹底して、誰もが納得する客観的な事実関係を示してほしい。民間企業の契約が政治介入で簡単にほごになるようでは、内外の企業が日本郵政と安心して取引できなくなるという大きな問題を残す。

 第2の焦点は一括売却というやり方の妥当性だ。総務相は不正の有無とこの点を一緒にして批判しているが、分けて議論すべきだろう。

 一括売却の結果で決まった109億円という落札価格について「建設費の2400億円に対して安すぎる」という批判は多い。だがこれは単なる不動産売却ではなく、毎年50億円近い赤字を出す事業を雇用を含めて買い取るという話だ。一括売却方式には合理性があるし、入札が適正である限り価格も妥当なはずだ。

 総務相は個別に地元業者に譲渡すれば良いと主張するが、不採算施設まで売れるかどうかは疑問だ。売却が1年後なら総額160億円近くで売れないと、オリックスへの売却より不利になる計算になる。

 地元への売却には政治的判断が色濃く影響する。日本郵政は政府全額出資とはいえ、民間会社として法人税も払っている。できるだけ効率を高め、収益を拡大する民営化の趣旨からいえば、経営に政治判断が影響するのは望ましくないと考える。

 2400億円もの過大な投資を進めた官業や政治の責任も解明すべきだ。この問題をきっかけに、郵政民営化の後退や官僚主導の復活といった動きが強まるのは好ましくない。

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