
ドラゴンエイジPure誌掲載の読みきり作品「シンデレラシューズ」の全頁解説第14回です。
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これ以上ないほどに、果てしなくネタばれなので
必ず本編を読んだあとで読みすすめてください。
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■p57(p204)
一心同体であった親子が別個の個人として切り離されるシーンですので
テロップの靴べらは、ストレートにゼウスの雷となっています。
書斎で変わり果てた息子に絶句する父親。
父親の視界では、光陰がアマリの理性と肉体を無残に切り分けています。
■p58,59(p205,206)
理由について淡々と理性的に述べるアマリ。
感情をむき出しにしてショックを受ける父親。
こここから描写上の性は揺らぎ逆転したような形になっています。
前エントリで触れたとおり、性転換者の手術動機について完全には共感できなかったので
ここらのシーンの説得力がイマイチな感じです。
アマリのあげた理由は本当に手術にまで至るに足る強いものといえるのかどうか。
ここは僕の能力の限界で白旗を揚げます。すみません。
■p60,61(p207,208)
「傷ついたよ」
違和感を感じさせるように、あまり男性が口にしない台詞をここは選びました。
今まで極端にマッチョ的だった態度が反転して、感情的かつヒステリックに、もっともアマリが傷つくであろう言葉を選んでアマリを責めています。
慎むべき悪い言葉ですがいわゆる「女の腐ったような」言動。先のエントリで触れた性の揺らぎ描写を実践してみました。
前頁のまずさがあるので、効果的をあげてるのかどうか分かりませんが。
こうしてアマリはここで自分の決断に伴う責任として、大きなペナルティを負うことになります。
果たしてそのペナルティが正当と言えるか分かりませんが、既存の社会規範から外れ否定するわけですから
大きな反動を受ける描写は必要だと思いました。
こうした描写なしでは、アマリは単に放埓に自由を駆使する存在に見えてしまいます。
■p62(p209)
今まで守られていた家を後にするアマリ。
画面全面を覆う要塞のようにも見える邸宅は、アマリを異物として放逐する社会規範の頑強さをあらわしています。
望遠レンズで建物がここまでボケることはない気がするんですが、
背景の墨ベタがやや強すぎる気がしたのでこうした処理を加えました。
■p63(p210)
外出着と大きなカバンで雇用主の前に現れるロレンゾ。
アマリと共に出て行くという意思表示です。
自らのプライドからか、ロレンゾから話を切り出す前にアマリの世話を頼む父親。
■p64(p211)
”半身”を失った人間の語りのシーン。
一コマ目は44ページの流用ですが、本当はちゃんと描いてもらった背景があったはずなんですが
どこかへ行方不明になってしまいました。マジごめん、O君。
66ページと繋がるために、空に雲を描き込んでおきたかったんですが、時間切れでした。。。
■p65(p212)
女性的に見えるアマリも、父親の強さをしっかり受け継いでいることをロレンゾは見抜いているというシーン。
ロレンゾにアマリのことを頼むのも、親として息子への愛は失われていないわけで、少しだけ、父親に救いを持たせてあります。
最終コマ、砂目トーンの2値化を失敗して、境界がクッキリしてしまいました、、、
こういうモニターでは気づかず、印刷を見てありゃーというのが結構あります。今後のデジタル原稿の課題。
シナリオ段階で、ここにアマリ出生の回想シーンを入れることを考えていました。
アマリは半陰陽として生まれ、強制的に男の子として手術されます。
第11回解説で触れた「ブレンダと呼ばれた少年」をもとにしたシーンです。
この出産でアマリの母親は死亡していることが示され、非常に重い内容となっています。
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・病院
医師らとアマリの父。
男性器・女性器、卵巣をもったアマリのレントゲン写真が掛けられている。
父親「半陰陽<インターセックス>?
医師「はい 極めて希なケースですが
お子様は生まれながらに「男性の形質」「女性の形質」両方を等しくお持ちなのです
できるだけ速やかに ”どちらかに決める”ことをお勧めします
父親「・・・”決める”とはどういうことだ
医師「どちらか一方を捨て一方を残す――外科的に男性または女性に所属を確定するということです
父親「・・・
医師「第三の性というのは存在しません 我々の社会に適応し生きていくためのやむをえぬ処置です
父親「生まれたばかりのこの子の身を切り裂く 父の私にそんな野蛮な選択をしろというのか
医師「奥様の事でもお気を落とされているのは承知しておりますが 今はお子様の将来を大事とお考えください
父親「・・・
父親「では 男の子に
私は強い男の子に育てたい どんな困難にも負けぬ強い意志を持つ男に
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このエピソードは、
・なぜアマリの性自認が一致せず、手術の決心にまで至ったのか
・アマリの父はなぜ執拗に男性であることをアマリに要求したのか
・アマリの母親は一体何処に居るのか?
これらの疑問について強力に納得させる理由となるのですが、以下の考えからカットしました。
・アマリの特殊性を際立たせると、読者の共感に敷居を作ってしまう恐れがある。”がんばれ”ではなく”かわいそうな人”になってしまわないか。
・理想を追う人間という普遍的な物語とするのに、<インターセックス>という専門用語を重要なキーワードに据えるのは、やはりそぐわないのではないか。
・見方によっては反社会・わがままとも取れる行動を正当化するのに、”障害者”という切り札を使うのは物語としてフェアではないのではないか。
・ここで父親視点の回想が挿入されると、物語のテンポが悪化、紙幅が増大してしまう。
・・・お話を作るのは本当に難しいです、、、
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