早い話が

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早い話が:台湾の過去からの手紙=金子秀敏

 日本に向かう引き揚げ船が港を出ていく。岸壁に立つかれんな台湾少女。去り行く男の日本語の独白--こんな場面で始まる台湾映画「海角七号」(魏徳聖監督)が中国国内でも上映された。出足は好調だという。

 喜劇調の恋愛映画だが、テーマが日本の植民地統治時代に触れる。中国では「皇民化教育の影響」のある「親日映画」として、一時は上映許可が下りなかったといわれる作品だ。

 昨年、台湾で大ヒットした。映画の舞台になった台湾南部の田舎町、恒春は観光客でにぎわうようになった。

 あらすじはこうだ。日本の敗戦で恒春を去る日本人教師が、愛する台湾少女、友子をおいて帰国する苦悩を手紙につづった。手紙は半世紀以上たって教師の遺族から海角七号(岬の7番地)の友子あてに投函(とうかん)される。

 ミュージシャンの夢破れて台北から故郷に戻り郵便配達をする青年、阿嘉(アカ)は日本時代の住所で来た手紙を放り出す。地元のホテルが日本から有名歌手を呼ぶ。阿嘉はその伴奏をする羽目になり、通訳の日本人、友子と衝突しながら恋仲になる。友子に手紙の重さを教えられた阿嘉は岬に住む年老いた友子を探し出した。

 ほとんど会話は台湾語だが、北京語、日本語、英語が交じる。台湾人、客家人、外省人、日本人。欧米人も登場する。複雑な台湾社会の縮図だ。

 植民地統治に対する批判的メッセージではない。「わらべは見たり」と日本語の歌を自然に口ずさむ老人がいる。だからといって親日がテーマではない。戦後の台湾の歩みを描くために、あえて終戦という時間軸を導入したのだろう。波止場の場面では、画面の端に着剣した国民党軍の兵士が立っている。引き揚げ船と兵士は、日本人が去り、大陸から中国人がやって来たという台湾の戦後の象徴だ。

 台湾が国民党政権に戻り、中国との対話を本格的に始めた。だが、中国との距離が近づくほど、台湾人は中国とは違う自分たちを意識する。だから台北を訪問した中国の高官に、台湾高官がこの映画を見せたのだろう。

 中国は、台湾文化に対する寛容さを見せようと、バレンタインデー期間の恋愛映画として上映を許可した。中国国内版は一部カットされた。政治的な理由ではなくラブシーンだった。日本での上映はまだ決まっていない。配給の金額で折り合わないそうだ。(専門編集委員)

毎日新聞 2009年2月19日 東京夕刊

 

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