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日露首脳会談:日…4島返還、堅持強調/露…「独創的手法」日本の譲歩、念頭か

 18日の首脳会談で、麻生太郎首相とロシアのメドベージェフ大統領は「新たな、独創的で型にはまらないアプローチ」で北方領土交渉を行うことで合意した。だが双方が抱く思惑は異なっている。

 ◇北方領土交渉

 ◇露…「独創的手法」日本の譲歩、念頭か

 「独創的なアプローチ」はロシア側が提案したとされるが、具体的な内容は明らかでない。ラブロフ外相は会談に先立つ17日、インタファクス通信に「(領土問題で)標準的でない提案をしたこともないし、提案することもない」と述べており、ロシア側の真意は不明だ。ただ、ロシアの専門家や政治家の間では「これまでロシアは柔軟性を示してきたが、日本が4島返還のかたくなな姿勢を崩していないことが交渉の前進を阻んでいる」との意見が強く、大統領の発言は暗に日本側に「独創的で型にはまらない」譲歩を迫ったとの見方もできる。

 日露専門家のコーシキン・戦略策定センター上級研究員は「メドベージェフ大統領は紳士的で外交的な表現を好む」と指摘し、今回の大統領発言に特別な意味を酌もうとする日本側の期待を戒める。ロシア側には、プーチン政権下で1956年の日ソ共同宣言の有効性を認め、事実上の「2島返還」にまで歩み寄ったのに対し、日本側は従来の「4島返還」の立場を崩さなかった、といういら立ちがあるためだ。

 過去の領土交渉ではロシア側から「共同開発」の形で問題解決を図る提案が出されたこともある。主権問題が障害となって進展しなかったが、ロシアが今後の方向性として共同開発を念頭に置いている可能性もある。今回ロシアが麻生太郎首相をサハリンに招待した背景には、極東の経済開発で日露協力を進める思惑があったとみられ、領土問題の解決を経済協力の延長線上と考えていれば、こうした提案が再浮上しても不思議ではない。【ユジノサハリンスク大木俊治】

 ◇日…4島返還、堅持強調

 日露首脳会談での外務省の狙いは、「アプローチ」の具体的な内容は不明としても、4島返還の基本姿勢を維持しつつ、凍結状態が続く領土交渉の「ネジを巻く基礎づくり」(幹部)だった。会談ではプーチン首相の5月来日を固めるなど今後の首脳会談の道筋をつけたが、今後、相手の意図を探り合う“綱引き”が再開されることになる。

 「役人に任せていただけでは駄目。政治家が決断するより方法はないのではないか、という話で今の言葉が出てきたと理解していただければよい」。会談後、首相は大統領提案の「アプローチ」を記者団にこう解説。日露のこれまでの主張を踏まえ「向こう(ロシア)が2島、こっちが4島では全く進展しない」とも発言した。

 この発言は4島とも固有の領土と主張してきた日本も柔軟姿勢を取る用意がある、とも受けとめられる。

 しかし同行筋は、首相発言について「四島の帰属問題が解決されれば、実際の返還の時期、対応については柔軟に対応するという政府方針を示したものだ。その基本方針で交渉する立場は全く変わらない」と強調した。

 首相が領土問題で「政治決断」できる余地は、求心力の低下で狭まっているのが実態だ。外務省にとって会談の狙いは、大統領の交渉を前進させる意欲を確かめ、首脳外交を今後も継続する足場をしっかりと築くことだったが、ロシアの真意は見えていない。河村建夫官房長官は18日午後の記者会見で、両首脳が一致した「アプローチ」について「言葉だけでは、すぐイメージが浮かんでこない」と戸惑いを隠さなかった。【川上克己】

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 ◇露の狙いは2島+α 日本にとってマイナス--木村汎・北大名誉教授

 日露首脳会談でロシア側が提案した「独創的なアプローチによる領土問題解決」に同意した日本は、「4島返還」という従来の立場を捨てたといえる。

 ロシア側の狙いは、2島でも4島でもない「2島(歯舞、色丹)プラスα」による解決であり、αの部分は共同開発などを想定している。残る2島(国後、択捉)が返ってこなければ、日本にとってプラスどころか「マイナス2島」になる。麻生氏は島の「面積分割」による解決に言及したことがあり、ロシア側から「スキがある人物」と思われたのではないか。4島以外の解決はないと、なぜ側近たちが首相を制しなかったのか。

 日本は第二次大戦後、サハリン(南樺太の主権)を犠牲にしている。そのサハリンに行って今回のような妥協を行ったのは致命的な後退であり、日露交渉史の大きな汚点になる。【聞き手・杉尾直哉】

毎日新聞 2009年2月19日 東京朝刊

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