中川昭一前財務相の辞任を受けて、与謝野馨経済財政相が財務相と金融相も兼務になった。異例の事態だ。国際会議の出席にも支障が出ている。麻生太郎首相は内閣の布陣を早急に見直すべきだ。
これは緊急避難なのだろう。国会で二〇〇八年度補正予算と〇九年度当初予算案の審議がヤマ場を迎える中、与党の顔触れを見渡し、すぐ答弁に立てる人材となると、与謝野経財相くらいしかいなかったという事情もありそうだ。
与謝野経財相は一連の経済対策で、とりまとめ役を担っていた。永田町や霞が関では「実質的には、財務相だった」という声もある。実務にも精通し、官僚に頼りがいのある政治家であるのは間違いない。
景気悪化が深刻化している現状では、経済閣僚を三つ兼務するのは、政策を迅速に展開するうえで効果的という見方もできる。
だが、やはり弊害を見逃せない。たとえば、二十二日からタイで開かれる東南アジア諸国連合・日中韓(ASEAN+3)の財務相会合を欠席するという。国会審議などの事情を考慮したようだが、アジアで日本の存在感が薄れるのは避けられない。
今後、二十カ国・地域の首脳会合(G20)や主要国首脳会議(G8サミット)財務相会議など重要な国際会議が控えている。こうした議論にも加われないようだと、日本の国益にもマイナスだ。
ほかにも、財務相の諮問機関である財政制度等審議会の日程が延期された。今後は衆議院と参議院の日程が重なって、十分な国会答弁ができない場合も出てくるかもしれない。忙しすぎるからだ。
政府の仕組み上も問題がある。経財相は「骨太の方針」をはじめ政策の大枠を決める経済財政諮問会議の司会役を務める(議長は首相)。諮問会議で決まった大枠を基に、財務省が編成する予算案の責任者が財務相である。
両大臣の兼務は行司役と力士が一緒になる面があるのだ。言い換えると、政策に及ぼす財務省の力が従来にも増して強大になる。増税論者である与謝野経財相の財務相兼務で増税路線は一段と勢いを増しそうだ。
金融システムが弱体化している中、金融相を兼務するのは公的資金投入をめぐって財務相の立場と利益相反になる可能性もある。
兼務が長引けば、メリットよりもデメリットの方が大きくなる。一段落したところで、経済閣僚の陣容を再考する必要がある。
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