(週刊文春 2009年2月26日号 37〜38ページ) http://www.bunshun.co.jp/mag/shukanbunshun/ 被害女性10人が怒りの告白 筑波“神学校”牧師が強いた「屈辱的な性行為」 「神のために働きなさい」 「『二人きりのときはヒザに座るようにしよう』と言われて座らされ、キスしたり胸を触られたり。『止めてください』というと、『これはあなたの癒しのために仕方なく行っていることで、誰にでもやっていることではない。だから二人の秘密にしようね』と。『聖書のどこに、そんなことが書いてあるんですか?』と尋ねても、『まぁまぁ、いいから』と止めてくれませんでした。  心から信頼している先生なので、あまりにもショックで…。記憶が飛んでしまって、どうやって自分の部屋に帰ったかも覚えていないんです」  被害に遭った女性の一人A子さんは、そう振り返る。  多数の女性信徒から性的暴行被害を訴えられているのは、茨城県つくば市を拠点とする宗教法人「小牧者訓練会」代表・卞在昌(ビュンジェージャン)牧師。今年六十一歳の韓国人だ。  A子さんは二十代半ばのころ、卞牧師が営む神学校に入学。ひと月ほどのち、卞牧師の自宅に下宿するよう命じられた、直後からほぼ毎晩マッサージをさせられ、「あなたは私の娘なのだから」と迫られて、おやすみのキスとハグが習慣となる。部屋に鍵をかけることを禁じられて着替えを覗かれたり、「娘のことは何でも知りたい。どこまで経験したのか」などと執拗に聞かれ、「娘のように、とこには恋人のように愛し合わなければならない」と諭されるようになった。  そして冒頭の出来事。その後、行為はエスカレートしていく。 「娘なら、胸の成長を確認させるのは恥ずかしいことではない。大切なことなんですよ」と、下着の中にまで手を入れた。「あなたを娘としてしか見ていないから、僕は何にも感じていないんだ。確かめてみなさい」とA子さんの手を掴み、自分の股間へ導こうとした。その手を払いのけると卞牧師は「あなたは私を信頼していませんね」と怒ったという。  添い寝を強いられ、「いつでもあなたと寝る覚悟はできている」と迫られたこともあった…。  こうした日々が四、五ヵ月続き、耐えられなくなったA子さんは、つくばを離れた。その後うつ状態となり、教会も辞めた。 「嫌で嫌で仕方なかったのですが、『親娘なら当たり前だ』と言われ、『恥ずかしく思う自分がおかしいのかな』という気持ちにさせられてしまったんです。  いまこうしてお話することにしたので、被害者がほかにもたくさんいることがわかり、同じ目に遭う人がこれ以上出てほしくないという気持ちからです」  卞牧師は八一年、宣教師として韓国から来日した。八六年に「国際福音キリスト教会」を立ち上げ、九七年に宗教法人「小牧者訓練会」を設立。教会はつくばのほか、東京の高田馬場や八王子、シドニーやゴールドコースト、上海にもある。夫人も、同じ教会で主任牧師を務めている。  卞牧師が韓国から持ち込んだ「弟子訓練」のシステムは高く評価され、日本のプロテスタント教会のうち六十教団二千もの教会が影響を受けているとされる。所属する信徒は五百人あまりだが、卞牧師はそれ以上に指導者として名声を得てきたのだ。  教会のほかに、牧師を養成する「十二使徒共同体神学校」も営む。A子さんをはじめとする性的暴行の被害者は、主にここで寮生活を送る神学生の女性だ。その篤い信仰心につけこむ手口は、神をも恐れる所業というほかない。  別の女性B子さんには、こう言って迫ったという。 「アダムとエバが罪を犯す前、二人は裸だったが、罪がないから恥ずかしくない。私の心にはやましい気持ち、エロスがないから、ここで裸になっても、あなたを一つになっても、清い気持ちのまま。これは罪じゃないの。父の深い愛なんだ」 またあるときには、「神様のために働くには、弟子は先生と一つにならないといけないの。あなたは私と一つになるか?」  性的行為を拒めば「あなたを信頼できない」と言われ、仕事を外されたり無視されたりといった仕打ちを受けた。B子さんは、こう振り返っている。 地上での肉は天では関係ない 「私より深く聖書を悟っているである指導者の言葉です。理解できないと『信仰が足りない』と言われ、『理解しなきゃいけない』と、自分にプレッシャーをかけるようになり、次第に従うのが当たり前になっていったのです」  こうした心理は、どの被害者にも共通のものだ。カルト宗教に詳しい牧師が指摘する。 「牧師が神様になってしまったのです。彼女たちは、それがセクハラであることさえ気付かず、受け入れられない自分を責めるようになった。典型的なマインドコントロールです」 卞牧師は周到にも、「私はセクハラなど受けていません」とあらかじめ書いた紙を用意し、女性に署名と日付だけ記入させていたという。「被害を受けている」という意識のない彼女たちは逡巡もなくサインの応じ、その後も被害を受け続けた。 そんな環境に、五年以上も置かれ続けた女性もいる。スカートに手を入れられて「止めてください」と言うと、「私を信頼しているか試してるんだ」と返され、抵抗してはいけないという気持ちになっていった。 「究極的には、地上での肉のことは、天に行ったら関係ないんだよ」と言われても、疑問を自ら封じ込めた。 ついには肉体関係まで強制された女性もいた。卞牧師は「アクシデントだ」と言い訳したという―。 こうした行為が明るみに出たのは、去年の春以降。一人の女性が声を上げた結果、口をつぐんできた被害者が次々と名乗り出たからだ。その数は現在十名に達し、性的暴行が十年続いてきたことや、被害を訴えても口止めするなど、卞牧師の夫人や側近が隠蔽に努めてきたことも判明。男性信徒へのパワハラや、金銭面での疑惑も浮上した。 卞牧師は当初、被害を訴えていた女性たちを狂人扱いし、「精神錯乱だ。サタンの手下に立って、教会を破壊しようとしている」などと攻撃した。それが一転、「謝罪する」と称して約五十名の信徒を教会に集めたのは、暮れの十二月二十日のこと。 ところがその場での発言は、罪を認めるどころか「相手が嫌がるのに無理やり愛情表現をしたことはない」と、「合意の上だった」と言わんばかり。 代表の座から降りると表明したあと、卞牧師の所在は不明。関係者も連絡がとれないといい、すでにオーストラリアへ脱出したのではないかと言われている。 韓国人牧師の性犯罪と言えば、「摂理」を思い出す。日本でも多くの被害者を生んだ教祖・鄭明析(チョンミンソク)。だが、「摂理」は、もともと統一教会から派生したカルトだ。しかし今回の「国際福音キリスト教会」は正統派のプロテスタントで、卞牧師は高い評価を受けてもいた。それがいつの間にかカルト化していった事態に、キリスト教関係者の間にはショックが広がっている。 「外部の牧師たちがチームを組んで、この問題の解決にあたっています。二月三日には、教派を超えて連名で声明文を出しました。これも初めてのことです」(前述の牧師) 罪を認めない卞牧師の態度で心にさらなる傷を負った女性たちは、警察への被害届提出と民事訴訟の準備を進めている。