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【社会】

都道府県別に定員枠 臨床研修見直し 都市の医師集中改善へ

2009年2月19日 朝刊

 地域の医師不足を加速させた臨床研修制度の見直しを検討していた厚生労働、文部科学両省の有識者会議は十八日、都市部への医師偏在を是正するため都道府県別の定員枠を新設し、従来大学が担ってきた地域への医師派遣機能の再構築を図ることなどを柱とする報告書を大筋でまとめた。

 両省は省令改正など必要な改正を行い、二〇〇九年度の募集に提言を反映させる方針。

 新人医師の研修先は従来、大学が七割以上だったが、臨床研修制度導入後は、研修医が研修先を希望できるようになり、症例数が多く研修内容や待遇が充実した大都市の民間病院などの割合が増えた。大学や関連病院が人手不足となり、地方の病院に派遣していた医師を引き揚げ、各地で深刻な医師不足が顕在化した。

 報告書によると、研修期間は従来通り二年とし、現行七科の診療科を内科(原則一年目に六カ月以上)、救急科(同三カ月以上)、地域医療(二年目に一カ月以上)の三科に削減した。新たに「選択必修」として、一年目に外科や麻酔科、小児科、産婦人科、精神科から二つを選択。残る期間で、将来希望する専門に応じた研修もできるようにしたうえで診療科に組み込み、働き手として活用する。多くの診療科を巡回する現行の研修プログラムも各病院の判断で引き続き実施できる。

 都市部への研修医集中を避けるため、人口分布や医師養成数、地理的条件などを考慮し都道府県別に募集定員の枠を新設、若手医師の研修地域での定着を図る。各病院ごとの募集定員は過去の研修医の受け入れ実績を踏まえ、地域への医師派遣に実績のある大学病院などへの定員配分を優遇する。

◆地域への定着は不透明

 <解説> 厚生労働、文部科学両省の有識者会議が、臨床研修の二年目から診療科で働けるようプログラム弾力化などを提言したのは、地域医療崩壊を食い止めるには、大学を中心とした医師派遣機能の再構築が不可欠と判断したためだ。

 大学側は、研修を受けながら下働きをしてくれる医師が増えれば、その分、ある程度経験を積んだ医師を再び、住民に身近な地域医療機関に戻すことができると考えている。

 両省は将来の専門に応じた研修プログラムを充実させれば、大学の研修希望者が増えるとみているが、確実ではない。研修医受け入れ実績の少ない病院の定員を削減したうえで、大学病院の定員割合を増やし、研修医の確保を図るつもりだ。

 だが、そもそも大学が研修先として敬遠されたのは「雑用が多く待遇が悪い」などの理由が多く研修内容次第では研修医の反発を招きかねない。両省は最初に研修した地域に定着する可能性が高いとして、都道府県別の定員枠を設けたが、臨床研修終了後に専門医になるための後期研修先を選ぶ際、最初の地域に定着するかどうかは不透明だ。 (西田義洋)

 <臨床研修制度> 医師免許取得後に2年以上、医療現場で診療経験を積む制度。従来は努力規定で、大学病院では専門分野しか研修しない場合も多く、基礎的な診療ができない医師を育てる問題があった。多くの研修医が低賃金で酷使されるなど処遇も不十分だった。2004年度から研修に専念できるよう処遇を改善し、2年以上かけて内科、外科、救急、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療の7分野で研修することを義務付けた。

 

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