すぐに本文を読む NTTデータデジタルガバメント This site is only available in Japanese.
株式会社NTTデータ
サイト内検索  
>> 検索のヘルプ
このサイトは、電子政府・IT政策をテーマに、世界の動向やNTTデータの取り組みを紹介しています。
ホームワールドレポートメールマガジンIT政策ウォッチNTTデータの取り組み
お問い合わせ   サイトマップ
概要  
韓国における住民登録番号は、国家としての一元管理と行政機関間の情報共有化によって、国民便益と行政効率化の面で大きな成果を上げ、電子政府推進の原動力となってきた。しかし、余りに手軽な本人確認手段として普及した結果インターネットサイトでの成りすましが社会問題化したり、住民登録証のICカード化が現在も実現できていないなど、課題もある。このような、韓国における住民登録制度とその情報化の現状を報告する。   
地域  
キーワード   

アジアマンスリーニュース 2008年12月号

韓国における住民登録番号と住民登録証(IDカード)

韓国の住民登録制度の概要:メリットも大きいが反発もある

住民登録法を根拠とした住民登録番号と、それを記載して17歳から発給される住民登録証(IDカード)は、韓国の住民登録制度の根幹をなすものであると同時に、国民の日常生活に極めて深く浸透している。行政部門では全ての行政機関(中央・地方)がオンライン上で普遍的に使用している。例えば、教育(入学等)、就職、運転免許証、パスポート、選挙、社会保険など、電子政府の各種アプリケーションの利用に際しての本人確認手段として使われているほか、民間部門ではインターネットサイトの利用登録などに当たり前のように使われている。まさに国民への利便と行政の効率化に寄与してきたと言える。

しかし、個人情報保護法も未制定のまま、住民登録と共同利用のシステムで国家一元管理を行い、行政機関間での共同利用を推進していることは、プライバシーの著しい侵害につながるのではないかと懸念もされている。また、他人への成りすましによるインターネットサイトへの登録が横行していることは社会問題ともなっている。これらを背景とした国民からの反発により、ICチップを搭載した電子住民カード(後述)はまだ実現していない。

本稿では、このような韓国の住民登録制度の実態に迫る。

住民登録法の変遷(1):国民監視から国民利便と行政効率化に重点をシフト

韓国の住民登録法は、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領による軍部独裁政権が続いていた1960年代に制定された。1962年に導入された当初は、希望者のみの登録を行っていたが、1968年1月21日に、当時対立していた北朝鮮の特殊部隊が朴大統領を襲撃・殺害しようとした事件が起きたことを契機に、同年11月21日からスパイ識別便宜などの目的で身分証明用の住民登録番号を記載した住民登録証の発給が制度化されることとなった(第1次改正)。これが住民登録番号制度の始まりであるが、当時は18歳以上の者を対象としており、番号の桁数は12桁で、現在と違い生年月日も書かれていなかった。

1970年の改正で公務員の要求があった場合等に住民登録証を提示する義務規定が課せられるようになり(第2次改正)、これは1980年の改正で民間部門にまで拡大されると共に、住民登録証の所持義務も規定された(第4次改正)。これらにより、住民登録証は本格的にIDとしての役割をもつこととなっていった。またこの間、1975年には発給対象者の年齢を現在と同じ17歳に引き下げ、住民登録番号も生年月日を含む13桁に改める一斉更新がなされた(第3次改正)。

1988年の改正では、住民登録証に伴う身分や居住地確認が不可能なもの(住民登録証の詳細については後述を参照。)を軽犯罪処罰法で処罰できるようにした条項が削除された(第6次改正)が、これは民主抗争を通じて新しい憲法が誕生して韓国社会全般に民主化の気運が広がってきたことと時期を同じくするものであった。1991年に改正された住民登録法は、国民の利益のため、手作業で処理されていた住民登録事務を伝算処理できるように法的根拠を用意し、住民管理体制としての本来の目的を強化するために、住民登録の所掌機関を住民の居住する居住地を管轄する基礎自治体に調整するものであった(第7次改正)。

このように1960年代から1990年代初頭までの住民登録法の動きを見てくると、当初の目的はスパイなどの不純分子を摘発するための国民監視に主眼が置かれていたが、1980年代からの民主化と共に、国民便益や行政の効率化に重点がシフトしていったことが分かる。

住民登録法の変遷(2):国民の反対で電子住民カードは未だ実現していない

その後1997年に改正された住民登録法は、社会的論議の沸騰を招いたICチップ搭載の電子住民カードの導入を骨子としている。元来、立法部に提出された住民登録法は、既存の住民登録証に印鑑証明、運転免許証、医療保険証、国民年金証書など様々な機能を統合した電子住民カードを導入することとしていた(第9次改正)。しかし、その乱用を懸念する世論の抵抗にあい、実際に国会を通過した住民登録法では、統合できるものは印鑑証明だけとなり、電子住民カード発給センターの設置や住民登録簿の電算化といった制度的措置に対する規定に重きを置いたものとなった。但し、おりしもの韓国の金融危機と政権交代が重なり、結局は導入が見送られることとなった。

導入見送りとはなったが、この法改正を根拠に電子カード導入に向けて1999年に設置された「住民登録証発給センター」とその設備を活用することで、発給過程は全て電算処理されることとなったため、電子住民カード導入の物理的土台は既に整っているといえる。このことを背景に、住民登録法を所管する行政自治部(現 行政安全部)はその後も電子住民カード導入に向けた動きをとっている。

その一つとして行政自治部は2005年9月から「住民登録証発展モデル研究事業」をスタートさせ、翌年4月までの期間、次世代登録証の発展モデルの検討を行った。この作業を通じ、ICカードを含む発展モデルの基本模型が策定され、また、この継続作業として2007年8月には新住民登録証の試作品も公開されている。

しかし、国家による情報の一元管理による権力の乱用、即ちプライバシー侵害への懸念や指紋捺印など身分確認に必要のない様々な個人情報が収録されたまま電子化を進めることへの懸念、などを挙げて電子住民カードの導入に強い反対を表明する市民団体が多く、実際の導入には至っていないのが現状である。

住民登録番号と住民登録証:シンプルだが登録情報は多岐に亘る

次にここからは、実際の住民登録番号と住民登録証がどのようなものになっているのか見ていくこととする。まず住民登録番号であるが、これは韓国籍をもつ者に対し出生時に与えられる識別番号で、13桁からなる。例えば、2000年6月15日に出生した男子として鐘路区桂洞で3番目に登録する人は以下のような番号が付与される。

図1:住民登録番号

図1:住民登録番号

  • まず、最初の6桁は生年月日で、年・月・日を各2桁ずつで表示する。2000年6月15日なら000615となる
  • 性別は、各出生持の年代別で下記のように決められており、2000年代の場合、男子は“3”で表示されることとなる
    1800年代生(1800〜1899年生)は、男子は“9”、女子は“0”で、
    1900年代生(1900〜1999年生)は、男子は“1”、女子は“2”で、
    2000年代生(2000〜2099年生)は、男子は“3”、女子は“4”で表示
  • 地域番号は住民登録の事務を行う事務所のコードであり、4桁で表され、ソウル特別市の鐘路区の事務所の場合は、0014となる
  • 住民登録順序は、1桁で表示し、同日出生者を男女別で区分し、申告順序に限って各々1番から付与する。
    参考事項:住民登録番号は、生年月日6桁と後半7桁を包含する13桁で構成され、13桁がすべて同一の場合はありえず、後半の7桁は同一である場合がありうる。
     
    例1) 洪吉童:650615−1001434(○)
    李哲松:650615−1001434(×)
    例2) 洪吉童:651615−1001434(○)
    李哲松:691103−1001434(○)

一方、住民登録証は、住民登録された満17歳以上の韓国国籍を有する全ての国民に発給されるもので、満17歳の誕生月の翌月1日から6ヶ月以内に居住地の役所に申請をして発給を受けなければならない。発給の申請は以下の情報を申請書に書き込んで、居住地の邑・面・洞(※注1)の事務所に提出する。

(1)姓名 (2)住民登録番号 (3)住所 (4)本籍 (5)世帯主 (6)戸主 (7)職業 
(8)血液型 (9)特殊技術 (10)兵役事項 (11)申請年月日 (12)申請人署名 
(13)左右10指の回転指紋 (14)3×4cmの写真

※注1:韓国における行政区画の最小単位。日本では町村レベルに当たる。韓国でこの一段上の区画は市・郡・区となる。

申請書を受け付けた邑・面・洞事務所では、発給対象者の本人確認を行い、指紋、写真のイメージ化を行った上で、画像資料及び関連資料を行政安全部の運営する住民登録電算情報センターへ電送する。

住民登録電算情報センターは、住民登録法を根拠として、行政安全部長官が住民登録業務などを処理する小官庁の電算情報資料を中央の全国単位で集合管理、運営し、市・郡・区長の要請によって住民登録証を発給するセンターである。電送された資料を受信したセンターは、既に住民登録されている資料を利用して変動事項を補完し、データベースに蓄積した上で、住民登録証を発給して本人に郵送する。

住民登録証は、当初はビニールケース入りの紙を使用していたが、1998年の一斉更新以降はプラスチックカード化がなされている。サイズの規格は横8.6センチメートル、縦5.4センチメートルとなっており、表面に収録されている記載事項は以下の6項目となっている。

(1)姓名 (2)写真 (3)住民登録番号 (4)住所 (5)発行日 (6)住民登録機関

裏面には、右親指の回転指紋及び住所変動事項が収録されているが、血液型に関しては、住民の申請がある場合、大統領令が定めるところによって追加収録することができるとされている。有効期間は記載されていない。

図2:住民登録証(左:表 右:裏)

図2:住民登録証(左:表 右:裏)

以上、見てきたとおり、住民登録番号の仕組みは至ってシンプルであり、他人の番号を盗用することも簡単に出来そうである。指紋認証までは求めない一般の商用のインターネットサイトで成りすましが社会問題化しているのも至極当然のことのように見える。また、身分証明を目的に作られている住民登録証は、その申請の際に提出される情報項目数が一般に身分確認のために必要と認められるものより明らかに多いと考えられる。特に悪名高いのは、10指に及ぶ指紋の採取で、国民を犯罪者扱いしているといわれても仕方のないこのやり方は、全世界でも例がないと言われており、韓国国内の市民団体の批判の的となっている。

住民登録など行政情報の共同利用:国家一元管理で国民利便と行政効率化に寄与

一方で、韓国国民の住民登録情報が一元的に管理され、他の行政機関との間で相互に情報を共同利用できるようになれば、行政手続が簡素化・効率化され、同時に国民に対する便益も向上する効果が見込まれる。

韓国では、行政事務の原則電子処理化を明記した2001年制定の「電子政府推進法」に基づき、約30億円を投資して行政自治部(現 行政安全部)の下に「行政情報共同利用センター」を国の組織として設立した。この共同利用の仕組みの中で、住民登録情報は、住民票や戸籍謄本・抄本などの証明書を生成する元となっており、他の行政機関への電子民願(電子申請)の際の添付書類として多用されることが想定されるものである。そこで、住民登録番号が付記されていれば、申請を受け付けた他の機関から住民登録電算情報センターの管理する住民登録総合DBを参照しにいき、登録を確認することが出来るため、添付書類の省略が可能となる。

このような仕組みで行政機関の発行する証明書のうち、住民票を含む42種類(最終目標は70種類)が行政機関相互の共同利用により省略されることとなり、全体の7割近い添付書類が既に不要になったと報告されている。2009年度にも添付書類の約7割、年簡約2億9千万件の書類を削減し、国民側では1兆6千億ウォン(約1600億円)の経費削減効果と、行政側では約1300億ウォン(約130億円)の公務員の業務短縮(人件費削減)効果が見込まれている。

韓国では2003年から住民票などの証明書を自宅のパソコンから印刷できる電子交付サービスが開始され、添付書類をネット上で入手することが、手続きの簡素化を図る上での一つの方向と目されていた。しかし、2005年に改ざんの問題が発生するというIT事故のため、サービスを1ヶ月間停止するということがあった。この停止期間中に改ざん防止対策が取られ、サービスは再開されたが、これを契機として証明書を発行するのではなく、行政間で持っている情報を直接やり取りする「行政情報共有化」の方向へと舵が切られていったというわけである。

住民情報の共有化の仕組み:住民登録番号と姓名の2つがキー情報

それでは、登録された住民情報がどのようなシステムを介して共有されていくのか見ていくこととしよう。全体のシステムのつながりは以下の図のようになっている。例えば、住民が住所変更をして住民登録の更新情報が入力された場合のことを考えてみよう。

図3:住民情報の登録管理と情報共有に関するシステムの全体概要

図3:住民情報の登録管理と情報共有に関するシステムの全体概要

  • まず、行政区の最小単位である邑・面・洞には端末だけが置かれていて、更新情報はここから入力される
  • 更新情報はその上位官庁である市・郡・区に置かれた「住民登録管理システム」の住民要約DBを更新・経由した後、ソウル市にある行政安全部の配下組織である住民登録電算情報センターにリアルタイムでつながる
  • 上記センターは全国の住民情報を一元的に蓄積している住民登録総合DBの構築や管理、住民登録証の発給や交付、及び住民登録証・番号の真偽確認などのシステム運用を行っている組織である
  • 但し、運用が行われる住民登録電算情報システムやその総合DBはソウル市ではなく、大田市にある政府統合電算第1センターに設置されており、遠隔運用となっている
  • さらに同センターは、光州市の政府統合電算第2センターにミラーリング形式で置かれたバックアップシステムの遠隔運用も行っている
  • 一方、同じくソウルの行政安全部の配下にある「行政情報共同利用センター」は、情報の共同利用業務を運営するために設置された組織であり、大田市第1センターにある「情報共同利用システム」と光州市第2センターにあるバックアップシステムとを遠隔運用している
  • 情報共同利用システムは行政機関のシステムを相互につなげるシステムであり、住民登録総合DBの住民情報が更新された後は、このシステムを介して他の行政機関のシステム(※注2)のDB、例えば国税のシステムの納税者DBの情報が更新されることとなる
  • このようなシステム間の情報の相互利用において、両者をつなげるキーとなっているのは住民登録番号と姓名の2つの情報となっている

※注2:図示はされていないが、やはり政府統合電算第1及び第2センターに設置されている

以上、見てきたとおり、住民登録情報の国家一元管理と情報共有はソウル市の行政安全部に置かれた情報処理電算組織である2つのセンターが地方からの住民情報を吸い上げて、大田市の政府統合電算センターに置かれた住民登録電算情報システムと情報共同利用システムを運用することによってなされていることが分かった。しかも国民側と政府側に生じる双方合わせた経済的便益は、これらのシステムに投下された投資額を大きく上回っており、採算の取れているものであることも分かった。

住民登録番号をめぐる動き:代替する個人識別番号が登場

韓国政府は、このように住民登録情報の国家一元管理と情報共有で行政部門では大きな経済的成果を挙げてきた。民間部門でも、手軽な本人確認手段として、Webサービスやオンラインゲームなどの加入時にごく普通に使われるまでに普及している。しかし、冒頭でも述べたとおり、民間部門での住民登録番号の利用は、セキュリティ上の問題を生じてきた。すなわち、国民の誰でもが持っているが故に、未成年が親の番号で成人サービスに加入したり、他人の番号を盗用して決済の生じるサービスの会員となったり、といった成りすましの問題や、あるいはWeb上で住民登録番号が大量に流出し、売買されるなどの問題が生じているのである。

このような問題への対処策として、2006年にはi-PIN(internet Personal Identification Number)、2007年からはG-PINと呼ばれる、住民登録番号とは異なる個人識別番号に代替して本人を認証するサービスが開始されている。

前者は情報通信部(現 行政安全部)と韓国情報保護振興院、後者は統合ID管理センターにより開始されたものだが、いずれもハッキングやIDの盗用、住民登録番号の漏洩といった事件への対処として、一定の本人確認の処理の後、住民登録番号とは異なる別の番号を付与して、本人を認証するサービスとなっている。i-PINは昨年の段階ではまだ普及が進んでいないとの報道がなされていたが、G-PINは2010年をめどに全ての公共機関に拡大する計画とされており、今後の成り行きが注目される。

日本への示唆

国連の電子政府ランキング2008年版では、韓国は北欧の3カ国や米国、オランダについで6位、日本は11位とされているが、今回報告した住民登録番号や情報共有への取組状況を見てみると、順位の差以上にその開きは大きいのではないかと思われる。国民の住民情報を国家で一元管理して、行政機関間で共有できれば便利であろうとは、発想は出来ても実行は、日本では相当に難しい。それが、隣国の韓国ではほんの数年で相当の進展を実現している。

ただ、この差も国家としての生い立ちを考えてみると、韓国では民主化が日本に比べて相当程度遅れてから進んだということに起因していたのかもしれない。80年代初頭まで軍部の独裁政権にあったことから、国民情報の国家による統制・管理が良きにつけ悪しきにつけ、進めやすかったということである。それが民主化の進んだ今、国家統制型の住民登録制度に国民の批判が高まり、住民登録証のICカード化がなかなか進まないなど、壁に突き当たりつつあるようにも見える。

日本では現在、社会保障カードや電子私書箱の実現に向けた動きが活発化してきているところであるが、これもまた国民の情報をどう管理して、安心・便利な社会をどう作るかということが論点となる。韓国の情報管理や共有化の考え方、その手法や推進力には学ぶところも多いはずである。今後の論点の検討の際には、是非参照していってもらえたらと考える次第である。

【2008年12月 執筆・編集:株式会社NTTデータ、株式会社NTTデータ経営研究所】

このページのトップへ
ワールドレポート トップへ