--米国の経済危機の原因は何でしょう。
◆規制の失敗、ブッシュ前政権の失敗だ。自由市場経済を強調し、政府の規制を過小評価する共和党のイデオロギーによって引き起こされた。
--政府の巨額の軍事支出に警鐘を鳴らしてきましたね。
◆(国防省以外の関連支出を含め)年1兆ドル(90兆円)近い国防費を払う余裕はない。米国は中国に国債を買ってもらい巨額貿易赤字を穴埋めしてもらう奇妙な超大国だ。海外に761の基地を持つ行き過ぎた「帝国」を築き、01年の同時多発テロという報復を受けた。
--オバマ大統領はどうすべきですか。
◆我々は世界を不安定化させずに覇権を断念しなければならない微妙な時期にいる。問題は次の覇権国にその準備ができていないことだ。次は間違いなく中国だ。CIA(米中央情報局)は2025年に世界で最も豊かな国を中国、次に米国と推定している。
--突出した軍事力が、米国の唯一の超大国という地位を支えていました。
◆少なくとも東西冷戦が終わった91年には、敵がいなくなったのだから軍事費を大幅に削減すべきだった。1929年に始まった大恐慌を第二次世界大戦の特需で克服して以来、米国には軍事産業における投資が経済を良くするという誤解が生まれた。実際には軍需は民需ほど消費や投資を生み出さない。
--軍事費削減が進む可能性は?
◆軍事支出が地域経済の柱となっているところもあるし、軍事産業は議会を買収していると言えるほど影響力が強く簡単ではない。だが既に米国は覇権を放棄しつつある。オバマ大統領は時間をかけてやる必要がある。そして教育にもっと国の予算を回すべきだ。
--米国が覇権を失えば世界はどう進みますか。
◆世界が軍事力を展開する人々に支配されてきた時代は終わった。グローバルな競争、覇権の性質は根本的に変わりつつある。今日の競争は、地球温暖化対策の技術革新を巡って行われている。強さではなく、賢さによって国際社会の序列が決まると予測している。
--日本はどうすべきでしょう。
◆インド洋での給油活動やソマリア沖の海賊対策などのように、日本に容易ならない仕事をさせる圧力がきっとかかってくるだろう。日本は強く抵抗すべきだ。(戦争放棄を定めた)憲法9条を捨ててはいけない。それが、理想主義を呼び起こし、日本に役立つ最善の方策だ。【聞き手・吉富裕倫】=おわり
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■人物略歴
「通産省と日本の奇跡」「アメリカ帝国の悲劇」などの著書がある国際政治学者。中国と日本の専門家で、「日本異質論」の主唱者としても知られる。現在は日本政策研究所長も務める。77歳。
毎日新聞 2009年2月13日 東京朝刊