警察が扱う変死体の解剖率が低く、犯罪の見落としが懸念される中、自民、公明両党の国会議員が19日、死因究明制度確立を目指し議員連盟を発足させ、設立総会を開いた。3月末までに解剖医の増員や、行政解剖を専門的に行う監察医制度の拡充などの提言をまとめ、法案の提出を目指す。
議連には、医師でもある自民党の冨岡勉衆院議員の呼びかけに賛同した約40人が加わった。会長に選出された保岡興治前法相は「隠れた犯罪を見逃さないため、きちんとした制度をつくりたい」と語った。
死因究明制度をめぐっては、警察が「事件性があり」と判断して行う司法解剖がある。このほか、東京23区と横浜、名古屋、大阪、神戸各市の計5地域には、監察医制度があり、監察医が遺体をみて、必要があれば行政解剖を行っている。
だが、それ以外のほとんどの地域には監察医制度がない上、解剖医の数が200人足らずと少なく、昨年の解剖率は、1・8%(広島県)から29・2%(神奈川県)まで地域で大きな格差があった。
このため議連は、まず解剖医の増員策を関係省庁を交えて議論、3月末までに第1次提言をまとめる。その後も週2回のペースで会合を開き、監察医制度の地方への拡充や薬物検査体制の確立なども検討する。冨岡氏は「変死体の解剖率が100%の国もあるなか日本はほとんどが表面だけみて死因を推定している。先進国として恥ずかしくない制度を検討する」と話した。
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■解剖率向上に追い風
死因究明制度について、19日、自民、公明両党の国会議員が発足させた議員連盟。欧米に比べ極端に低い解剖率の底上げと解剖医の減少に歯止めをかける追い風となりそうだ。
警察庁によると、昨年1年間に全国の警察が扱った変死体は約16万1800体。このうち司法解剖や行政解剖が行われたのは約1万5700体で、解剖率は前年比0・2ポイント増の9・7%にとどまっている。
米国50%、フィンランド100%という諸外国の解剖率に比べると、その低さは際立っており、犯罪性のない死因の究明はほとんど行われていない。
時津風部屋の力士暴行死事件も当初、警察は病死と判断していたが、遺族が解剖を要請したことで事件となった。この事件を契機に警察の検視官や解剖医不足の問題が表面化。今年1月に日本法医学会が都道府県への「死因究明医療センター」の設置などを求める提言を発表したことも議連の立ち上げにつながった。
「死んでも死因が確定できない現状が問題。国として医師による検視と解剖による死因究明の充実を図ることが重要だ」
議連の設立総会に参加した日本法医学会の中園一郎理事長(長崎大法医学教室教授)はこう訴えた。
自殺や高齢者の孤独死などの増加で変死体が増え続ける一方で、解剖医の数は年々減少している。国立大の独立行政法人化の影響で、合理化を迫られた大学の法医学教室が人員削減を求められているからだ。
死因究明制度の充実は、犯罪の見落としばかりでなく、新たな感染症や事故防止対策など社会の安全にも役立つ。監察医制度がある地域とない地域で、解剖率に大きな差があることは社会保障の観点からも大きな問題だ。議連発足を機に関係省庁の縦断的な対応が求められている。
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